軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

岳竜街

村を出発して最初の村の無事を確認して一泊。

各村を上空から眺めるためゆっくりと空を飛ぶこと丸一日。

夜の訓練を終えてから、全員で街のことをおさらいする。

「当然だがナギは街に入る前に警戒されるだろうな。それでもソラウが渡した証明と、俺の保証があれば街には入れるはずだ」

「私も手伝います!」

それだけあって門前払いをするようだと、政治的に大問題だ。

権力でごり押すようなやり方だが、スムーズに事を進めるのには適したやり方だ。

ポーチも張り切っているので、きっと問題なく街に入ることができるだろう。

「ナギは俺の家の庭にでも置いておけ」

「こっちにも家があるの?」

「街はずれにあるから、出かけるのには不便かもしれないがな」

ユーリが尋ねると、リヴは穏やかな表情でそれを肯定する。この付近で数十年、下手したら百年以上冒険者をしているのだ。あちこちに別荘を持っていても不思議ではないだろう。

ハルカたちのように拠点を一から作るよりは金がかかっていない可能性すらある。

ナギの大きさを考えると、場所を提供してもらえない場合街の外で寝泊まりをすることになる。

この申し出はただただありがたい。

「ご迷惑おかけします」

「いや、迷惑かけてるのはこっちだ。ただ状態には期待するなよ。家の管理はさせているが、庭の整備まではしていない」

「普段外で暮らしてるんだからだれも文句言わねぇって」

「……確かに普通はそうだな」

同意しながらも眉間にしわを寄せているのは、きっと普通ではない人物のことを思い出しているからだろう。

「あ、あの! リヴ様って岳竜街にお家を持っていたんですね!」

「ああ、街の南の方にな」

「南、南の方にナギちゃんが入れそうな家なんて……、……あっ」

声を発してからポーチは自分の口を両手でふさいだが、すでにそれはリヴに聞かれていた。

「なんだ?」と問われ、ポーチは視線をさまよわせる。

「あの、これ言ってるの私じゃないですからね」

「いいから言え、気になる」

「あっ、そのー……、そっちの方にお化け屋敷って呼ばれてる家があって、その……」

どこかで聞いたような話だ、それも最近。

カロキアでもリヴの家は似たような呼ばれ方をされている。

ひとり身の冒険者なんて、結局家を持ったところであまりそこにいつかないのだ。

だからこそ 冒険者宿(クラン) を作り、寄り添ってそこを拠点にするものが多いのかもしれない。

「お前、お化け屋敷作るの好きなのか?」

「……そんなわけないだろ」

レジーナがまるで妙な生き物でも見るような視線をリヴに向ける。

ムスッとして答えるリヴにハルカがフォローを入れる。

「ま、まぁ、そのおかげでナギが街の中で泊まれるわけですから」

「……ハルカ、俺の家はお化け屋敷じゃない。家の整備はちゃんとしてる」

「あ、はい、すみません……」

どうしてそこまではできるのに庭まではやらないのか。

そんな疑問がハルカの頭に浮かんできたが、いつもの通り余計なことは言わず、謝罪だけして口を閉ざした。

スムーズに街へ入るため、先触れとしてポーチに走ってもらったというのに、岳竜街の前にはかなりの数の冒険者が集まっていた。

ナギの姿が見えると武器こそ抜かないものの、それぞれ身構えて待っている。

強い敵意を向けられているというよりも、警戒をされているという印象だ。

岳竜街は聞く限り冒険者と商人の街だ。その成り立ちは『プレイヌ』に極めて近い。

集まっている冒険者たちは、自分たちの街を守るため、自主的に様子を見に来たのだろう。そう考えるとあまり悪い印象も受けなかった。

「……山だろ」

「山です」

「山だよねー……」

そんなことよりもアルベルトたちが気を取られているのは、街の奥にこんもりと見える小山だ。木が茂っており、鳥が飛んでいるのも見える。

「山じゃねぇって言ってんだろ」

レジーナが訂正するが、ハルカも口にこそしなかったが、その存在を山としか認知できていなかった。

生き物としての規模が違いすぎる。ハルカが知っている最も大きな生き物、クジラと比べてもなお大きい。

「……どっからどこまでが竜なんだろうね」

「んなことあたしも知らねぇよ」

イーストンの純粋な疑問はレジーナにバッサリと切り捨てられた。

岳竜は地竜タイプの真竜なのだそうだ。

その中でも形状はトカゲ、というよりもカメに近いらしい。

全長数百メートル、高さ数十メートルあるその背中には樹木が茂り、他ではあまり見ない果物も実るという。

その果物は栄養価が非常に高く、病にも効くという優れモノだ。

そんな重要な資源を、国ではなく冒険者ギルドという組織が統治している。

地形を考えても『グロッサ帝国』という南方随一の大国と、二番手である『鵬』に挟まれているのだ。

緩衝地帯として利用されているという側面もあるが、それを差し置いてもかなり難しい土地であることは間違いない。

リヴの言う通り、南方冒険者ギルド長はよほどのやり手なのであろうことが窺えた。

「家に案内する。許可は取ったから飛んで入るぞ」

ハルカたちが岳竜の大きさに目を見張っているうちに、リヴがさっさと街と話をつけてくれたらしい。

少し呆れた調子で催促されてハルカたちは慌ててナギの背に乗り込んだ。

「あの! 私はギルド長に報告をしてきますので、ここで失礼します! 用事が終わったらお化け屋……じゃなくて、リヴ様の家を訪ねますので、またよろしくお願いいたします!」

「……おう」

腕を組んだリヴは不満そうではあったが、一言そう答えた。

それを待っていたかのようにゆっくりとナギが空へ浮かび上がる。

癖の強そうな冒険者たちに見送られながら、ナギはリヴの家へと鼻先を向けるのであった。