軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冒険者と傭兵

その戦いとも呼べぬような一連の動作は、まさに軽く捻るという言葉が相応しかった。

三人を地面に這いつくばらせてごめんなさいをさせると、彼らは自主的に冒険者ギルドへ案内してくれる。

目の前に見えているから案内など必要ないのだが、卑屈な笑みを浮かべて勝手に先行されたので、ハルカたちは仕方なしについていくことにした。

本部同様大きく開け放たれたドア枠を潜ると、中は想像していた通り、オランズと変わらぬ景色が広がっていた。

ただ予想外だったのは、この街の冒険者であるはずの案内人三人組に冷ややかな視線が向けられたことであった。

その流れでハルカたちまでジロリと睨まれたものだから気分はあまり良くない。

「へぇ、姉さんがた、ここが冒険者ギルドで、へへ」

頰を倍くらいに腫らした男が手揉みしてへこへことすると、コリンが冷めた目で睨みつける。

「ちょっとあんたらの普段の行いが悪いせいで、私たちまで変に見られてるじゃない」

「あ、いや、あれはそういうんじゃなくて……」

「なに、言い訳するの?」

「すんません! すんません!」

音が出るほどの勢いで頭を下げる男に、深いため息で答えたコリンは「ん」と言って何も持ってない手を差し出す。

「ええっと、それはいったい……?」

「もう帰っていいわよ。でもここに来るまであんたらの護衛してやったんだから、誠意見せなさいよ」

「そ、そんな、理不尽な……!」

言われたことをそっくりそのまま返しただけだというのに、男たちは非難の声を上げる。

しかし差し出されたコリンの拳が握られた瞬間、男たちは慌てて財布をあさり始めた。

「ご、護衛料はいかほど……?」

「ごえいりょうぅ? 私は、誠意を見せろって言ったんだけどぉ?」

考えることはあまり得意ではないのか、三人が頭を寄せ合って相談している間に、ハルカはコリンの肩をつつく。やりすぎではないかと思ってのことだったが、コリンはいたずらっぽく笑って振り返る。

「わかってるって、ちょっと分からせてやってるだけー……」

そんな話をしていると、突然ギルドの中にジャララと金属が擦れる音がして、何かが飛んでくる。それは振り返って財布ごと差しだそうとした男の顔をかすめて壁に突き刺さった。

床に財布を放り投げて腰を抜かした男は、ひきつった表情で鎖の先を見る。

「……おい、お前ら冒険者だろ。なんで傭兵の奴らとつるんでんだコラ」

ピンと伸びた鎖の先には棘のついた鉄の塊。反対側は胸元を露わにした無精ひげの男の腕につながっている。あいた手には酒を、テーブルには飲み散らかした跡がある。

素面に見えるが相当酒を飲んでいるようだ。

「……傭兵?」

ハルカたちのことでなければ、それは一緒に連れてきた男たちのことだ。コリンが地面に落ちた財布を男に突っ返しながら尋ねる。

「あ、いや、俺ら【雷鳥の気まぐれ】って傭兵団に所属してまして」

「冒険者じゃないの?」

「あ、はい、そうなんです、へへへ」

コリンは瞬時に考えを巡らせる。

傭兵団は金で戦争に加担する存在だ。その在り方は冒険者と大きく変わるものではないが、鎖の男の様子から見ても、冒険者とはあまり良好な関係でないように思えた。

「もういいからどっか行ったら? 冒険者にちょっかいかけるのやめなよね」

「い、いいんすか?」

「……もっとめんどくさそうなのがいるし、さっさとどっか行って」

鎖の男の方が明らかに腕がたちそうだと判断して、コリンは男達を追い出しにかかる。この男たちがいる限り、鎖の男はまともに会話ができなさそうだ。

「おいおいおいおい! うちの奴らが糞冒険者に連れ込まれたって聞いたぜ、どうなってやがんだ、ああ!?」

しかし三人組が逃げ出す準備をしたところで、今度は入り口の方から金髪を逆立たせた男が建物を震わすような大きな声を上げながら入ってきた。

「ト、トルス団長。いや、今、その、俺ら大丈夫っすから、助けに来てくれてあざす!」

逃げ帰ろうとした男が頭を下げた瞬間、トルス団長と呼ばれた金髪の男の拳がうなり、その体が吹き飛ぶ。

「だせぇ姿晒してんじゃねぇぞ」

「……す、んません、団長」

歯を剥き出しにして威嚇するような顔をするトルスは、残る二人に体を起こされながらそれでもなお謝る男を見て、興味を失ったかのように鼻を鳴らした。

「んで、どこのどいつがうちの奴らをこんなひどい顔にしやがった」

頬を腫らしたのはコリンだが、鼻を潰して血を噴出させたのはトルスだ。それを棚に上げるようにギルド内をぐるりと睨みつける。

「おう、好き勝手してんじゃねぇぞ、糞ボケ戦争屋がよぉ」

鎖を引き寄せた男がふらっと立ち上がり、トルスとの距離を詰める。

「昼間っから酒飲んでいいご身分だな、ブート。俺たちはお前ら冒険者みてぇにその場のことだけ考えて生きてんじゃねぇんだよ」

「はっ! あちこち引っ掻き回して大物面か? てめぇの部下の躾もできてねぇのに」

二人とも因縁があるようでどんどん距離を詰めていくが、その間に立っているハルカたちは堪ったものではない。喧嘩に巻き込むのはやめてほしいが、原因を作ったのはハルカたちだ。

コリンは面倒そうに逃げ出す算段を立てており、モンタナは左右に順番に目をやって戦力分析をしていた。

「あの……、あちらの三人には冒険者ギルドの場所を教えていただきまして……」

「あ? なんだてめぇコラ、傭兵の肩持とうってのか?」

「ダークエルフ? なんでこんなとこに……」

挟まれたハルカは両側に手のひらを向けて愛想笑いだ。

すごまれて多少怖いと思ったが、もっととてつもない威圧感をもった相手をもう知っている。パニックになるほどの恐怖は感じなかった。

「そちらの三人に腕試しを挑まれて、仲間のコリンが勝利しました。そこで卑怯な手段は何もありませんでした。負けていれば怪我をしていたのはこちらです」

「つまりなんだ? だから怪我も見逃せって?」

「はい。お怪我で仕事に支障が出るようでしたら、治癒魔法を使ってもかまいません。……多少お代はいただきますが」

「…………あんた魔法使いか」

「はい」

「この怪我を簡単に治せる腕があるんだな?」

「ええ、ご要望とあればすぐにでも」

「あんた冒険者だな、名前は?」

「ハルカ=ヤマギシと申します」

金髪の男トルスは、腕を組んでに数度つま先で床をたたいてくるりとハルカたちに背を向ける。

「おら、帰るぞ馬鹿ども! ハルカ=ヤマギシ、場所が悪い、話はまた今度仕切り直させてもらうぜ」

「おい、コラ、勝手に話つけてんじゃねぇぞ、邪魔だどけ!」

ハルカの肩を掴んでよけようとした鎖の男ブートは、その体が全く動かず、まっすぐ視線を向けられていることに怯む。魔法使いと聞いて少し手を抜いていたのだが、本気で力を入れても涼しい顔をしているハルカに、若干の恐怖すら覚えていた。

その間にトルスと三人組は冒険者ギルドから姿を消した。

これで争いの種は無くなっただろうと判断したハルカは、固まっているブートに語り掛ける。

「……どうやらご迷惑をおかけしたようで申し訳ありません。事情も分からず出しゃばったことも謝罪いたします」

「……あんた、魔法使いなんだよな?」

「はい、そうです」

ブートは肩から離した自分の手を見つめてからもう一度ハルカを睨む。

「……それはそうとして、あんたな!」

「ブートさん!! 何してるんですか!」

また噛みつこうとしたブートとハルカの間に、キンと天井を差すような声が響き、ポーチが飛び込んでくる。

「んだポーチ、てめぇの知り合いか? こいつらがなぁ……!」

「失礼はやめてください、こちら特級冒険者のハルカ様ですよ!?」

「特級……!?」

ポーチが手のひらでハルカをさし、その場にいるすべての人に伝わるように盛大に身分を公表してくれる。そんなことになる予感がしたハルカは止めようとして伸ばしていた手をそろりと下ろして顔をそらした。

横目でちらっと見ると、顔を青くしたブートがその場で固まっている。

酒の飲みすぎで急に吐き気が襲ってきたのではない。

ただ、特級という存在に血の気が引いているのだ。思わぬところで自分の死を想像したブートだったが、それでもすぐに立ち直り憎まれ口をたたく。

「……それでも、冒険者ギルドに傭兵なんか連れてきてもらっちゃ困るぜ」

「すみません、以後気を付けます」

「あ、ああ……」

言うことは言ったと元居た席に戻ったブートは、残っていた酒を一気に呷って深く息を吐く。

気持ちはわかるが、深いため息をつきたいのはハルカも同じであった。