軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

パワーバランス

視線が針の筵の冒険者ギルドにとどまり続けるほどハルカは強心臓ではない。

できる限り何でもないような顔を装いつつ、コリンとモンタナに目配せして早足でその場を後にした。

その間にも「どちらに?」とか「冒険者ギルドにご用事があったのでは?」と尋ねてくるポーチにあいまいに返事をしながらの逃走劇だ。ある程度の距離を取ったところで一息ついたハルカはギルドを振り返る。

このあたりの依頼がどうなっているのかとか、ギルド内がどうなっているかとか気になったが、それはまたの機会にすればいいだろう。

「あの、私何かまずいことをしたでしょうか……?」

「ん、別にー。ハルカが恥ずかしがり屋ってだけだから」

ポーチの申し訳なさそうな上目遣いを受けてハルカは苦笑する。

「恥ずかしいのとは違うんですが……。ポーチさんは気にしないでください、いちいち動揺する私が悪いので」

ハルカが特級冒険者と噂され堂々としていられないのは、モンタナの言う通り自分に自信がないからだ。実績を重ねてきた。できることもたくさんある。それを自覚した今、戦い方は少しずつ確立されてきている。

ただ、仲間たちを上回るような努力を重ねてきたとはいいがたいとハルカは思っている。痛みや疲労に耐え、時に意識を飛ばすほどの訓練を重ねる仲間たちに治癒魔法をかけ続けてきた。

そんな仲間たちを差し置いて自分だけが特級冒険者と呼ばれている。

それがハルカにとっては少し重かった。

名乗る方が円滑に事が進むのであれば名乗るべきであると思っている。

しかし、その身分を大っぴらに言いふらすのは、ただ自分が嫌だった。仲間たちが気にしてなかろうと、なんとなく嫌なのだ。

この世界に来てから得た力は、ハルカが何かを努力して得たものではない。ハルカがした努力は、与えられた力をどう上手に使うかだ。

ほかの人がマラソンでよい記録を残すために汗水たらして努力しているのに、自分一人だけ、絶対に事故を起こさないスーパーカーを上手に運転する練習をしているようなものだと思っている。

表に出さないよう、気にしなくて済むようになった方がいいとわかっているが、今のところまだまだそれは難しそうであった。

「ねね、ポーチさん、この辺って食べ物屋さんあんまりないよね? どこ行ったらあるんだろ」

「少し道をそれればたくさんありますよ。むしろこの道が武器や加工品、雑貨に特化している通りってだけなんです。お化け……リヴ様のお家からまっすぐ来たら、確かにこの道を通りますもんね」

何度も間違えそうになるところを見ると、リヴの屋敷は多くの街の人間にお化け屋敷と認識されているのだろう。リヴが聞いたらまた眉を顰めそうだ。

「そっかー、ハルカ、今度は食べ物屋さんがありそうな道を通ろうね」

「……そうですね、そうしましょう」

コリンが自分の機嫌を取ってくれているのがわかってハルカは笑って同意する。むしろ自分のわがままで逃げ出したのだから、文句を言われてしかるべきだと思っている。甘やかされていることを理解しながらも、ハルカはそれに甘えた。

相変わらず食べ物以外の匂いが漂う通りを進むと、ポーチが一緒に歩きだした。

「こちらにご用事が?」

「あ、はい! ソルカス様がリヴ様にご用事があるそうで、その伝言をあずかってきました」

「ふーん、ポーチさんって南方冒険者ギルド長と仲がいいんだね」

「へへ、私はあの人にあこがれて冒険者になりましたから。結構しつこく弟子にしてくれるようお願いしたんです」

「へぇえ、かっこいいの?」

「ええ、それはもう! ……って、何を言わせるんですかもう」

テレテレと身をよじるポーチはかわいらしかったし、そんな話ができたコリンも楽しそうだ。モンタナとハルカは目配せしあって沈黙を貫く。わざわざ話の種にされるつもりはなかった。

ハルカはこの通りにもこっそりと営業している食べ物屋を探していたし、モンタナはぼんやりと岳竜の背を見て歩く。

しばらく若い女性同士らしい会話が繰り広げられていたが、やがてそれも落ち着くとコリンがこの街について尋ね始める。

「そういえばさ、さっき傭兵がどうのって言ってたよね」

「あ、そうなんですよ。岳竜街って【帝国】と【鵬】、それに冒険者ギルドが手を組んで、戦争禁止区域にしてるから、傭兵でも比較的安全に休むことができるんです。だから拠点を構えているところが多くて……。冒険者と傭兵って仲が悪くて嫌になりますよね」

さも当たり前のように語られるが、そもそもハルカたちは傭兵というものに縁がない。北方大陸には人族の暮らす国は四つで、そのどれもが長いこと戦争をしていない。国力も大きく、互いにけん制しあえるため安易にそんなことができないのだ。

それ以前は王国一強の地域であったため、やはり傭兵が入り込む隙はなかった。

傭兵という文化がそもそも根を張っていないのだ。

「傭兵って、何するです?」

「え、傭兵って街にいませんでしたか?」

「いないです。南方にきてたまに聞くようになったですけど」

「あ、そうなんですね……。えーっと、傭兵というのはですね……、依頼を受けて戦争に加担したり、野盗を討伐するような集団なんですが……」

「それって冒険者もできるよね?」

「そう、なんですけど……。冒険者ギルドを通さないで依頼を受ける分、裏切り行為があったり、もっとグレーな仕事をしたりもする……そうです。逆に騙されて全滅することもたまにあるそうで……。羽振りは冒険者よりいいんですよ。だから、冒険者を馬鹿にしたような態度をとる人もいます」

積み重なって今の犬猿の仲になっているというわけだ。

冒険者の中に傭兵と同じように危ない依頼を受けるものもいるから、商売敵という側面もあるのかもしれない。

とにかくこの街では肩で風を切って歩いているのが、必ずしも冒険者ばかりではないというのを理解しなくてはいけないようだ。

「……うーん、見分けがつかなくてめんどくさいんだけど」

コリンのボヤキはもっともだ。

街に住んでいる人たちはわかるのだろうけれど、よそ者のハルカたちには判別が難しい。

所詮チンピラはチンピラでしかない。

冒険者なら殴って済む問題も、仮に相手が傭兵団だと、もっと大きな問題になる可能性もある。

すでにやってしまったことを考えながら、ハルカはうーんと頭を悩ませるのであった。