軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

南方大陸とオラクル教

ハルカたちがのんびりしている部屋にノックの音が響く。訓練も終わってあとは眠るだけの時間だ。ユーリはもう眠っているし、レジーナも目を閉じている。

「どうぞ」

この時間に訪ねてくるのはリヴくらいなものだろう。ハルカが確認もせずに入室許可をすると、予想通りリヴが姿を現した。

ちなみに草むしりの傭兵たちは、日が完全に落ちたところで家へ帰した。まだ全体の三分の一くらいしか終わっていないので、明日引き続き作業をしてもらう予定だ。

これはコリンが強制したわけではなく、本人たちからの申し出によるものだ。約束はちゃんと守ろうという意志があるらしい。

「帰ってきたとき居た奴らは傭兵か?」

「ええ、すみません勝手に敷地に入れてしまって」

「別にそれは構わない。この辺の奴らに伝手でもあったのか? 別に泊まってるからって気を使って草むしりなんかさせなくていいぞ」

「あー、違うんです。私の勧誘をしにきて、レジーナと一悶着あったらしく……、成り行きでああなりました」

「成り行きでああはならないだろ、変な奴らだな。どうせ綺麗にしてもしばらくしたら草だらけになるぞ。俺もずっとここにいるわけじゃないからな」

特に怒ってるわけでも咎めているわけでもないらしい。椅子をひいて腰掛けると、リヴは小さく笑った。

「屋敷は綺麗にするのにどうして庭はほったらかしなんですか?」

コリンがずっと気になっていたことを尋ねると、リヴは腕を組んで考える。

「……いや、だって庭は使わないからな」

「使わない……?」

コリンが首を傾げると、さも当然かのようにリヴは説明をする。

「だから、屋敷には寝泊まりするが、庭は通り過ぎるだけだろう。綺麗にしておく必要がない」

それはそれで独特な価値観だ。人に変わった奴らだと言う資格はない。

ハルカたちが変な人だと思いながらも口をつぐんでいると、その微妙な空気を察したのか、リヴは咳払いをした。

「そんな話をしにきたんじゃない。一応これからどうするかお前らには伝えておこうと思ってきた」

「……これからというのは?」

「エトニアのことだ。関わったのだからこれからどうなるのか気になるだろう」

「聞いてもいいんですか? もし協力が必要という話でしたら、それはそれで考えますが……」

「いや、協力は今のところいらない。ソルカスが言ってただろ、その時はちゃんと頼むと。説明は巻き込んだお前らへの最低限の義務だ。聞きたくなきゃ聞かなくてもいい」

せっかく教えてくれるというのだ、聞かない手はないだろう。ハルカたちは目配せしてからうなずいて返答する。

「聞かせてください」

「わかった、簡潔にな。まず南方冒険者ギルドの有力者に協力を仰ぐ。【鵬】とはあまり縁のない奴に限られるがな。帝国からは国宝の遺物を持たせて、個人戦力の高いものを派遣する形になるだろうな」

「こっそりやることになるんでしょうか?」

「……【自由都市同盟】の冒険者を借りるなら、吸血鬼が絡んでいることは公にしないかもな」

【自由都市同盟】は以前拠点付近に来たイェットたちが所属している国だ。遺物を使って姿を誤魔化しているラミアが同行していたのをハルカは覚えている。

「戦力は集まりそうなんでしょうか?」

「なんとかなるだろ。金払いさえ悪くなければ手を貸す奴なんていくらでもいる」

「僕たちに頼まないのはなんでだっけ?」

夜になってますます赤い瞳が目立つイーストンが尋ねる。

「……目立つからな。お前らに手を借りると【グロッサ帝国】は【ディセント王国】や【独立商業都市国家プレイヌ】に、【南方冒険者ギルド】は【北方冒険者ギルド】に借りを作ることになる。ソラウやソルカスが気にしないとしても、内部にはそれを綻びと見てつけ入ろうとするものがいる。つまらない権力争いや意地のせいだ」

「僕を疑ってるからじゃないってことね。そんなに正直に言っていいの?」

「いい。俺にとってはくだらないことだ。それにお前ら相手に真実を濁すつもりはない」

「政治にむいてなさそうだよね、君」

「なさそうじゃない、はっきり向いてない」

真面目な顔をしていたイーストンは、はっきりと言い放ったリヴに肩をすくめた。肩の力を抜いて苦笑気味だ。

「僕のせいで彼らの機会を奪っているわけじゃないなら、ま、いいかな」

「そんなこと気にしてたです?」

「吸血鬼との戦いはいい経験になると思ってね。僕が訓練に付き合わなきゃいけない日も減りそうだし」

「吸血鬼と戦うならもっとイースと手合わせする日増やすからな、ちゃんと付き合えよ」

「……今回は行かなくていいらしいからね。僕は庭の散歩でもしてくるよ」

アルベルトの誘いをかわしたイーストンは、部屋の真ん中を歩いてそのまま部屋から出ていく。半分吸血鬼のイーストンは夜に体を動かす方が調子がいいのだ。

「お前らみたいだと、北方大陸は暮らしづらいんじゃないのか?」

「どういう意味です?」

「北方はオラクル教の影響が強いだろ。あいつの素性がバレたらかなりまずいんじゃないのか」

「……まずいとは思いますが、そんな簡単に気付かれますか?」

「少なくとも俺は【神聖国レジオン】には行きたくない、面倒そうだ」

「南方ではオラクル教の影響が薄いんです?」

「若干な。特に小国群なんかは知ったこっちゃないってとこだろう。表向きはいい顔しているようだが」

そうなると最南端にあるダークエルフが住む大森林なんかは、当然オラクル教から全く目が届かない地域になるだろう。

ハルカが奇異の目で見られるのにはそんな事情もあったのかもしれない、

「まぁ、あれこれ聞かれても俺はよくわからない。政治とか思想の話はあまり好きじゃないからな」

話したくないというより、本当に苦手なのだろう。珍しく少し困ったような顔をして、リヴは目を逸らした。