作品タイトル不明
とんぼがえり
村人側の情報を確認した結果、隠れているならず者はもういなさそうだ。
それぞれが家に戻る中、ハルカたちは広場を借りてこれからのことについて話し合う。
男から聞いたことを説明すると、イーストンは渋い顔をして目をそらした。
「念のためカロキアに戻って報告しておいた方がいいのかなーって気がするよね」
「そうですね……、見て見ぬふりはできませんし……」
「ナギに乗って戻るか。ま、急いでるわけでもねーしな」
ハルカの浮かない表情に気が付いたコリンだったが、すぐ横に寄り添っているモンタナを見て、ひとまずそこに触れるのはやめた。
「……誰が行くんだ?」
「全員でもどりゃいいじゃん」
「そうかよ」
レジーナの問いかけに何の疑問も持たずに答えたアルベルト。問いかけた本人もしつこく食い下がったりしなかったが、その意味を理解していたイーストンが補足説明する。
「彼らに村を占領するよう指示した誰かが、この村を確認する可能性がある。誰かが残ってないと、その誰かにこの村はまた占領されちゃうかもって話でしょ」
レジーナは粗暴だが、バカではないし、冒険者としての経験は十分にある。これから何が起こるのか、その想像はアルベルトよりも深いところまで及んでいた。
「占領に失敗したから、自殺を試みたです。つまり、失敗を確認しに来る人がいるですよ。その時彼らが生きていると、家族がひどい目に遭うってことです」
「ふーん。じゃ、確認しに来たやつをぶっ飛ばさなきゃいけないんだな。じゃ、俺が残る」
「あたしも残る」
「君たち、本当に好戦的だよね。それだったら僕も残ろうかな」
「じゃ、私も残るー。じゃないと村の人が不安がりそうだし」
残る組が立候補したおかげで、カロキアに戻る組も自動的に決まる。
転がった男たちを気にしているハルカ。それを心配しているモンタナとユーリ、それにナギだ。
「えっと、それじゃあ私たちで戻るとして、捕まえた人たちはどうしますか?」
「囲って閉じ込めてさ、全員カロキアに運んじゃってよ。ここに置いといて自殺されても困るし」
「……そうですね、わかりました。すぐ準備して出発しましょう」
ハルカが男たちを障壁で囲い込みに行ったところで、コリンはモンタナに手招きをする。
「ね、なんかあったの?」
「あったですけど、多分大丈夫です」
「……ま、モン君がそういうなら大丈夫か。ユーリ、ハルカが元気なさそうだから、ナギの上でいっぱいお話ししてあげてね」
「うん、そうする」
真面目な顔をして頷いたユーリを撫でて、コリンは「よしっ」と気合を入れて背筋を伸ばす。
「こっちも気合入れないとね。ハルカがいないから、怪我のないように気を付けないと」
「できるだけ早く戻るです」
「そうそう、それで早くでっかい竜見に行こうね」
二人はこぶしを作ってそれをこつんとぶつける。
「はい、こっちの準備はできました! ナギ、一度カロキアまで戻りますよ」
退屈していたナギは、名前を呼ばれたことに気が付き顔だけをハルカたちの方へ向けた。全身を大きく動かすと、尻尾が家にぶつかってしまいそうで、おとなしくしていたのだ。
ハルカも色々と思うことはあったが、男たちを障壁に積み込みながら、冷静になって考え直してみていた。
叩きつけられた言葉と感情は強烈で動揺してしまっていたが、では自分がどうしたらよかったのかと考えると、より良い選択肢なんか思いつかない。
ナギの近くへ歩いていくと、小走りでやってきた二人が横に並んだ。
そのどちらもがハルカのことを見上げていて、それに気が付いたハルカは、うっすらとほほ笑んだ。どちらも分かりやすい表情はしていないが、自分のことを心配してくれているようだと察したのだ。
「大丈夫ですよ、ありがとうございます」
「よかった」
手を取ってほっとしたように言ったユーリがかわいらしくて、ハルカはその手を自分からも軽く握りなおす。残っていた嫌な気持ちがすーっと溶けていくようだった。
「ハルカ! さっさと戻ってこいよ。俺はでかい竜が見たいんだ」
「はい! アルは怪我をしたり、喧嘩したりしないように待っててくださいね!」
「わーかってるよ!」
ナギの背に乗り込んだところで、アルベルトが少し離れた場所から声をかけてくる。大きな声で返事をすると、またほんの少しだけ気持ちが楽になった。
仲間たちといつものようなやり取りをするたび、ハルカの気持ちはわずかに上向く。そんな現金な自分に気が付いて、ハルカはまた小さく笑った。
ハルカたちが背に乗りこむと、ナギはいつもよりさらに慎重に空へと浮かび上がる。
カロキアへ戻るという言葉を理解しているようで、空中でしっかり方向転換すると、ゆるりと速度を上げていく。
「ナギ、少し急ぎましょう。鳥にぶつからないようにだけ気をつけましょうね」
ハルカが声をかけると、ナギの飛行速度がぐんとまた速くなる。
この調子で休みなく飛べば、カロキアには翌朝には到着しそうだ。
竜は強く丈夫な生き物なので、休まず一日中飛び続けるくらいはわけない。むしろナギは空を自由に飛び回るのが好きなようで、休憩しましょうと言わないと、疲れた様子を見せずに飛び続けようとする。
ハルカはその場に座ると、頼もしい仲間であるナギの背を撫でてから、顔を上げて捕まえた男たちを閉じ込めている障壁を見つめた。
「モンタナ、さっきは動揺してしまってすみません。一緒にいてもらえて助かりました」
モンタナはぴくりと耳を動かして続きを待つ。
「私は村の人を助けられてよかったと思っています、だから、大丈夫です。……ただ、私はあまり人に怒られたりするのに慣れていないので、また何かあったときは、気にしていただけると嬉しいです」
モンタナは、目を細めてほんの僅かだけ口角を上げて、手に持った光沢のある石に目を落とす。
「……任せるですよ」
モンタナの尻尾が細かに揺れるさまを、ユーリは物珍し気にじっと眺めていた。