軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

街の外は危ないので

仲間たちに迎えられてナギから降りると、その後ろに見たことのない人物が二人立っていた。二人のナギに対する反応は対照的だった。

少女は武器にこそ手を伸ばしていないが、警戒心を露わにし、鉢巻きの男は腰に手を当てて楽しそうに見上げていた。

「早かったねー。リヴさんも一緒に来たんだ」

まだ髪の毛を少しはねさせているコリンが、それを撫でつけながら声をかけてくる。

「ナギの飛ぶ速度が上がってるみたいで。まだまだ成長期ですね」

「へぇ、すごいねぇナギ」

鼻の横をコリンがなでると、ナギは嬉しそうに喉奥から低い音を漏らした。

「それで、そちらの方々は?」

「さっき来たばかりでまだあまり話していないよ。情報交換でもしようかって話してたとこ」

「いいときに戻れたみたいですね、リヴさんも大丈夫ですか?」

「ああ」

マルスを見つめていたリヴは、軽く首肯してハルカたちが移動するのについてくる。

自分たちの荷物を広げていた場所にたどり着くと、コリンが小さくなっていた火を起こしてお湯を沸かす。荷物をあさって飲み物でも準備するつもりのようだ。リヴが来ているというのもあったが、本人が眠気覚ましに動いているという事情もあった。

適当に荷物や資材の上に腰を下ろしたハルカたちだったが、アルベルトとレジーナ、それにマルスは立ったまま村の様子を見ている。話し合いの内容にはあまり興味がない組と分けるとわかりやすい。

緊張した面持ちで軽く咳払いをしたポーチは、地面に正座をして背筋をしゃんと伸ばし口を開く。

「 岳竜街(がくりゅうがい) の二級冒険者ポーチと申します。この度は南方ギルド長であるソルカス様より依頼を拝命し、カロキアまでの村々の調査に参りました。間違っていたら申し訳ありませんが、そちらにいらっしゃいますのは特級冒険者のリヴ様でしょうか」

「そうだ」

ポーチは目を大きく広げると、地面に手をついてやや身を乗り出す。

「お噂はかねがね! まさかお会いできるなんて光栄です。あ、えー……、失礼しました。そちらの皆様はリヴ様のチームの方でしょうか?」

「ご期待のところ申し訳ないのですが、私たちはリヴさんとは別です。北方大陸の『独立商業都市国家プレイヌ』にあります、オランズという町から来た冒険者で、私はハルカ=ヤマギシと申します。……一応特級冒険者をやらせていただいてます」

「わっ、あ、ご丁寧にありがとうございます。存じ上げず申し訳ありません」

「ああ、いえいえ、そんなお気になさらずに、少し前に上がったばかりで、ご存じないのも当然ですので」

しばらくお互いにぺこぺことしてから、落ち着いたところでポーチがほかの仲間たちの方にも目を向ける。

「皆さんのお名前も教えていただけますか? あ、後ろにいる変な人はマルスさんです。一応特級冒険者なんですけど、戦い以外ではほとんど頼りにならないので気にしないでください」

絶対に聞こえているはずなのに、ずっとナギに目を奪われているマルスは、ポーチの紹介に何の反応も示さなかった。かわいそうなのはナギで、ずっと見つめられているのが落ち着かないのか、たまにじたじたと前足を動かしたり、顎の位置を変えたりして目を合わせないようにしている。

特級冒険者に十分以上の敬意を払い、冒険者としては破格のまともさを持っているポーチが、マルスに対してはこの言い草だ。ハルカはなんとなくマルスという人物がまともではないのだろうことを察してしまった。

仲間たちが自己紹介している間、こっそりとマルスの観察をしていると、突然グリンと首が回ってハルカと目が合った。そらす暇もなく固まっていると、今度は首を傾げ自分の顎を撫で始める。

「なんか、お前、あったことなかったか?」

「……いえ、初めてお会いすると思うのですが」

「いや、お前じゃなくてそっちのでこから角生えてるやつ」

見られているというのは勘違いで、リヴのことを見ていたらしい。ほっと息を吐いてリヴを横目で見ると、眉をひそめて面倒そうにため息をついていた。

「お前は黙ってよそを向いてろ」

「……あ、お前リヴだろ、思い出したぞ」

「思い出さなくていい」

「俺強くなったんだぜ、久しぶりに手合わせしてくれよ」

「お前はしつこいから嫌だ。それに今は依頼中なんだろ」

「じゃ、依頼が終わったらでいいぞ」

「考えておくからこっちを見るな」

「おう」

そんなあいまいな返事で納得したのか、マルスはまたぐりっと勢いよく首を曲げてナギの方を見る。こっそり横目で様子をうかがっていたナギは、慌ててさっと目をそらした。

「お知り合いで?」

「……かなり昔に、岳竜街で死ぬほど付きまとわれたことがある。異様に回復が早くて、ぼこぼこにしても数日たつとまたけろっとした顔をして勝負を仕掛けてくるんだ。面倒になってこっそり一年ほど姿をくらませていたら来なくなった。バカだからきっと俺のことを忘れたんだろうな」

「…………ちょっと怖いですね」

「勝負は受けるなよ。勝つといつまでも付きまとわれるぞ」

「はい、ありがとうございます」

ハルカは神妙な顔をして頷いて礼を述べた。

朗らかで悪いことをしそうにない顔をしているのに、そんな話を聞くとその表情もホラーめいて見えてくる。

「あの、もしかしてですが……」

それぞれの紹介が終わったのか、ポーチが遠慮がちに声をかけてくる。

「特級冒険者の方が二人もいらっしゃるなんて、すごく大事になっているんでしょうか?」

「えっと、私たちはただ、大きな竜を見に行こうと旅をしていただけなんですが……」

「……え?」

「あ、その、観光を……」

「あ、観光、はい! 観光ですね!」

「なんか、すみません……」

「い、いえ! その、岳竜様はほんとに大きくて見ごたえがありますからね! 見てみたいですよね! わ、私もその、北方大陸に行くことがあったらヴィスタの街とかに遊びに行ってみたいですもの!」

依頼も用事もないのにわざわざ大きな竜を見るためだけにうろつくなんて、どこかのお大臣様でもやらないことだ。聞きなれない単語に聞き返してしまったポーチだったが、ハルカが肩を落として謝るのを見て慌ててフォローに回る。

「お気遣いいただきありがとうございます。しばらくこちらに滞在する理由があったものですから」

「そんな、私の住んでる街を見に来てもらえるなんて嬉しいですよ、本当に!」

ハルカのフォローをしている間に肩の力が抜けたのか、ポーチは最初の頃より柔らかい表情で笑った。