作品タイトル不明
威信
ソルカスから街に戻りながら話すことを提案され、ハルカたちはそれに従うことにした。グルドブルディンが眠ってしまった以上ここにとどまる理由はない。
一応街の決まりで、許可がない限りこの近辺への立ち入りは禁じられている。ソルカスさえいればそんな決まりはどうにでもなるが、ギルド長とはいえ街の全権を握っているわけではない。
あとでほかの諸勢力から痛くもない腹を探られるのはごめんだということだった。
時折すれ違う冒険者と気さくにあいさつを交わしながら、 岳竜(グルドブルディン) の近くを歩いて街へ戻る。
「日中変な声がしただろう? それが気になっている人が結構いたみたいで、君たちが空を飛んでいくのを見たというんだ。そうして冒険者ギルドに駆け込んできてくれたおかげで、君たちを見つけることができたわけだね」
「空を飛ぶなんて聞いたらお前らのことしか思い浮かばなくてな。まさか岳竜に語り掛けられていたとは思わなかったが」
「私も驚きましたが……、のんびりとした方でした。数千年、もしくは数万年は生きていらっしゃるようです」
「……想像がつかない。改めて生物としての格の違いを感じるよ」
ソルカスが歩きながら岳竜を仰ぎ見る。その眼には確かな敬意が宿っているようにみえた。
「ソルカスさんはこの街のご出身ですか?」
「うん、そうだね。とはいえ現役の冒険者の頃は街にいることの方が珍しかったけれどね」
「ギルド長になってからは街に?」
「そうだね、結構忙しいんだこの仕事。みんなが手を貸してくれるから何とかこなしているけれど、今回のような騒動は勘弁してほしいね」
「ご迷惑をおかけします」
真夜中にわざわざ足を運ばせて申し訳ないと頭を下げると、ソルカスはきょとんとした顔をしてから笑って首を振った。
「あ、はは、違うんだよ、勘違いさせてしまったみたいでごめんね。僕が言ったのはほら、エトニア王国のことさ」
「あっ、ああ、そちらの話でしたか」
「うん、でもまぁ、何とかするよ。……管轄の冒険者もやられているからね」
静かに、しかしはっきりとした決意をもって述べられた言葉だった。今まで見てきたギルドのトップとは一風違った誠実さを感じる。冒険者をしていてよくもこうまっすぐ誠実な人間が出来上がったものである。
「……それはそうと、君たちマルスと一緒になったんだよね? ごめんね、迷惑かけたでしょ?」
「いえ、私たちは別に、そんなに」
「そう? よかった。僕は駆け出しのころからマルスと組んでたんだ。あの性格はどうにもできなかったけどね」
ソルカスがしっかりしている理由はそこにあるのかもしれない。
マルスが暴れてソルカスが宥める。ソルカス側に負担が大きいとはいえ、いいコンビだったのだろう。
雑談をしているうちに、やがて街の南門までたどり着くが、そこも顔パスで通り抜けることができた。
「それじゃあ、僕はまたギルドへ戻るから。ちょうどいいですしリヴさんも家でお休みください。動くのはソラウ陛下からのお返事をいただいてからになるでしょうね。ただ街道沿いの村々へ冒険者を派遣させてもらいます。これについては陛下へは事後承諾になりますが、あとでよろしくお伝えください」
「わかった。俺もその派遣に手を貸すか?」
「いえ、リヴさんにはこの街に待機していただきたいです。ソラウ陛下からのお返事が来た時にすぐに相談をしたいですから」
「わかった、そうしよう」
リヴへの連絡を終えると今度はハルカたちの方へ向き軽く頭を下げる。
「ハルカさんたちは北方大陸の方なんですよね。南方のごたごたに巻き込んでしまい申し訳ありませんでした。ここからはきっちりこちらで片付けさせていただきます。この件はあまり気になさらず、街での生活を楽しんでいただけると僕としてもうれしいです」
その言い方は、まるでハルカたちにこれ以上関わるなといわんばかりのものだった。首を突っ込んでしまった以上、これからまた騒動に巻き込まれていくことを想像していただけに拍子抜けだ。
「あの、差し出がましいようですが……、手を貸す必要はありませんか?」
「もし手をお借りしたくなったら、また正式にお願いさせてください。南方冒険者ギルドとしても、おそらく帝国としても、これだけ犠牲が出た以上、よその方を主体に事を解決するわけにはいかないかなと」
「そう、なんでしょうか」
ハルカからすればあるものは全部使って、犠牲を減らして早期に解決することこそが大事なように思える。
「冒険者をしているだけの時はあまり考えなかったんだけどね、組織を束ねる立場になったときに気が付いたんだ、意外と対外的な面子って大事なんだなって。これがないと結果的に組織が壊れて、いずれもっと大きな被害が出ることもある。……それにこれをきっかけにこの街の冒険者の実力を底上げできるかもしれないしね」
最後は前向きな意見を述べたが、ハルカにはそれがどうも空元気のようにも見えた。ソルカスは何も言わないハルカに肩をすくめる。
「たまに自由に冒険するだけの日々が恋しくなる時もあるよ。でもね、僕はこの街が好きだから。……だからもし危なくなったら、こんな建前全部投げ捨てて手を借りに行くかもしれない。その時は笑って依頼を受けてもらえると嬉しいよ」
笑顔で去っていくソルカスは最後まで爽やかだった。
その背中に背負ったものを想像して、ハルカは自分はやっぱり組織の長には向いてなさそうだと痛感するのだった。