軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

昔のことと未来のこと

「もし予想通り村が占領されていた場合、リヴさんはどうされるんです?」

「その場合は……、どうだろうな。ソラウの判断が正解だったのかもしれない。下手に軍を動かすと囲まれる恐れがあるからな。まぁ、俺は俺で勝手にやるさ」

リヴは自らの考えが間違っていたかもしれないと言いながらも、気落ちしたような様子はなかった。城に自由に出入りし、近くに豪邸を構えているのにもかかわらず、トップの指示には従わない。

皇帝の権力が強い帝国において、その在り方は明らかに異質だ。

「リヴさんは、帝国に仕えているわけではないんですよね?」

「仕えていたら冒険者じゃないだろ」

「でも城の人は皆リヴさんのことを先生と呼びます。先ほどのカシューさんが若いころにはもう帝国にいたのですよね?」

「そうだな、先々代の頃から武術指南役をしている。ほかの国でも冒険者が兵士に訓練をつけることはあるだろう。それの頻度が高いだけだ」

ソラウとの関係を見ているとそれだけにはとても思えないのだが、どこまで聞いていいのかわからずハルカは一度言葉を止めた。

リヴはそんなハルカを見てうっすらと笑う。

「何が気になるんだ? こうして協力してもらっているのだから、多少のことは答えてやるぞ」

「いえ、その……。リヴさんがとても帝国に協力的であるように見えたので、なぜなのかなと思いまして」

「……端的に答えるのなら、俺が生きているのが数代前の皇帝のおかげだからだ。人として生きることを決めたのも、冒険者になったのも、そいつのおかげだ」

その頃のことを思い出しているのか、リヴは視線をそらして目を細めた。

「ならなんで帝国に仕えないです?」

モンタナの疑問は当然だ。もし帝国に恩があるというのならば、ナーイルたちのように歴代の皇帝に仕えるのが普通だろう。武術指南役は確かに帝国のために役立っているが、恩返しをするにしては手段が迂遠だ。

「……俺はあまりそういうことに向いてないらしい。もっと根を詰めて手を貸していた時期もあったが、うまくいかなかった。いや、違うな。大失敗をした。だからこれくらいで丁度いいんだ」

言葉を嚙み締め自嘲するように語ったリヴに、ハルカたちはそれ以上踏み込むことができなかった。

「俺の話はこれで十分だろう。そんなことよりお前たちはあの桃色髪の獣人と知り合いなんだったな」

「……あの、師匠が何かご迷惑をおかけしましたか?」

出会った当初こそ穏やかで優しいばかりの人物かと思っていたが、ここまでうわさを聞いてきた限り、ノクトだったら何をしててもおかしくないという認識を持ってしまっている。

まだ何も言われていないというのに、ハルカは思わずお伺いを立ててしまっていた。

「間接的には色々あったがな。直接は何もない」

「間接的にっていうのは……?」

「あいつ等が動いて『プレイヌ』を作っただろ。あの頃はその件に合わせてあちこちで戦争が起きて大変だったな」

ハルカたちは当時の状況に詳しくないが、およそ百年前の戦争の件で、北方大陸には二つの国が誕生している。それが『独立商業都市国家プレイヌ』と『ドットハルト公国』だ。

当時から帝国に関わっていたリヴからすれば、ドットハルト公国の独立はおそらく大事件だったのだろう。

ややひきつった表情のハルカを見て、リヴは笑いながら続ける。

「それはともかくとして、あいつらのおかげで冒険者の地位っていうのが安定した。各地方で好き勝手名乗っていただけの冒険者たちが、きちんと冒険者ギルドに登録して活動するようになった。ギルドの連携も格段に良くなったな」

「……それは、もしかしてすごいことなのでは?」

「ん? それはそうだろ。南方大陸では当時冒険者よりも傭兵団の方が多かったんだ。戦場のハイエナみたいなやつらだな。金が保つうちはいいが、無くなったとたんに主にかみつくような奴らだ。帝国より南に行くと、まだまだそんな奴らが作った国がたくさんあって、かなり治安が悪いぞ」

北方大陸にいる間は聞かない話だった。ディセント王国が北方大陸のほぼ全土を制していたおかげで、傭兵団の活躍する場がなかったというのがその理由だろう。そう考えると、北方大陸というのはずいぶんと平和な地域なのだ。

「……ハルカはダークエルフだがかなり若いのか?」

「ええ、まあ、そうですね」

「若いのによく里を抜け出してきたな。ダークエルフの里の奴らはやたらと警戒心が高いから、ほとんど外では見かけないんだがな。外の情報もほとんど入ってこないだろうに」

「そうなんですね……。……あ、私実は冒険者になる前のことはほとんど覚えていないんですよ」

他人事のように感心してから、ハルカは慌てて自分の事情を明かす。

「……アンバランスなのはそのせいか。事情は分からないが、一度ダークエルフの里に行った方がいいかもしれないな。里の外に出るくらいだから、何か事情があったんじゃないかと思うぞ」

「そうですね……、ユーリの件も落ち着きましたし、そのうち行ってみようかと思っています」

実際のところ顔を出してみて、誰々と名前を呼ばれても困るのだが、この体の正体を探るためにはいつかは訪れるべきだとハルカも思っている。

ただ、それで急にこの体の記憶が戻って、自分が追い出されてしまったらと思うと、少し怖いような気もするのであった。