作品タイトル不明
次のステップ
トルスの得体のしれない攻撃に対して、ハルカたちは二つの見解を出した。
一つはハルカの想像した通り、トルスが身体強化と魔法を同時に使っているという説。
そしてもう一つは、トルスがなんらかの特殊な武器を使用しているという説だ。
「たまにあるんだよね、遺跡や秘境から見つかる特殊な力を持った武器が。モンタナなら知ってるんじゃない?」
「そですね、噂は聞いたことあるです。今の時代の鍛冶屋も、腕や素材によっては特別な効果を持った武器を作れることがあるですよ」
イーストンから話を振られたモンタナが、鍛冶屋の息子らしい答えを返す。モンタナの父親も相当な腕前だ。小さなころは工房に入り浸っていたモンタナだ。そんな武器が誕生する瞬間も見たことがある。父が打った渾身の一振りが、魔素を取り込み光り輝く様をモンタナはしっかりと覚えていた。
「うーん……、お金持ってきたら情報聞き出してみる?」
「そうですねー……、聞き出せるようならそうした方がいいでしょう。知らないことがあると不意を突かれますから」
「だよなー。レジーナが怪我するくらいだからな」
あえてハルカが言わなかったことを無遠慮に言ってのけたアルベルトを、レジーナが睨みつけて立ち上がる。
そして少し離れた場所で素振りを始めてしまった。余計なことを言ったアルベルトは「俺も訓練すっかな」と言って立ち上がる。
「アルのその大剣も、ちゃんと魔素が込められてるです。どんな力があるかは知らないですけど」
「まじかよ! ……でも、どんな力かわかんねぇんじゃなぁ」
「剣の名前は 貪狼(どんろう) 、でしたっけ」
「クダンさん探して聞いてみたらー?」
「……いや、使ってればそのうちわかるだろ」
少し悩んでから首を振ったアルベルトは、立ち上がると大剣を抜いてその刃をまじまじと見つめる。見つめたところで何かがわかるわけではないのだが、真剣な顔をしているので誰も茶化したりはしない。
一方でハルカは、モンタナやクダンの武器の話を聞いて、はっと思い出したかのように古びた手帳を取り出す。その後ろの方をぺらぺらとめくって、ぴたりと止めると頬をかきながら口を開く。
「……すみません、魔法の武器の話は私も聞いたことがありました。師匠と初めて出会った頃、吸血鬼と戦ったことがありましたよね。それでアンデッドや吸血鬼に効果的な武器の話を聞いていたんです。ちょうどクダンさんもそこに同席していて……、急に思い出しました」
「武闘祭の頃の話かな?」
「はい。吸血鬼と対峙したという話をして、助言をいただいたんです」
ハルカの説明を聞いてコリンは首をかしげる。
「……んー、でもその話ちょっと変だよ? モン君によれば、アルが持ってる【貪狼】は魔法の武器なんでしょ? でもこの間吸血鬼を斬ったとき、効果がなさそうだったよ?」
「……それは、変ですね。でも師匠が意味もなく噓をつくとは……、あ、いえ、つくかもしれませんが、戦いに関することでそんないい加減なことは言わないと思います。それにあの時は隣にクダンさんもいましたし」
「そうだよねー……、クダンさんがいい加減なこと言うはずないしー」
コリンが頬杖を突きながらつぶやくが、それはノクトがいい加減だと言っているようなものだ。割と真面目にものを教えているはずなのに、誰も突っ込みを入れないのが哀れだ。普段の行いというやつなのかもしれない。
「他に何か言ってなかったですか?」
「えーっと……、ああ、吸血鬼へは武器への魔素の付与も有効だと……。あれ、おかしいですね、だとしたらそれもしているはずです。武器に傷がつかないよう、みんな武器を強化する〈纏い〉を使っているはずですよね? あれは武器への魔素の付与ではないんでしょうか?」
「魔素の付与には違いないはずです。でも吸血鬼を斬っても効果がないです」
「何か勘違いしているんでしょうか……? 師匠は魔法の専門なので、魔素の付与などについてはあまり詳しくないと言っていました」
「うーん、吸血鬼と因縁もできちゃってるし、早めに知りたいよねー……。よし! やっぱりトルスさんからは何としてでも話を聞き出そう!」
「ですね、その方がよさそうです」
方針は決まった。
まだまだ知らない技術があることに気が付いたハルカたちは、どうにものんびりしていられなくなって、みんなして訓練を開始する。
イーストンだけは積極的に動くことがなかったが、座り込んで剣を抜き何やら考え込んでいるようだ。
途中で買ってきた昼ご飯を摂って、訓練を続けていると、不意に門の外から声が響く。
「おーい……、うおっ、なんだよ、睨むんじゃねぇよ」
今度は少人数でやってきたトルスが、ハルカたちに一斉に視線を向けられて怯む。
「中へ入ってください!」
待ってましたと言わんばかりの妙な歓迎ムードに、トルスは警戒しながら門を開けて庭へ入ってくる。また難癖付けられてひどい目に合わされるのではないかという不安が頭をもたげる。
「なんだよ、気味が悪ぃな……。金なら持ってきたぜ、もう勘弁してくれ」
「うん、とりあえずそれはこっちにちょうだい?」
ジャラジャラと音のする大きな袋を受け取ったコリンは、紐を少しだけ緩めちらりとだけ中をのぞき、またすぐに口を閉じた。
「で、ちょっと話があるんだけど、いい?」
「これ以上の出費は勘弁だぜ」
「ううん、むしろ返答によってはこの中のいくらか返してあげるかも」
トルスは疑うような視線をコリンに向けながらも、ハルカたちに倣ってその場に座ってあぐらをかいた。
「……なんだよ。ちゃんと誠意は示したつもりだぜ」
「うん、で、聞きたいことがあるんだけど……、モン君お願い」
武器に関することなので質問者を変更する。
トルスが来たらそうしようと決めていたので既定路線だ。
「さっきレジーナと戦った時、痺れるような感覚があったって聞いたです」
モンタナの語りはじめを聞くと、トルスの目がすっと細くなり、表情が引き締まる。戦闘手段や戦法は戦いを生業にする者にとって、安易に踏み込まれたくない部分だ。
それをわかっていながらも、モンタナは平然と続ける。
「普通身体強化と魔法は同時に使えないです。だとしたら、その時に何をしたのか、それを聞きたいです」
「答えるわけねぇだろ」
「僕たちは、その武器が特殊な武器だとみてるです、違うです?」
「……おい、ホントに勘弁しろよ。そんな話、その金丸々返してもらわない限り割に合わねぇぜ」
トルスは吹っ掛けたつもりでいた。
この冒険者たちと二度と敵対するつもりはなかったし、もし話すのであれば最低限傭兵や諸国へ情報をばらさないように口留めをするつもりだ。
自分の身内の幾人かは知っている話だし、自分より圧倒的に強い冒険者が、力ずくで聞き出そうとしたなら隠すことなどできない。もちろん知られたくはない情報ではあるが、軽い交渉のつもりで言ってみた形だ。
「ふーん、じゃ、返す。だから噓なく教えてよね」
「は?」
「だから、これ全部返すから、一切嘘つかないで本当のこと教えてって言ってるの」
あまりにあっけなく条件をのまれて、トルスは突き返された袋を受け取るのを少しためらう。
しかし、結局トルスはその金貨袋を返してもらうことにした。
結構本気で悩んで、団を運営するために貯めこんだ最近の稼ぎを丸ごと持ってきたのだ。無理やり持っていかれたものを返してもらっただけだったが、なぜだかトルスはちょっと得をしたような気分になっていた。