軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

今日の終わり

長く生きていると知りたくないこと、好きでないことも自然と耳に入ってくる。

リヴの知識というのはそういったものの積み重ねなのかもしれない。

「俺からの用事は済んだ。特に聞きたいことがなければ下がるが?」

本当に律義に連絡をしに来てくれただけらしい。

リヴにしてみればハルカたちは爆弾みたいなものだ。自分が目にかけているソラウや【グロッサ帝国】を気分次第でめちゃくちゃにできる存在。その扱いは慎重になって当然かもしれないが、関わり方に恐れなどはなかった。

ただ義理堅く誠実な人間性がそこに見えるだけだ。

折角知識があるものから質疑応答の機会が設けられているのだ、無駄にするのももったいない。

「答えられないことならいいんですが、遺物というのは結構見つかるものなんですか?」

「遺跡を巡っていると見つかることがある。冒険者にはそれを専門にしてるやつらもいるだろ? 遺物と一口に言ってもな、色々あるんだぞ」

リヴは椅子に深く腰掛け直して話をする体勢をとった。

雑談に付き合ってくれるらしい。

「遺跡から発掘されたものはすべて遺物だ。用途の分からないもの、ちょっと便利なだけってものもある。その一部に武器があるってことだ。武器は比較的古い遺跡に見つかることが多いな」

「遺跡を発掘する冒険者はそれを目的に?」

「いや、どうなんだろうな。探求心の強いものの方が多いんじゃないか? 金を稼ぐだけなら普通に冒険者をしているほうが儲かる」

途端にアルベルトの目がとろんとし始めた。冒険者関連の話をしているのでまだ起きていられるが、おそらくもう少し小難しい話を始めたら眠ってしまうだろう。ただ話に乗ってきたハルカはそれに気が付かない。

「実は私もこの世界の歴史には興味があるんです。遺跡の探索もしてみたいですが……」

「俺は専門家じゃないからよくわからん。しかしハルカはやはりオラクル教とは相性が悪そうだな」

「まぁ、確かに色々と思うところはありますが」

ただでさえ身内に知られてはいけない人物を大量に抱えている。この上オラクル教の教義に逆らうような歴史を発見しようものなら、完全に目を付けられることになりそうだ。

コーディは笑ってそれすら利用しそうだが、迷惑をかけすぎるのもよくないとハルカは思う。

「面倒ごとを避けたいのなら、何か見つけてもハルカの胸の内にとどめておくんだな」

「そうですね、わざわざ争いの火種を作りたくありません」

「賢明だ。もし協力者を得たいのなら、レジオン総学院ではなく、【自由都市同盟】にでも行くんだな」

「【自由都市同盟】ですか。確かカナさんって方が作った同盟だと聞いています」

「北方の冒険者なのによく知っているな」

アルベルトが完全に眠りに落ちたのと、モンタナが寝転がったのを横目に見ながらハルカは情報を思い出す。

最初に情報を出したイェットという少年は、詳しいことまで言及しなかった。とにかく近くへ来たら一度寄ってほしいというようなお願いをされている。

ハルカはその時のことを思い出してハッとする。もしかして今回は、そちらまで顔を出すべきだったのではないかと思ったのだ。

しかし、彼らと出会ってからまだ数週間しかたっていない。今訪ねたところで、イェットたちはまだ【自由都市同盟】に帰ってきてはいないだろう。

「ここと似ているが、もっと節操のない商人が多い。世間から弾かれてきたような人材もな。癖は強いが切れ者も多い。いつも騒がしい物騒なところだ」

「それだけ聞くとあまり訪ねてみたいとは思えませんね。行ったことがあるんですか?」

「まぁな、しばらく住んでた」

「あちこちにお家を持ってますね」

「あっちの家は引き払ってきたがな」

そのあとも取り留めのない話をしているうちにだんだんと夜が更けてくる。色っぽい話の一つもないせいか、いつの間にかコリンも眠ってしまった。

楽しい、というには語弊があるのだが、リヴと一緒にぽつりぽつりと会話をするのは悪くない時間だった。ただ穏やかに言葉を交わす時間が過ぎていく。

やがてイーストンがそっと扉を開けて戻ってきた。

「まだ話してたんだ」

「お前も混ざるか?」

ハルカと話をしていたことで気が緩んだのか、リヴが軽い口調で尋ねる。

イーストンとしても相手が胸襟を開いてくれたというのに、それを突っぱねるような理由はない。

「じゃあ、少しだけ」

「なら少しだけ待ってろ」

入れ替わりでリヴが立ち上がって部屋から出ていく。待ってろと言うからには戻ってくるつもりなのだろう。

イーストンが窓際の椅子に腰を下ろす。

それに倣ってハルカも場所を移動した。

月明かりに照らされた二人は何をしゃべるでもなくリヴを待っている。すでに無言が気まずい間柄ではないので、互いに窓の外を見てぼんやりと時間を過ごしていた。

ナギが頭を上げてきょろきょろして、また地面に伏せる。きっと夢でも見ているのだ。

ハルカがクスリと笑っていると、リヴが瓶とグラスを三つ持って戻ってくる。

「飲めるだろ?」

「うん、まぁね」

「……ええ、まぁ」

酒は飲まないようにしていたが、わざわざリヴが用意してくれたものを断るのも忍びないとハルカは頷く。

「岳竜の背からとれた果実で作った酒だ、それなりに強い」

注がれたグラスがそれぞれの前に置かれる。

グラスをぶつけ合わせることもせず、リヴが先にそれをあおった。二人もそれに続く。

とろりとした、舌がしびれるような度数の強い酒だった。

喉を通ると過ぎた場所がカッと熱くなる。

口から消えてから、甘い果物とスパイスのような香りが鼻を抜けた。

冷えているほうがうまいのではないかと考えたハルカは、魔法で作った丸い氷をグラスに落とした。

カラカラと音を立てて揺すってから口へ運ぶと、先ほどよりも少し飲みやすくなる。度数が高いのにいくらでも飲めてしまいそうだ。

「それいいな、俺のグラスにもいれてくれ」

「僕も」

「ええ、いいですよ」

カランカランと音がして丸氷が琥珀色の液体に沈む。

それぞれがもう一度喉にそれを通すと、ぽつりぽつりとまた静かな会話が始まるのだった。