軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冬は眠い

『とにかく、各地の特別魔素が湧く場所には儂のような竜が住んどることがある。その場を人は時代によって、竜脈やら魔穴やらと呼んでおった。前に住んだ人は大掛かりな仕掛けを持ち出して魔素の量を調べとった。資源だの貯蔵だの戦争がどうのなんて話をして、結局ほとんど滅んでしまったようだがのぅ』

「私は 破壊者(ルインズ) たちとの激しい戦いがあったと聞きましたが……」

『 破壊者(るいんず) ?』

「そうです。巨人であったりリザードマンであったり吸血鬼であったりです」

『ふぅむ。奴らは人と相容れないことはあるが、同じ人間であろう? 当時は規則に従って生きた者もいたはずじゃぞ。むしろ最後の戦争を積極的に行なっていたのは人間であったと記憶しておるが……』

「……詳しく聞かせていただけませんか?」

ハルカは思わず拳を握り勢い込んで問いかける。

『うぅむ、ハルカちゃんはこんな話が好きなのかのぅ。儂もぼんやり過ごしておったから細かいことは知らんのじゃが……。前の時代の人は魔素を動力とすることに長けておってのぅ。理解せずに貯蔵した魔素をぶちまけることで、人が住めぬ土地を作ってしまったんじゃよ』

「魔素が濃くなると、住めなくなるんですか?」

『うぅむ。一部才能が少ないものを除き、特に濃い魔素が瞬間的にばら撒かれるとじゃなぁ……』

ハルカが話に集中していると、クイッとモンタナから袖を引かれる。

『誰かきたようじゃなぁ……。とにかく、濃縮した魔素を目的を持ってばら撒くと良くないということじゃな。それはいずれ拡散し消えていくが、それまでに数十年かかることもある。世界に散らばる魔素からアンデッドや魔物が生まれるようになったのはその頃からじゃな。竜の中にも凶暴化したものがいたくらいじゃから、余程悪意を持った魔素の使い方をしたんじゃろう。……ふぅむ、よう話した。わしはまた寝ようかのぅ。おやすみじゃ、ハルカちゃん、レジーナちゃん、モンタナちゃん。気が向いたらまた起こしとくれ』

ハルカたちが背後を警戒している間にもグルドブルディンは勝手に語り続け、そうして勝手に眠りに入ろうとしている。

「あの、グルドブルディン様、ちょっとお待ちくだ……」

ハルカが声を発すると、ぼんやりとした闇の中から二つの影が現れる。

「誰と話してるのかな? 一応ここは立ち入り禁止なんだけど……」

さらっとした金髪を持った青年の声は、注意をしている割に柔らかくするりとハルカの耳に入り込んでくる。腰には特殊なガードがついた長剣を、左の腕には小さなシールドをつけているので、おそらく戦いを生業にしているものだろうと推測できた。

「何かが街の上を飛んでいると聞いて半信半疑で駆けつけたら、本当に人がいるとはね。……リヴさん、彼らが件の大型飛竜を連れた冒険者ですか?」

「そうだ。……ハルカ、こんな夜中に何してるんだ? 好きにしていいとは言ったが、一応ここには警備の冒険者もいただろう」

少し遅れて現れたのは出かけた時と変わらない格好のリヴだ。少し呆れた顔をしているものの、彼女もまた怒っているわけではなさそうだ。

「あっ……。………あー……」

「なんだよ」

地面に落ちている土塊を見て近寄った青年は、グルドブルディンの目が露出しているのを見て、ちらっとレジーナを見る。

「……レジーナ=キケローさんだっけ? もしかしてまた叩きにきたの?」

「叩いてねぇよ。ハルカがこの爺さんに呼ばれたから来ただけだ」

「爺さん?」

「お前の目の前にいるだろ」

「…………もしかして岳竜様のこと?」

ムッとした表情をしたままレジーナが頷くと、青年は露出したザラザラの瞼を撫でて、しばらく思案するように黙り込む。

「あの、嘘ではありません。私に会うために久しぶりに立ってみようと仰ったので、それは危ないと思い慌てて駆けつけたんです。グルドブルディン様! 少しだけ起きて話していただけませんか?」

ハルカも近寄って声をかけてはみたものの、反応は返ってこない。しばらくの沈黙の後、ハルカは自分より少し背の高い青年の方を見て「嘘では、ないんですが……」と呟く。

それを見た青年は苦笑をして口を開く。

「そうだね。今日の昼間に変な声が聞こえたって話があってさ、それの正体が岳竜様だったのかな。ちゃんとご存命だったんだね、岳竜様は。お名前は、グルドブルディン様と?」

「はい、そうおっしゃっていました」

「そうなんだ、僕もいつかお話ししてみたいものだけど……」

『……うぅむぅ、ハルカちゃん、儂、冬の間は寝ることにしておるんじゃよ、すまんのう、寝かせとくれ……』

随分と間を空けてからグルドブルディンの声がその場にいるものの耳に届く。

青年は青い目を丸くしてグルドブルディンの瞼を見つめて一言「びっくりした……」と呟いた。またしばらくの沈黙の後、青年が口を開く。

「……動かれたら大変だったよ。ハルカさん、ありがとう。岳竜街に住む者の一人としてお礼をさせてほしい」

「いえ、その、勝手に入ってしまって申し訳ありませんでした」

「気にしないでいいから。僕はソルカス=グッデナー。南方冒険者ギルドのギルド長をしています。どうぞよろしくお願いします」

「あ、はい。特級冒険者のハルカ=ヤマギシと申します。ご丁寧にありがとうございます」

差し出された手は、優男風な見た目に似合わず、ゴツゴツとして剣だこだらけだった。

穏やかな物腰に、柔軟な状況判断。

リヴの言葉をほんの少しだけ疑っていたハルカだったが、これはもしかしたら本当に『優秀でいい奴』なのかもしれないと認識を改めるのであった。