作品タイトル不明
冒険者的な側面
空から戻ってきたハルカたちを、ナギが見上げて迎えてくれる。
「ナギ、このまま村まで戻りましょう!」
声をかけて背中に乗り込むと、ナギは翼を少しだけはばたかせ、すぐさま空へ飛びあがった。まっすぐ向かえば、アルベルトたちと合流する頃には昼を過ぎていることだろう。
今晩のうちに襲撃がなければ、合流してから事に当たれる。
すでに襲撃を退けた後であることを知らないハルカは、そんなことを思いながらナギに急ぐようにお願いをするのであった。
ナギの背に乗り込んだ後も、リヴは難しい顔をしたままでいた。
今まで出会ったほとんどの人は、ナギの背に乗り込むと、その速度と景色に何かしらの反応を示してきたが、リヴはただ黙って胡坐をかいて頬杖をついている。
ユーリが腕の中でぐっすりと眠っているのを確認してから、ハルカは小声でリヴに語り掛ける。
「リヴさん、ついた後どうされるんですか?」
「ん、あ、ああ。悪い、そうだな……、俺は直接エトニアに乗り込むつもりでいる」
「乗り込んで、どうするんでしょう?」
「今考えているところだ」
つまりとにかく向かうことにした、以外のことは何も決まっていないということだ。
ハルカはリヴの強さの底をまだ知らない。初対面で戦闘にこそなったが、あそこでリヴが全力を出し切っていたとは当然思っていない。
しかしそれでも、どれだけの吸血鬼がいるかわからない国へ単身乗り込んでいくことは無謀であるように思えた。心配はあったが、冒険者として遥かに先輩であるリヴに対してそれを口にするのがためらわれる。
「吸血鬼と戦ったことあるです?」
「昼間になら」
「エトニアにはどれくらい吸血鬼がいるです?」
「さぁな、詳しいことは俺も知らないが、仕掛けてきたということは、何かの準備ができたんだろうな」
モンタナとリヴの会話を聞きながら、嫌なことを思いついたハルカは持っていた帝国の地図を開く。そこには点々と村の位置が示されており、ハルカたちは今回それを追いかけるようにして経路を設定していた。
村というのは基本的にどこかへ向かう街道沿いに作られる。そうでなければ村として成り立っていかないからだ。今回の場合は『鵬』へまっすぐに向かうルート上の村を辿っていたことになる。
今アルベルトたちがいる村から、まっすぐ北へ視線を滑らせると、そこには細長く帝国に食い込んだエトニア王国の西端にぶつかる。とはいえ、そこから村までは歩けば早くても三日程度はかかる。
「リヴさんちょっといいでしょうか?」
「ん、なんだ?」
位置関係を把握してから声をかける。
三人で地図に目を落としたところで、ハルカは指先で経路をなぞりながら説明をしていく。
「私たちは今回、この経路にある村の存続を確認するという依頼を受けています。……この道は、冒険者や旅人はあまり利用しないのでしょうか?」
「……いや? ひと月に一度くらいは情報が更新されるはずだ。鵬との行き来に便利だし、南方大陸の冒険者ギルド本部がこの先にあるからな」
「この経路、四か月更新されていないそうです、おかしくないですか?」
「ありえないことではないが……、妙ではある」
「たまたま仕掛けてきた場所に私たちが居合わせたのではなくて、もっと多くの村がすでに吸血鬼に支配されている可能性を考えてしまったのですが……、考えすぎでしょうか?」
「…………ありえる。ソラウが情報を集め直すといった理由はこれか」
「あの、リヴさん。もしかして、勝手に飛び出してきていますか?」
「……国の問題だから何もするなと言われた。が、俺は冒険者だから関係ない。あいつが秘密主義なのが悪い」
ハルカはリヴのことを落ち着いた賢い人物だとばかり思っていたが、どうも違う側面もあるようである。冒険者はやはり冒険者なのだろう。
「もしかしたらエトニア王国に直接乗り込むより、一度村の確認をした方がいいかもしれませんね」
「まだるっこしいな」
「ナギに乗っていけばそれほどかかりませんよ」
リヴはハルカを見てから、外の景色が飛ぶように過ぎ去っていくのを眺める。
それから口元に手を当てて長く沈黙し、ようやく口を開いた。
「…………手を借りてもいいか? こっちの問題だぞ」
「乗り掛かった舟ですから。リヴさんにはご迷惑をおかけしましたし、お世話になりました」
「もともとはソラウがやったことのせいだ。だが助かる、報酬はきちんと払う」
「いや……、あー……、そうですね、それじゃあ報酬の件はコリンにお願いします」
仕事は仕事だ。
コリンも事情を考えて交渉してくれるだろうし、その方が互いにあと腐れもない。いつもの八方美人な返事を封印して、ハルカは報酬の件を了承した。
「こうなると……ギルド本部にも一度顔を出した方がいいだろうな。何か気づいていればあちらから使者が出ているかもしれないが、どちらにせよすれ違いだ」
「ギルド本部ですか……、南方にもあるんですね」
思い出すのは怠惰な猫の獣人と吸血鬼の秘書だ。
冒険者ギルドのトップとあって、どちらも普通ではなかった。
「南方のギルド長はどんな人です?」
「簡単にいえば、優秀ないい奴だ」
本当にそんな癖のなさそうな人が冒険者ギルド本部の長になっているのだろうか。
にわかには信じられず、ハルカとモンタナは顔を見合わせるのであった。