軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

早い帰還

アルベルトは瞼越しに太陽の光を感じて、ゆっくりと目を覚ます。

朝方まで見張りをしてから、これ以上の襲撃はないだろうと踏んで、イーストンとレジーナを見張りに残して休んでいたのだ。

目を覚ましたからには交代して見張り番だ。首を左右に倒して軽くストレッチすると、屋根の上にひょいと飛び上がり、膝を立てているイーストンに声をかけた。

「交代しようぜ」

「そうだね、じゃ、後は頼むよ」

日が出てくるとイーストンの体はずんと重くなる。それでも人並み以上の膂力は有しているが、だるいものはだるい。半分しか吸血鬼でないイーストンがこれなのだから、真正の吸血鬼はもっとひどい倦怠感を覚える。

イーストンはそれを知っているため、昼間のうちに攻め込んでくることはまずないだろうと確信を持っていた。最後にもう一度と、屋根から降りる前に村の中心にまっすぐ延ばされた道を眺める。

そして、自分たちが入ってきたのとは逆の方向から、堂々と真ん中を歩いてくる二つの影を見つけてしまった。

「……何か来てるね」

「ん、お、ホントだ。吸血鬼じゃなさそうだな、冒険者か?」

「そうかも……、あ、まずい」

イーストンは慌てて屋根から飛び降りると、小走りで仲間の背中を追いかける。一緒に見張りをしていたはずのレジーナが、ずかずかとやってくる二人の方へ向かっていた。

すでに片手に武器が握られている。

凶悪な武器と、眉間に寄ったしわ、顔に十字に入っている傷は、相手に交渉という選択肢をなくさせるのには十分な威力を発揮するだろう。

「お、なんだ、悪そうな奴が歩いてきたぞ!」

やたらと明るく、しかししっかりとレジーナのことを表現したのは、二人のうちの背が高い方だった。体が分厚い筋肉に覆われ、額にはトレードマークのように赤い鉢巻きが巻かれている。

レジーナの姿を見ても足を止めるどころか、にこやかな表情のまま近づいてくるという常人離れした行動を見せてくれている。

「マルスさん、人を見た目で判断しないでください」

「じゃあ何で判断するんだ?」

「それは……行動とか、じゃないですか?」

「なるほどな、ポチは頭がよさそうなこと言うよな!」

「よさそうな、ってなんですか! それから私はポーチです! 犬みたいに呼ばないでください、何度言ったらわかるんですか」

「おっ、あいつ目が赤いぞ、吸血鬼じゃねぇか?」

「私の話聞いてもらえます?」

「行動で判断するんだろ、武器もってるから敵だな」

「あ、もういいです。私がお話しするので、マルスさんはおとなしくしててください」

「弱いのに大丈夫か?」

「弱くありません!」

マルスと呼ばれた男は無手。ポチ、ではなく、ポーチと呼ばれた少女は左右の腰に、短い棍のようなものを差している。

彼女がマルスの前に出て油断なく歩みを進めてくれたおかげで、イーストンはレジーナに追いつくことができた。

「止まってください。私たちは南方冒険者ギルドから村の偵察に来たものです。こちらのその証明に……、あ、あの、止まって、止まってくださいって、わっ」

会話をする気がないのか、制止を無視して歩みを進めるレジーナにポーチが後ずさる。そしてマルスにぶつかる前に、襟首をつかまれブランと宙にぶら下げられた。

一方でイーストンもレジーナの腕をつかんでその歩みを止める。

「別に何もしねぇよ、ちょっと牽制しただけだろ」

「一応、話し合いしようとしてくれてるから」

「……後ろの奴はそうじゃねぇだろ」

レジーナはポーチのことではなく、こぶしを握ったり閉じたりしていたマルスを警戒していたようだ。イーストンから見ても、戦う準備をしているように見えたので、あまり強く止められなかった。

「カロキアから来た冒険者だよ。僕たちも村を悪漢から解放したばかりで気が立ってたんだ。挑発的な態度は詫びるから、できるなら争わず会話で済ませたいかな」

「ほら、放してくださいよ!」

マルスは子供のように口をとがらせると、ぱっとポーチの襟から手を離す。するとポーチはバランスを崩すことなく着地して腕を組んだ。

「ってことは、この先の村はもう占領されてないってことですか?」

「そっち方面も妙なことになってたのかな。ここからカロキアまでの村は、僕たちが見てきた限りは普通だったよ」

「ポチ、おい、ポチ」

「じゃあここまでですね。良かったら少し情報交換をしましょう。多分情報は私たちの方がたくさん持っています」

「いいのかな? 僕たちはあまり事情を知らないよ」

「聞いてんのか、ポチ、おーいポチ!」

「悩むところですが、今は駆け引きしてる場合じゃないので……、なんですかマルスさん、邪魔しないでください!」

「あれ見てみろよ」

「なんですかあれって、しょうもないものだったら承知しません……から……」

「すげぇな、竜じゃねぇのか、でかいぞ」

マルスの指の先には、小さな影が見える。

それが徐々に大きくなり、やがて村の上空を影が通り抜けた。

口をあんぐりと開けてそれを見送ったポーチは、それでも武器を構えただけ立派だったといえるだろう。

マルスは腰に手を当て、なにがツボに入ったのか大笑いをしている。

「た、大変ですよ、あんな大きさの飛竜……、す、すみません、お名前も分かりませんが、あれが襲ってきたら一緒に戦ってもらえませんか!?」

鬼気迫る表情から繰り出された提案だったが、返事は後方からのんびり歩いてきたアルベルトの言葉だった。

「お、思ったより帰ってくるの早いな」

「何を呑気な!? 戻ってくる前に、戦闘準備を……!」

一人慌てふためているポーチを哀れに思ったイーストンは、いつものように穏やかな調子で真実を告げてあげる。

「ポーチさん、あれは僕たちの仲間だから大丈夫。もうすぐ降りてくると思うけど、攻撃したりしないでほしいかな」

「……仲間?」

「おう、ナギってんだよ。ほら、その辺に降りるから、お前らも隅に寄れよ」

「おー、かっけぇー。俺も乗ってみてー」

マルスは首を真上に向けてナギの姿を追いかけながら、再びポーチの襟首をつかむと、素直に広場の隅に移動し始めるのであった。