軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

失意

リヴは簡単な言葉だけ交わして城門を潜り抜け、ハルカたちもその後ろに続く。

「先に外にある牢に向かう。捕まえてきたものたちはそこへ放り込んでおけばいい」

そう言って早足で歩くリヴについていくと、あちこちに松明が置かれている区画にたどり着いた。立派な石造の建物が建っていたが、装飾も何もないせいか、どこか薄寒くも見える。

「おや、リヴ先生。珍しいですなぁ」

建物の前では一人の壮年の男性が小さな椅子に座り、葉巻からぷかぷかと煙を吐き出していた。リヴを見ると白髪混じりの髪を撫で付けながら、のっそりと立ち上がる。

「囚人を預けたい。……ハルカ、何人だ?」

リヴは挨拶もせずに用件だけ述べたが、男は気を悪くした様子もなさそうだ。

「十三人です」

「十三人、自害の恐れあり。聞かなければいけないことがあるから、よく見張ってくれ」

「実力は? これくらいの鉄格子から逃げられると思う?」

男は手で鉄格子の太さを表しながら、ハルカの方を向いて尋ねる。

囚人を管理しているのがハルカであると、やり取りから気がついたようだ。

「逃げられないと思います。武装はすでに解除してありますし、しばって猿轡を噛ませています。捕まえたのは昨日の日中です」

「わかった、それじゃあそいつらを運び入れるから準備をしてくれ」

男は振り返って木の扉を開け建物の中へ入っていく。外で障壁を解除すると、その場に捕まえた男たちが転がった。

「ハルカ、俺はソラウと話してくる。ここで待ってもらえるか?」

「ええ、構いません」

「悪いな、できるだけ早く戻る」

早足でリヴが立ち去っていってすぐ、中からゾロゾロと引退一歩手前くらいの兵士たちが現れて、縛られた男たちを中へ運び込んでいく。

ハルカとしてはとても親近感を覚える年齢だ。

「おっと、リヴ先生は嬢ちゃんを置いてどこいっちまったんだ?」

「この件でソラウさんと話してくるそうです。私たちはそれまでこちらで待っているようにと。お邪魔してすみません」

「あーいやいや、気にしなさんな。むしろこんなむさ苦しいところですまんね。男ばっかりのところにおいてくなんて、先生も何考えてるんだか。……あいや、かわいらしいナイトがついてるみたいだし大丈夫か」

モンタナを見て男は顔に皺を寄せて嫌味なく笑った。

「モンタナです」

「ユーリです」

「お、俺はなカシューだ。しがない牢屋番をしてる。嬢ちゃんは?」

「あ、申し遅れました。ハルカ=ヤマギシと申します」

「丁寧な挨拶だなぁ。しかし……見ない顔だし先生と知り合いってことは冒険者かい?」

「ええ、まぁ」

「あー、あれだろ、もしかして。大型飛竜を連れてきたって冒険者だな。俺はまだ拝んでないんだが、もしかしてまだ先生の家の庭にいるのかい?」

「今はいますけど、リヴさんが戻り次第また出発してしまいます」

「そうか、そりゃ残念」

さほど残念そうでもない口調だが、だからといって斜に構えるでもない。本当にただの世間話といった調子だ。

ハルカもそれに釣られて普通の会話を続ける。

「カシューさんも、リヴさんのことを先生と呼ぶんですね」

「そりゃあまあ、この街の兵士のほとんどは、新兵の時にお世話になってるからなぁ。かくいう俺も六十年くらい前に鼻っ柱へし折られてからは頭が上がらねえってわけだ」

「六十年……おいくつですか?」

「んん、最近じゃ数えてないが、おそらく八十は超えたんじゃないか?」

周りに比べて少し若いくらいに見えていたカシューだが、どうやらそれは見た目だけの話だったらしい。どうりで兵士たちが指示にテキパキと従うわけである。

年齢の割に若く見える。つまり魔素を扱うことに長けた人物であるということだ。

「強い人です?」

「うん、まぁなぁ」

珍しくモンタナが質問を投げかけた。カシューはそれを曖昧に肯定する。

「じゃあなんで牢屋番なんてしてるです?」

「牢屋番も大事な仕事だぞ。捕まえたやつが逃げ出したりしたら大変だからなぁ……。……そんなにじっと見ないでくれよ、モンタナくん」

動きを止めてじっと見つめられて、カシューは両手をあげてひらひらと振った。

「疲れたんだな、多分。もう後継者争いはうんざりだ。ソラウ陛下はもしかしたら、と思わんでもないんだが……。前の陛下が即位した時も、実は似たようなことを思ったもんでな。ちょっと歳のいった兵士は、誰も彼も今は様子見だ」

カシューはそう言って、根元近くまで灰に変わってしまった葉巻を、横に置いた灰皿に押しつけた。

「ああ、今のは秘密だからな? とはいえどな、いざこの国が攻められたりしたら、まだまだ働く気ではいるんだ。この国が嫌いなわけじゃないからなぁ。……そんなわけで、牢屋番も立派な仕事ってことだ」

長く話しているうちに、ハルカの腕の中にいたユーリがコクリコクリと眠り始める。それに気がついたカシューは途中から声を落としていた。まだまだ子供の身体であるし、今は真夜中だ。

「……こんな夜中に外に連れてきてもぐずらないのか。俺が話してるのもじっと黙って聞いていた。賢い子だな」

「ええ、いい子です」

「子供を見るとなぁ、俺ももう一働きするかって気も起こるんだが……。もう一押し、陛下のために働きてぇって気持ちにさせてくれないもんかねぇ」

城を見上げるカシューは、自ら述べたこととは裏腹に、まだまだ現役で働くことに未練があるようであった。

その後も街のことなどを取り止めもなく話をしているうちに、リヴが去っていった時と同じ早足で戻ってくる。

「村へ戻るぞ、俺も一緒に行く」

「……ええ、わかりました」

「……先生、何かありましたか?」

カシューが思わず尋ねてしまうくらいには、リヴの表情は険しかった。

「何もない」

「はぁ、それならいいんですが……。厄介ごとなら手を貸しましょうか?」

そう尋ねたカシューを、リヴはキッと睨みつける。

「暇なら俺じゃなくてソラウに…………、なんでもない、忘れろ。ハルカ、俺も一緒にナギに乗せてもらえるか?」

「構いません。えーっと、それじゃあ、カシューさん失礼します」

「あ、ああ、気をつけてな」

リヴの一瞬あらわにした感情に呆けていたカシューだったが、挨拶をされると我を取り戻して軽く手をあげ見送ってくれた。