軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

差し入れ

「ちょっと休憩しませんか? 食事もしていないでしょうし」

日が落ちてきたころ、ハルカは草むしり部隊へ声をかける。折角たくさんいるのだからと、普段は買おうか買うまいか迷うような食べ物まで買い込んできたのだ。彼らの姿がなんとなくオランズのトットたちと重なってしまい気になっていた。

ハルカが来るのと入れ替わるように、やってきたモンタナがナギに声をかけ、背中に乗って街の外へ向かう。そろそろナギもご飯を探しに行くのだろう。

普段草むしりをすることなんてないだろう傭兵団の男たちは、腰をたたいたり足をさすったりしながらよろよろと寄ってくる。疑うような視線を向けている者が数人いたが、数人が猛然と食べ始めると、それに続いて手を伸ばした。

「……鞭と飴与えて傭兵団の乗っ取りでもするつもりで?」

ハルカの横までやってきたボンドが、片手にハンバーガーのようなものを持ちながら尋ねてくる。もうどうにでもなれという気持ち半分、未来を憂う気持ち半分というところだ。

「そんなつもりはありませんよ。私たちの拠点は北方大陸ですから、あと数日もしたら帰路につきます」

「そんじゃ安心していただくか……。それにしてもあんたの仲間は大したもんだな、傭兵になったって十分やってけるぜ。国の一つでも立ち上げられそうだがな」

すでにリザードマンたちの王にされてしまっているのだが、そんなことは態々言わない。苦笑しながらハルカは果実水をあおった。

「傭兵の方の最終目標は国を立ち上げることなんですか?」

「ああ、多くはな。南の小国群はそうやって国が増えたり消えたりしてる。優秀な治癒魔法使いさえ手に入れば夢に一歩近づくと思ったんだがな」

そう言ってからボンドは左右を素早く警戒して誰も近くにいないのを確認する。

「……さすがに諦めたが」

「まぁ、私は冒険者ですからね」

「そうか。冒険者の目標ってのは何なんだ?」

「人によりますよ」

「じゃああんたは?」

「……なんでしょうね。今は世界中を回って、色んなものを見てみたいです。あとは、仲間たちが楽しそうに暮らすのを見ることでしょうか。ユーリが元気に育っていくのも楽しみですね」

隣に座っている黒髪をなでると、ユーリがくすぐったそうに目を細める。

「そりゃなんつーか、平和だな。冒険者には階級ってのがあるんだろ、その頂点を目指すとか、ギルドのまとめ役になるとかそんなんじゃねぇのか」

「ないですねぇ、そういう夢は。偉くなっても胃が痛くなるだけだと思います」

前者の方はすでになっているのだが、そんなことは態々言わない。

「変な奴だな、そんなじゃきっと、勧誘しても了承しなかったんだろうな。傭兵は血煙の中にいるからこそ傭兵だ」

「そうですね、人と戦うのはあまり好きじゃありませんし」

散々思い知らされた後なのと、穏やかな空気に当てられて、ボンドはすっかり何かしてやろうという気はなくなっていたが、あまりのんびりとしているハルカの態度に眉を顰める。

「……もうやりゃあしねーけどな、あんた油断しすぎだろ。あんた魔法使いなんだから、仲間がそばにいないのにさっきまで敵対してたやつの近くに寄るもんじゃねぇぞ。そっちの坊ちゃん、ユーリって言ったか? そいつを人質に取られたりしたらどうすんだ」

「一応、ちゃんと気を付けてますよ」

「気を付けてたってこの距離だぜ、こうやって手を伸ばしたら……なんだこれ?」

素早く手を伸ばしたボンドの手が見えない壁に阻まれる。

「魔法ですよ、よほどの攻撃でなければ通りません」

「あんたもあいつらの仲間ってことか。うちの魔法使いは前に出れねぇからな、あんたみたいなのが居りゃ戦略も広がるってもんなんだが……」

話をしてみれば巨躯の強面の割に話が通じる。

レジーナが悪いとは思わないが、もうちょっと出会い方がましだったら別の関係もあったんじゃないかとハルカは思う。思えばこの世界に来たばかりの頃、トットにも絡まれたことがあったが、関係さえできてしまえば相手の良い部分も見えてくる。

ただ肩を張らず正直にいい人として生きていくには、この世界は少し厳しいのだろうとも思った。傭兵や冒険者をしている彼らは、そんな生き方を選べなかったのだ。

「にしても、ダークエルフなのによくそんな平和な性格してるよな」

「ダークエルフにお会いになったことが?」

「お会いしたことはねーよ。一方的に射かけられて逃げ出したことならあるが。あいつらの暮らす大森林近辺は小国群の中でも空白地帯なんだよ。あいつらが排他的で攻撃的だから近づけねぇんだが、自分ならって勘違いした奴が攻め込んで死ぬ」

「そこまで知ってて助力したんですか?」

「その国の報酬はしょっぱかったが、その国を煩わしく思う他の国からの報酬があったからな」

よほどの戦国時代らしい。傭兵を雇っても必ずしも味方とは限らないということなのだろう。報酬をケチったのが運の尽きだったのかもしれない。

「でも二度と行かねー。攻めるふりして退こうとしたのに、魔法使いが二人、前衛が五人も殺された、割に合わねーんだよ。……今回ここに勧誘に来たのも割に合わなかったな、ったくやってらんねーぜ」

「すみませんね、なんだか」

「俺の判断が悪かった、それだけだ。あの怖い嬢ちゃんも活動できなくなるまで追い詰める気はなかったようだし、不幸中の幸いってやつだ。戦場だったら根こそぎ奪われてる。……さて、もう一仕事するか」

腰をたたきながら誰よりも先に立ち上がったボンドは、草むしりを再開しに行く。

その途中で振り返り、ハルカに尋ねた。

「あんたらとんでもなく強いが、参考までに階級教えちゃもらえねーか?」

「私は……一応特級冒険者になりますね」

これを伝えるのにも慣れなければならないなと思いながら伝えると、ボンドは空を仰いだ。

「これからもうちょっと情報を集めてから動くようにするぜ。やっぱり今回は運が良かったってことなんだろうな。特級冒険者に手を出して二度と顔を見ない傭兵団なんてごまんといるからな。おいお前ら! 飯食ったらさっさと続き始めんぞ!」

ボンドの号令に男たちは慌てて口に食べ物を詰め込んで、咀嚼しながら駆けていく。荒々しく浅慮に見えたボンドも、傭兵団の頭としては割と慕われているのかもしれない。

ナギの代わりに、ハルカはユーリと一緒に彼らの奉仕活動を見守るのであった。