作品タイトル不明
きっかけ
気を取り直したトルスが仲間たちに声をかけて立ち去っていこうとする背中にコリンが声をかける。
「ね、この倒れてる人たちは持って帰らないの?」
「ん? いや、こいつら【旋風団】の連中だからな、俺は知らねぇよ」
「ふぅん、レジーナ、この【旋風団】の人たちって何しに来たの?」
「知らねぇ」
「はは、どうせこいつらも俺と同じハルカさん勧誘だろ」
「なんで?」
「なんでってそりゃ、優秀な治癒魔法使いなら欲しいに決まってんだろ」
「そうじゃなくてー、なんでハルカが、治癒魔法使いだって知ってるの?」
「……そいつが、噂を流しやがったんだ。俺たちに先に行かせて、割り込む気だったんだ。そうじゃなきゃそんなに仲間を連れてきっ……」
目を覚ました【旋風団】の団長が震える腕を上げてトルスを糾弾する。その途中でトルスの足が閃き、再び男は気を失った。
ほんの少しの沈黙ののち、トルスは軽く片手をあげる。
「じゃ、そういうことで」
「そういうことでじゃねぇよ」
退路に立ちふさがるのは、ユーリを後ろに隠した男連中三人だ。ほかの二人はとっくに準備万端だったが、イーストンだけはダルそうに剣を抜いている。
「うん、ちょっと待ってね」
しかしそんな三人に制止をかけたのは意外なことにコリンだった。油断なく構えるトルスに近づいてにっこりと笑う。
「もしかしたらそこのおじさんが噓言ってるかもしれないし、まるっと信じるのはよくないよね」
「……話が分かるじゃねぇか」
「うん、だからその件についてはそっちのおじさんから後で詳しく聞くんだけど……、トルスさん、忘れてることありませんか?」
「忘れてること? なんだそれ」
「治療費、貰ってないなーって」
「…………勝手に治したんだろ」
「うん、じゃ、勝手に治しちゃったから元に戻した方がいい?」
「元に?」
「うん、勝手に治しちゃったんだから、元の状態に戻した方がいいよね。それから勝手に人の家に入り込んで武器を振り回したこと、ここの偉い人に通報するね。レジーナー、この人もう一回元の状態に戻してほしいって」
「めんどくせぇな」
そう言いながらも首を左右に曲げてから武器を構えたレジーナを見て、トルスの頬に冷や汗が一筋伝った。
「……待て、待て待て。払うぜ、治療費。治してもらったんだから当然だよなぁ」
「団長、やばいですって、この女にそんなこと言ったら尻の毛まで……」
「そこの人さ、護衛料まだ?」
余計なことを言おうとした男へ笑顔のコリンが視線を向ける。
「えっ、昨日はもういいって」
「あの場ではもういいって言っただけなんだけど」
「だ、団長……!」
助けを求めても無駄だ。もはや団長も同じ獲物でしかなくなっている。
「で、いくら払えばいいんだよ。今は持ち合わせあまりねぇぞ」
「トルスさん、全治三か月くらいの、あなたの治癒代金っていくらなの?」
「…………一度拠点に戻ってもいいか?」
「いいですよー。……傭兵って信用が大事な仕事ですよね?」
「ったりめぇだろ! 安い脅しかけてくるんじゃねぇよ! お前ら、引き上げだ!」
ゆったりと歩き出したトルスは徐々に早足に、そしてついには駆けだして、声が聞こえなくなったであろうあたりで人の目も気にせずに叫んだ。
「くっそがぁ! 足元見やがってあの女ぁ!」
「今回の旅行代くらいは軽く稼げそう。ハルカ! 買いたいものなんでも買ってね!」
「あ、いえ、普段から欲しいものは買ってますし……」
「お洋服とか新しいの買おっか!」
「いえ、今着ているのが気に入ってるので」
「そっかー、レジーナは?」
「…………追いはぎみてぇ」
「え、なに?」
「なんでもねぇよ」
ぼそりとレジーナが呟いた言葉を聞いたのはハルカだけだった。
男たちは黙々と【旋風団】の連中を縄で縛っている。これもお金に代わる予定なので多少面倒でも文句はない。
「それにしても……、レジーナが怪我をするなんて、トルスさんって結構強いんでしょうか?」
「弱くねぇけど、剣ならあいつらの方が使える」
男たちを見ながらレジーナは不満そうな表情だ。
「ただ、変な魔法を使った」
「魔法……? 身体強化をしない人だったんですか?」
「してた。だから余計警戒してなかった。剣に魔素が通されたら、一瞬体がしびれた」
「痺れた……? えーっと、遠距離でですか?」
「違う、あいつの剣とあたしの武器がぶつかってる時だ」
ハルカは目を伏せて状況を考える。
体がしびれると聞いて、パッと思い浮かぶのは感電だ。筋肉にも作用するから突然食らったら一瞬の硬直はあり得るだろう。
【雷鳥の気まぐれ】の【雷剣】トルス。
なんらかの方法で魔素を電気に変えていると考えるのが妥当だろう。
ハルカは自分のことを棚に上げて、魔法と身体強化を実戦で同時に使ったトルスに驚いていた。
ハルカに魔法のことをいろいろ教えてくれた神聖国レジオンの双子によれば、その道の研究者は『身体強化と普通の魔法を同時に発動させるくらいなら、頭に乗せたコップの水をこぼさないように全力疾走しながら両手でジャグリングするほうがまだ楽』と言い放ったそうだ。
もしかしたらこれは結構大事な情報なんじゃないか。
そう思ったハルカは、お金、もといふんじばった【旋風団】の男たちを笑顔で眺めているコリンと仲間たちに声をかける。
「ちょっとトルスさんに聞いてみたいことができました。皆もこちらに集まってください」