作品タイトル不明
遺物
「話すからには、これから敵対行動はなしで頼むぜ。それが約束できないんだったら話せねぇ」
表情を引き締めたトルスに忠告をされ、ハルカたちは顔を見合わせる。
そもそも相手方から攻撃してこない限り、トルスたちをどうにかしようなんてつもりはまるでない。昨日絡まれていなかったら知り合いもしなかっただろうし、今日来ていなかったら二度と会話を交わすこともなかっただろう。
「もとより、あなた方が敵対してこなければ、私たちから仕掛けたりしませんよ」
「……そいつは話し合いに来た俺に攻撃してきたぜ」
「出てけって言ってんのに入ってきたからだろ」
「……話を蒸し返すのは止めましょうか」
ハルカとしてもレジーナの判断が間違っていたとは思っていない。間借りしている身で、知らない武装した一団が乗り込んできたら、撃退するくらいはしてもおかしくないはずだ。それも家主が目的ではなく、ハルカとの交渉が目的だったのだ。
リヴにまで迷惑をかけるのは違うだろう。
「まぁ、約束してくれんならそれでいいけどよ。……そうさな、あれは俺がそこの坊主よりはちっとばかし育った頃の話だ」
顎をしゃくってユーリを示し、トルスは思い出すように目を閉じた。
「俺の親父はな、冒険者だったんだ。父一人、子一人、それから仲間が何人か。ここからずっと南西にある山に住む、雷鳥ってやつを仕留める依頼を受けたのさ。ちょっとした事件があってな、親父は死んで、俺はそこで一人生き残った。この剣は、あの山にあった小さな鍛冶場から俺がくすねてきたもんだ」
トルスは剣の柄頭を爪で弾く。
「俺があれを使えるようになったのは、ほんの数年前のことだ。剣の腕を上げて、身体強化を覚え、剣に魔素を纏わせたその時のことだぜ。それまで俺は、ただの切れ味のいい丈夫な剣だとばかり思っていたんだがな」
「……なぜそれに気がついたんです?」
「魔素を纏った瞬間、いやな音がして剣が光りやがった。雷鳥の巣でみた光と一緒だった。あいつらが光ると同時に体に痺れるような痛みが走りやがる。同じものなら、俺が切り札として持っていてもいいだろう?」
語っていないことは多くありそうだが、知りたい情報は聞き出せたというところだろうか。
「ふーん、なるほどね。……その鍛冶場ってまだあるの?」
「知らねぇよ。あんな目にあった場所二度と行きたくねぇしな。今でも鮮明に思い出せるけどな、誰かが住んでいるような匂いはしなかったぜ。入口もほとんど土で塞がってやがったしな」
山の中に鍛冶場があるというのもおかしな話だ。きっと昔の時代の遺跡というやつなのだろう。
そうなると断然ワクワクと目を輝かせているのがアルベルトだ。
「行ってみてぇなぁ、そこ。雷鳥とかいうのもみたことねぇし」
「止めとけ止めとけ。あいつら生態がよくわかんねぇんだよ。普段は一匹ずつでしか行動しねぇくせに、俺の親父が死んだ時は馬鹿みてぇに群れてたしよぉ」
「でもみたことねぇしなぁ。な、そのうち行こうぜ」
「僕もその鍛冶場気になるです」
「はいはいモン君までそんなこと言って。そのうちね、そのうち。あと半月でカロキアに戻らなきゃいけないんだから、新しい用事増やさないでよね」
雷鳥ってどんな姿をしているのだろうと想像していて、行ってみたいというのが少し遅れていたハルカは、コリンの宥めるような言葉を聞いて目をそっと逸らした。
するとイーストンと目が合い、ふっと笑われる。
「まぁ、分かるけどね。僕も見たことないし」
アルベルトとモンタナに向けられた言葉のようだが、おそらくこれはハルカに向かっての言葉だ。
「そうですね……。また時間ができたら行ってみることにしましょう」
すました顔でその場を凌いだハルカである。
「人の忠告なんか聞いちゃいねぇな。で、これで帰っていいのかよ」
「あ、待って待って」
トルスが呆れ顔をして腰を浮かしかけたのをコリンが制止する。
「なんだよ、まだ何かあるのか?」
「うん、ついでにさ、なんで冒険者と傭兵が仲悪いか教えてくれる?」
ポーチからの意見、つまり冒険者からの意見は聞いたが、傭兵側の言い分は聞いていない。せっかくだから情報収集しておこうというのだろう。抜かりがない。
「個人的に冒険者が気にくわねぇ理由はあるが……、それは置いとくにしても、仲が悪い理由はあいつらが偉そうにしてるからだろ。結局金で働いてるくせに、こっちのことを妙に蔑んできやがる」
「なぜでしょうか?」
「さぁなぁ、あいつらは自分たちこそこの街を守ってると思ってるんだろうぜ。傭兵は傭兵で、この街を巻き込むような戦争には手をかさねぇって不文律があるんだがな。……あとはまぁ、傭兵が暴れて故郷を失ったような奴もいるんじゃねぇのか? 知ったこっちゃねぇがな」
嫌いだといい、傭兵としての立場を守っているくせに、やけに冒険者サイドの話に詳しい。そういえばと思ったハルカは尋ねてみる。
「トルスさんのお父さんは冒険者……」
「ちょっと待った、その話はしたくねぇんだ。勘弁してくれ」
手のひらを前に突き出したトルスは、はっきりと冒険者であった父親に関する話を拒絶した。
「さっきは話の都合上仕方なく話題に挙げたが、思い出したくもねぇ話だ。あんたら冒険者の前で言うことじゃねぇが、俺は大概の冒険者ってやつを信用してねぇ。だからってべらべら余計なこと喋って、あんたらに嫌われたいとも思ってねぇんだよ。だからこの話は勘弁してくれ」
「……失礼しました。質問は忘れてください」
「すまねぇな。……さて、今度こそ」
「あ、そうだ」
再び腰を浮かしかけたトルスを、またもコリンが呼び止める。
「なぁんだよ、まじで!」
「あそこで気絶したふりしてるお仲間たちいるでしょ」
「仲間じゃねぇよ、【旋風団】なんかと一緒にしないでくれ」
「ごめんごめん、で、あの人たちはお金を請求したらトルスさんみたいにちゃんと戻ってくると思う?」
トルスは眉を上げて悪い笑顔をしてみせた。新入りの商売敵はちゃんと頭を叩いとくに限る。
「いーや、絶対戻ってこないね! 直接出向いて根こそぎ徴収したほうがいいと思うぜ」
「わかった、ありがとー!」
「おい、くそが! トルス、後でぶっ殺してやるからな!」
わざわざ大きな声で言ったトルスの言葉が聞こえたらしく、狸寝入りをやめた【旋風団】の団長が叫ぶ。
「執念深い奴らだから、しっかり立場わからせてやったほうがいいぜ!」
「へー、そうなんだ」
「おい、やめろトルス! 妙なこと言うんじゃねぇ!」
「じゃ、俺は帰る。部下たちにはあんたらと敵対しないよう、よく言い含めておく。なんかあったら訪ねてきてくれてもいいぜ」
トルスはそんな別れの挨拶をしてから、縛られた男たちの方へにんまりと笑顔を向けて帰っていくのだった。