軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

聞こえる?

屋敷についてすぐ、ポーチはリヴを連れて出て行ってしまった。留守番組と合流して向けられた第一声は「あれ、飯は?」であった。

「え?」

「どうせハルカが大量に買ってくるだろうと思って、マーロさんに飯のこと聞かれて断ったんだよな」

「ママ元気ないの?」

「元気ですよ。通り道に屋台がなかっただけだったんですが……なんかすみません」

ハルカを街で歩かせると食べ物を大量に買ってくる。仲間たちにはそんな認識をされているらしいことを理解して、ハルカはユーリを撫でながら謝罪する。

「ところでマーロさんというのは、この屋敷の管理をしてくれている方ですか?」

「うん。事前に言っておけば食事の用意もしてくれるらしいよ」

服で顔まで隠して休んでいたイーストンが、それを羽織りながら起き上がる。

「飯食いに行く」

へこんだお腹を撫でて歩き出したのはレジーナだ。言葉で責めてくることはないが、ハルカのお土産を期待していたようだ。

何か言われるよりもレジーナのその動作にハルカは申し訳なくなる。

「じゃ、みんなで昼ごはん行こっか。レジーナはー……」

「なんだよ」

「なんかね、前に岳竜様たたいたのがけしからんって思ってる人がいるみたいだから気をつけよーね」

「……殴っても何も動かなかったぞ、あれ」

「うん、ま、いいや。なんかあったらハルカ、よろしく!」

「……はい」

そういう問題ではないのだが、なら何が問題なのか理解させることが難しい。ハルカに丸投げすることでコリンはその全てを放棄した。

対症療法というやつである。

「あー、そういや岳竜ってのも見に行きたいよな」

話題に出したら思い出したのか、アルベルトがぼそっと呟く。こちらもまた目を離したら平気で腕試しとかするタイプだ。

「また明日にしましょう。街の外に出るとどれくらいで戻ってこられるかわかりませんし」

「警備の奴らがいるから近づくのめんどくせぇぞ」

「へぇ、警備なんてついてんのか。めんどくせぇなぁ」

レジーナとアルベルトの会話は、本人たちの人柄を知らずに聞いたら、完全に悪巧みしている者たちだ。

事情を知っているということは、レジーナは前回来た時警備を掻い潜ったか、あるいは殴り抜けたかしているはずだ。

噂もされるわけである。

屋敷の庭ではナギが長い体を伸ばして日向ぼっこをしている。周囲の草や低木を寄せたり潰したりして、うまいこと居心地の良い空間を作り上げたようだ。

おかげで庭の見通しが少し良くなっており、ちらほらと周囲に人が来ている。

しばらく観察して離れていくものもいれば、食い入るように見つめているものもいた。

「……僕はやっぱり留守番しているよ」

それを見て、イーストンが回れ右してナギの方へ戻っていく。

「あ、それなら私が……」

「いいから、出かけておいで。僕昼間はあんまり調子良くないしさ。美味しそうなものがあったら買ってきて」

「……わかりました、よろしくお願いします」

イーストンの提案に甘えることにしたハルカは、いいお土産を買ってこなければと心に決めて、リヴ邸の門から再び街へと繰り出した。

ポーチの言う通り、道を一本逸れただけで並ぶ店が大きく違ってくる。あちこちから食べ物の香りが漂ってきており、人の通りも随分と多い。

地元の人間が普段から利用している場所なのか、子供たちが集まってはしゃいでいる姿も見られる。

他の街と同じように路地裏の奥に目を向けてみれば、汚れた身なりの子供も見つけることができるが、それほど痩せ細ってはいない。

きっと余り物を漁るだけでも餓死しないくらいには、この街が豊かであろうことが窺えた。

大通りを歩いていくと、少しずつ岳竜の姿が大きくなってくる。道が少しずつカーブを描いているようで、このまま歩いていけばきっと南の門へ出ることができるのだろう。

ちょうど街の広場にたどり着いたところで、岳竜を正面から捉えることができた。おそらく、そのように計算して街が作られているのだ。

行商人らしき人物や冒険者が、立ち止まり岳竜を見上げる。

ハルカたちもまたそのうちの一人であった。

「……でかいな。巨人より、大竜峰の真竜よりでけぇ」

「村が何個か背中にあってもおかしくない大きさだよねー……」

アルベルトとコリンが口を開けて見上げる中、ハルカはあれが動き出した時のことを想像していた。山にしか見えないからその想像は捗らなかったが、いざとなれば空にでも飛んで逃げるしかないかなぁというのが現状の感想である。

『……だ? ………………ぅむ』

ハルカの耳というより、頭の中に直接低い唸り声のような音が飛び込んでくる。

何事かと辺りを見回すと、仲間たちも同じように首を傾げたり警戒をしたりしている。いや、ハルカたちだけではなく、広場にいる人のうち何人かも同じような反応をしていた。

そんな中モンタナは、目を丸く見開いて岳竜を指差した。

「岳竜が、喋ったです、多分」

「……だよな?」

レジーナが武器に手をかけたまま同意する。二人の目には、おそらくそれが映っていたのだ。

「聞き取れましたか?」

「全然です」

「でも用事があるならまたなんか言うだろ」

「そですね、怒ったりとかしてなさそうですし」

「そんなこともわかるのか?」

「なんとなくですけど」

魔素が見える二人は、納得してからは肩の力を抜いて雑談を繰り広げている。しかし広場はざわついたままだ。

誰も岳竜からの声だとは思っていないから、聞こえた人を疑うような言葉が飛び交っている。

「大丈夫ですかね……? 今日聞いた話だと、岳竜は二回警告をして、無視した人を全員潰したり食べたりしたらしいですけど……」

「動いたら空に逃げればいいです。多分岳竜は飛べないですから」

大変なことが起こるのではないかというハルカの懸念に、具体的な解決策を口にするモンタナ。

仲間を守るだけであればそれでいいのだけれど、この街が大丈夫なのだろうかと、ハルカは目の前に見える竜の背を眺めるのであった。