軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

とっても大人の会話

「お前たち、人を好きになったことはあるか?」

唐突に繰り出された質問に、イーストンとハルカは首をかしげる。すでに何度かグラスを空にした後だったが、リヴがひどく酔っているようには見えない。

見えないだけでとっくに酔いが回っている可能性はあるけれど。

ただリヴがコリンのように恋愛関係の質問を突然してくるようには思えず、答えに戸惑っていたのだ。

「まぁ、あるけど」

「そうですね、おそらく」

「曖昧だな。じゃあ誰かに命を救われたことは?」

「どうかな、危なかったところは助けてもらったけど」

イーストンが思い出すのは、ハルカたちと二度目に出会った時のことだ。吸血鬼たちからの思わぬ奇襲に血を流しながらも逃げていた時に出会い、治癒魔法をかけてもらったことがあった。

「えーっと……、ない……ですかね、多分」

一方でハルカは、これはまずいのではないかと思ったことは何度もあったが、今思えばきっとそれらはすべて命の危機ではなかったようにも思える。

「そうか。……俺はな、命を助けられたことがある。そいつのことが好きだった」

「なんか、意外ですね」

するりと言葉が出てきたのは、きっと酔いが回っていたせいだろう。普段のハルカだったら少し遠慮するところだ。

「俺もそう思う。俺とそいつは何の関係でもなかった。もしかしたら友人くらいだったかもしれないが、今となっちゃわからない。少なくとも恋人なんかじゃなかった」

その人物の容姿か、あるいは思い出を記憶の底から浚ってきているのか、リヴは一度口を閉じて窓の外をぼんやりと眺めた。

語り口調を聞いて、リヴがきっとその人物に恋をしていたのだろうということを、ハルカはなんとなく察した。色恋沙汰に疎いハルカが察するくらいだから、イーストンもまた、変な顔をしながら黙って続きを待つ。

「あいつには妻と子がいた。俺はそいつらの護衛をしていた。俺の気持ちがばれていたのか、妻の方にはあまり好かれなかったが、子供の方は結構なついていたな」

ハルカは懐かしい思い出を語るリヴを眺める。

額に角があっても、リヴのそんな姿はただの人でしかなかった。

「うちの国はな、昔から内輪もめが多いんだ。俺が好きだったやつもそれで死んだ。守れなかった。もっと強ければ、深く関わればと挑戦したこともあったが、より大ごとになっただけだった。どうやら俺は、政治的なことにあまり向いていないらしい」

ぼんやりとリヴの生きてきた道がハルカには見えた。

きっと後悔と努力、失敗と悲しみの繰り返しだったのではないかと思う。淡々とした語り口調は、かえってリヴの押し込められた感情を表しているようだった。

「俺のやることはいつも決まって裏目に出る。昔からそうなんだ、大切なことはうまくいったためしがない。なら黙って見ていればいいかとそうしてみれば、今度はあの時動いていればとなる」

長く生きていても悩み事は尽きないらしい。

ノクトの達観した考えや、クダンのぶれない信念ばかり見ているせいか、てっきりリヴもそうなのだとばかりハルカは思っていた。

ところがどうやらそうではないらしい。

ハルカが何かを決めるのにいちいち悩むように、リヴも悩んでいるのだとわかる。

「……少し安心しました」

「……何がだ?」

顔を上げてけげんな表情をするリヴに、ハルカは続ける。

「リヴさんくらい頼りがいのある人でも悩むことがあるのなら、私も少しくらい悩んでいてもいいかなと」

自分を仲間たちと比べて、決断力のなさや優柔不断さを嘆いているのは本当のことだ。だからこそ、表に出さないだけで、しっかりしたリヴのような人も悩んでいるのだと知れて、安心する気持ちがあった。

「でもできれば、リヴさんくらいしっかりしているように見られたいですねぇ……」

「もし俺がしっかりしていたら、あの子も悲しい目にあってない」

リヴがユーリの方を見てから目を伏せる。

きっとあの時こうしていればという思いが頭の中をめぐっているのだろう。今だけではなく、きっと事情を知ったときからリヴはそれを繰り返していたのかもしれない。

ハルカはそのことに関してリヴを恨めしく思ったことなど一度もない。

ただ肩を落としているリヴに対して、自然と思ったことを伝えていた。

「もしリヴさんが近くに居たら、きっとユーリを助けてくれたんじゃないでしょうか。私はリヴさんがそんな人だと思っています」

ただもし最初からリヴがいなかったらどうなっていたんだろうと、ハルカは目を閉じて考える。

サーヤが先王に見初められてなかったら、ユーリは生まれていない。

サーヤやシャナ、それにユーリが城できちんと守られていたら、ハルカたちはユーリと出会っていない。

その未来は、きっと今とは全く違う未来だ。

今はもう訪れた未来をよりよくするよう頑張ればいい。ユーリが、仲間たちが、笑って暮らせるようであればいい。

そんなことを伝えられたらいいと考えているうちに、ハルカの意識はそのまま暗転した。

椅子で首だけ傾けて器用に眠るハルカを見て、リヴは頬をかいてまた酒をグラスに注いだ。

「いい奴だなこいつ」

「まぁね、心配だけどね」

「お前、こいつのこと好きなのか?」

「うん、そうだね」

「付き合っているのか?」

「そういうのじゃないね。案外俗なことをきくね」

「聞いてみただけだ」

「そう」

そっけない会話だったが、互いに苦ではなさそうだ。

酔っぱらったハルカが起きていた頃よりも、会話のテンポがかなり速い。

「臆面もなく好きだと答えられるのは羨ましいな。俺も仲間が欲しくなる」

「一緒に来てみる?」

「やめておく。まだ帝国でやることがあるからな」

「そ、無理に誘ったりはしないけどね。そういえば【自由都市同盟】についてなんだけど……」

会話の中身は先ほどとは打って変わって現実的なものが多かったが、二人は穏やかなハルカの寝顔を眺めながら、それなりに楽しそうに会話を続けるのであった。