軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お化けいない屋敷

その館は確かに景色の中に異彩を放っていた。

冬枯れした草花や背の低い木々の中にあるというのに、そこだけ時間が止まっているかのように外観を損なっていない。

事情を知らずに見たら、確かにお化け屋敷にも見えるのかもしれないとハルカは思う。

カロキアにあったリヴの屋敷の庭は、あれでもきっと年に一度くらいは整地をされていたのだろう。こちらはもはや庭がほとんど野生に飲み込まれてしまっている。

「……これは、どこに降りたらいいんでしょう?」

「家を壊さなければどこでもいいぞ」

枯れ木や草花を押しつぶして降りろということなのだろう。

ナギの堅いうろこを考えれば不可能ではない。

ただハルカたちがいつも開けたところに降ろしていたので、ナギはこれだけ荒れている場所に降りるのは慣れていない。

しばしぐるぐると上空で躊躇していたが、ようやく決心をすると翼をはためかせながらゆっくりと庭へ着陸した。

乾燥した草木が音を立てて押しつぶされる。

ナギが足をたたむと、腹につぶされた植物たちがまたも悲鳴を上げた。

痛みやこそばゆさこそないものの、いつもと違う感覚で少し落ち着かないナギだったが、ハルカたちが背から降りる間はおとなしく地面に伏せていた。

「荷を中に置いたらいい。家は好きなように使っていいからな」

先導しながら話すリヴを、開いた扉が迎え入れる。

そこでは執事服を着たロマンスグレーの男性が、ゆったりと頭を下げて待っていた。

「この度は早いお帰りですね、リヴ様。前回はほんの一泊しか居られませんでしたが、今回のご予定は?」

「わからん、でも一日以上はいる。あと客がいるから部屋を割り振れ」

「承知いたしました。お客様、お荷物はそちらの台車に。お部屋までご案内いたします」

「え、あ、はい」

「出入りも勝手にしていいし、わからないことがあればそいつに聞いたらいい。俺も部屋に荷物を置いてくる」

あれこれ聞く前に去っていってしまった家主を見送って、ハルカたちは素直にその執事に荷物を預ける。客間であろう部屋がずらりと並んだ廊下へ来ると、執事は足を止めて振り返る。

「他のお客様はいらっしゃいませんので、どのお部屋でもご自由にお使いくださいませ」

「ありがとうございまーす」

コリンが返事をすると、執事はそのまま一礼して立ち去ってしまう。

姿が見えなくなってからコリンは近くにある部屋の扉を開けて声を上げた。

「わー……きれいに掃除されてる! 突然来たのにすご……、他の部屋はどうかな?」

いささかマナーが悪い行いではあるが、好奇心に勝てなかったコリンは次々と扉を開けては声を上げる。

左右に五部屋、奥に一部屋、合計十一の部屋を確認したコリンは感心して戻ってくる。

「すっご。ここに来るまでの廊下もピカピカだし、部屋も全部きれいになってる。あ、奥の部屋が広いから、そこ使わせてもらおうよ。ベッドの数は足りないから、夜はほかの部屋使ってもいいけどさ」

「そうですね。掃除が大変でしょうからあまりあちこち使わないほうがいいと思いますけれど……」

「うーん、多分私たちが使わなくても毎日きれいにしてるから一緒じゃないかなー」

「全然埃の匂いしないです」

「よほど有能なんだろうね、あの執事服の人が」

がやがやと話しながら入ってくハルカたちの後ろで、レジーナがぼそりと呟く。

「全然お化け屋敷じゃねぇな」

部屋に荷物を置いて一休みしたハルカたちが庭へ出ると、当然のように屋敷の門前へ人が集まってきていた。屈強な冒険者と、癖の強そうな面構えの町人が、警戒しながらナギを見守っている。

ナギはというと居心地が悪いのか、足を動かしたりおなかを地面にこすりつけたりして地面を均している。悪気はないのだが、外にいる冒険者たちからすると気が気ではないだろう。

ハルカたちが外へ出てすぐに気が付いたように、彼らもまたハルカたちが自分たちの方に近寄ってきていることに気が付いた。

「お騒がせしてすみません、あちらの竜はナギという私たちの仲間です。街の皆様を襲ったりはしませんのでご安心ください」

「ああ、そうか、それならいいんだが。突然竜が現れて驚いたぞ」

一番年長らしい男がほっと胸をなでおろすと、緊張を解いたほかの者たちも口々に軽口をたたきだす。

「野生だったら退治してやろうと思ったんだがな」

「馬鹿いえ、まだ足が震えてるくせに」

「うるせー、武者震いだ」

そんなことを言いながらどつき合っていた冒険者は、やがてヒートアップして本気の殴り合いを始めた。だれも止めようとしないどころか、はやし立てたり賭け事まで始めているのをみると、これがいつもの光景なのだろう。

冒険者になるような人物は、やはりここでも荒くれ者が多いようだ。

ハルカももうそれを止めることはしなくなった。

彼らはあれで友情を確かめていたりする部分もあるのだ。不良漫画もそれなりにたしなんでいたハルカは、そういうものだと納得することにしている。

だとしても、目の前でやられると気にはなって目を向けてしまうのだが。

美人に見られていることに気が付いた男たちの喧嘩が、さらに熱を帯びてきているが、それはハルカのせいではない、おそらく。

「ちょっと街に出てみる?」

「俺残って訓練」

「僕も屋敷の中で休もうかな」

喧嘩の結果には興味がないコリンが提案するが、男連中は相変わらずノリが悪い。すでに回れ右しているレジーナは言わずもがなだ。

「僕は行くです」

ずっと岳竜の方を見ているモンタナは珍しく同行をするらしい。

折角だから自分もふらついてみようかと考えていたハルカの両手がとられる。

左にコリン、右にモンタナ。

「じゃ、いこっかー!」

ハルカが一緒に行くことは決定事項だったらしい。

「……そうですね、せっかく新しい街に来ましたから」

二人に手を引かれてハルカは門をくぐり歩き出す。

決着がついたのか後ろからはわっと歓声が上がったが、ハルカは一瞬振り返っただけで、そのまま街へと繰り出すのであった。