作品タイトル不明
強さと怖さ
命があるものたち全員の口に、布を詰め込み猿轡をかける。
死んでしまったのは、主にアルベルトとレジーナが相手をしたものたちだった。
ハルカが相手をしたものたちの中には、まだ意識を取り戻していないものもいたので、無事なものが多い。
戦闘で負った怪我や出血に加え、舌を噛み切るのが早かったせいで、治癒が間に合わなかったのだろう。
イーストンの言葉を受けて、ハルカは改めて大きなため息をついた。
「ただのならず者ではないんでしょうね」
「自害するってことは、情報を外に漏らしたくないってことだからね。彼らにはここにきていない仲間もいるはずだよ」
イーストンの言うことはまず間違いがないはずだ。ここで全てが終わったことにして、後の始末を村人に頼んでしまうと、また襲撃が繰り返される可能性もある。
どこまで手を貸すべきなのか。
ちょっとした旅行のつもりだったのに、思わぬトラブルに見舞われてしまったものだ。
捕まえた男たちに話を聞こうにも、きっと目を覚ましたら自殺を図ろうとする。それを相手が諦めるまで治療し続けることを考えると、ハルカは今からすでに憂鬱な気持ちであった。
まずは村人の話を聞こうと顔を上げる。
するとちらほらと、男性の数が増えてきていた。
家から顔を出した男性が、そのまま走っていって、女性や子供を抱きしめている姿もある。
その光景を見て、ハルカはほんの少しだけ心が穏やかになった。面倒ごとに巻き込まれそうではあるが、やったことがまるで無駄なわけではないのだ。
少なくとも今のところは、再会を喜んでいる家族がいる。
しかし気がついたこともある。
それは彼らの捕まえたものたちをみる憎々しげな視線と、自分たちに時折向けられている怯えるような視線だ。
村を支配していた戦力を、この数で一掃した新たな冒険者。自分たちより圧倒的に力を持つものへの恐怖というのは当然存在する。
たとえそれが恩人であろうと、恐ろしいものは恐ろしい。
少しばかり寂しいが仕方のないことだ。そう自分に言い聞かせていると、コリンとモンタナが寄ってくる。
「ごめんハルカ。周囲の警戒はしてたんだけど、捕まえた人たちまであんまり気にしてなかったから……」
「いえ、私が見ていても同じ結果だったと思います。……なにか、言ってはいけない情報があるんでしょうね」
「それにしたってみんな自殺する? 私さ、戦いの中で怪我するのならともかく、舌を噛み切るのなんてやだなぁ……」
ハルカは自分でもそのことを想像して顔を顰めた。こっそりと自分の舌を歯で挟んでみる。そしてその分厚さを感じ、彼らの異様さを思い知った。
生半可な覚悟でできることでないのなら、それ相応の理由や秘密が隠れているはずなのだ。それを聞き出すのは、とても大変そうなことに思えた。
その方法はおいおい考えていくとして、まずは村人への聞き込みである。ハルカが顔を上げて村人たちの方を見ると、いく人かがそっと視線を逸らす。
注目されることには少し慣れたが、あからさまに怖がられると、心がキュッと締め付けられる。
「悲しいです?」
「……悲しいんですかね、これは」
ハルカが答えると、モンタナは目を伏せてぽんと腕に軽く触れる。いつものように慰められて、ハルカは肩の力を抜いた。
「強いってそれだけで怖いからね、仕方ないよ」
ハルカは神妙な顔をして頷く。
破壊者との混血であるのに、人の世界を旅しているイーストンの言葉は重たい。イーストンは人の営みを好ましいと思っているが、人の多くは、イーストンの正体を知ったら恐れ迫害することだろう。
それを知っていてなお、普通の顔をして旅をしているのだから、イーストンはよほどの物好きなのだった。
気持ちを落ち着けてから、ハルカは村人にどう対応するかを考える。
彼らからすると、ハルカは滅多に見ない別種族のダークエルフだ。同様に獣人のモンタナも別種族、アルベルトとレジーナは聞き込みに向かない。となると、聞き込みはコリンに任せるのが正解だろう。
事情を説明すると、コリンは二つ返事で頷いて両手を頭の上で振る。
「注目ー! ちょっと事情がまだ把握できてないので、誰か詳しい状況を説明してもらえませんかー?」
背が高いわけでも、ガタイがいいわけでもない。明るく柔らかい雰囲気のコリンの問いかけに、おずおずと一人の男性が手を挙げた。
話を聞いてみると、その男性は村長の末息子なのだそうだ。気の弱そうな男性で、コリンの後ろにハルカが立っているだけで、随分と怯えてしまっていた。
事が起こったのはもう十日も前のことだそうだ。時期で言えばハルカたちがカロキアを出る前のことだ。
単純に考えれば、この件がソラウやカロキアの関係者の仕業でないと判断してもいいだろう。
十日ほど前の早朝、突然ならず者たちが村に押し入ってきたのだそうだ。
もちろん辺境の村であるから、それなりに戦える者はいたのだが、満足に抵抗することは叶わなかった。
一月ほど前から行商人として村に滞在していた一団が、突如ならず者に呼応して避難所を襲い、そこにいた女子供を人質としたのだ。
結果、戦えるものの多くは投降し殺され、数少ない抵抗をしたものもならず者たちの前に敗れ去った。
今話をしている村長の末息子は、戦いを恐れて部屋の隅で震えていたおかげで、生き残ることができたそうだ。
「……あの商人たちは、確かにエトニア王国からの通行証を持っていたんだ。絶対に偽物ではなかったはずなのに」
その言葉を聞いて、ハルカとコリンは顔を見合わせる。自分たちだけで抱えるべき問題ではないと、はっきり悟った瞬間だった。