軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

集団行動

部屋の中へ声をかけてみたはいいものの、中からは何の返事も戻ってこなかった。

モンタナと目配せして、そっと扉を開けてみる。

引っ掛かりもなくあいた扉だったが、中を覗き込むと部屋には人がびっしりと詰め込まれたような状況だった。かろうじて座るスペースがあるくらいだというのに、扉があく場所だけは確保されている。

中にいるのは女性と子供ばかりで、痛々しい怪我をしている者もちらほらとみられた。

おびえたような視線を向けられて、ハルカはひるんでいたが、黙っていてもますます怖がらせるだけだと思い口を開く。

「ここの見張りと、仕切っている男たち十数人を倒してきました。ほかにもつかまっている方がいるようなので、順に解放していきます」

「……助けにきてくれたの?」

たまたま通りがかっただけだ。そのまま通り抜けようかと悩んでいたくらいだったが、それを言って心配させる必要もないだろう。ハルカは精一杯表情を柔らかくするよう努めた。

「はい、助けに来ました。まだ敵がいるかもしれませんので、皆さんはここで静かに待機していてください」

「しー、ですよ」

続いて顔を出したモンタナか口元に一本指を立てて言うと、中にいた者たちがこくりとうなずく。安心からか泣き出すものもいたが、それぞれ声を殺して指示に従ってくれていた。

問題がなさそうなことを確認して、ハルカたちはその場を離れて次の家へ向かう。様子が変なことを察して家の外に出てきている者もいたが、モンタナの素早い動きと、ハルカの魔法による不意打ちで、見える範囲にいたすべての住人を解放することができた。

先に見張りを全員アルベルトたちのいる場所へと移動させ、魔法で鉄柵の檻を作って全員を閉じ込める。

そうしてからそれぞれの家に声をかけ、住人たちも順番にその場所へ誘導した。まだ敵が残っている可能性も考慮して、できるだけ静かに、声を発しないようについてきてもらう。

住人はハルカたちの言うことを聞いて静かに待っていたが、その視線のほとんどは檻の中にいる者たちへ向けられていた。

「おそらく、これで全員ですね。……思ったより時間がかかってしまいました」

空を見上げると、出てくるのが遅いことを心配したのか、ナギが旋回を始めている。きっとイーストンとユーリも背中に乗っているのだろう。

「予定とは違ったからねー。ハルカ、ここなら広いし、ナギに降りてきてもらったら?」

村の広場になっているような場所だから、住人たちが集まっていても、まだ十分なスペースがある。

「そうですね。皆さん怖がっているようなので、ナギのことを説明しておいてあげてください」

「はーい。みんなー、上に飛んでる竜は私たちの仲間だから心配しないでも大丈夫でーす。だからあっちこっちにいかないでね、まだ敵がいるかもしれないからー!」

ハルカが空に浮かび上がっていく間に、足元ではコリンの声が響く。だんだんと遠くなるそれから意識を離して、ハルカはまっすぐにナギのほうへと向かった。

ハルカの姿を確認すると、ナギは自分からゆっくりと近づいてくる。

鼻先を撫でてやってから背中へ向かうと、ユーリを抱えているイーストンが見える。

「お待たせしてすみません。何者かに村を占領されていたようなので解放しました。一度あの広場へ降りて村の人の話を聞いてみましょう」

「それで遅かったんだ。じゃ、降りるから、先に下に行って場所を空けておいて」

ハルカたちのしたことに対する反応は淡白なものだった。怒りも呆れもせずに、すぐに対応をする。ハルカたちのとった行動は一般的ではなかったが、イーストンにとっては十分に予測できる範疇のことだった。

ハルカのお人よしにすっかり慣れっこである。

ナギから離れて広場へ戻ってきたハルカだったが、近づくにつれて様子がおかしいことに気が付いた。ざわざわと人が話す声が聞こえてきて、やがて戻ってきたことに気が付いたコリンが、片手を大きく振る。

「ハルカ、早く早く!」

声が聞こえて慌てて降りていくと、コリンは檻のほうを指さした。見れば檻のある場所の地面が黒く湿っている。

「なんか起きた人が次々舌噛んでるみたい!!」

「な、なんで、どうすればいいですか!?」

「ええ、えっと! 一回みんな意識奪って! それから治そう!」

「わかりました!」

檻からはみ出るくらいの水を生み出して全員を包み込む。その中にジワリと赤い色が広がっていくのをハルカはじれったい気持ちで眺めていた。

やがてもがく者もいなくなり、全員の体の力が抜けたところでハルカは檻と水の魔法を両方解いて治癒魔法を使うために近づく。全員拘束しているので、気絶していなかったとしても暴れだす心配はない。

次々と治癒魔法をかける中、コリンが住民たちへ指示を飛ばす声が聞こえてくる。

「えっと! なんでもいいから布、口にかませるための布持ってきてください!」

ハルカはそちらを向いている暇がなかったので気が付かなかったが、何人かの住人が家へ布を取りに走って帰った。

全員に治癒魔法をかけてから、ハルカはざっと男たちの状態を確認する。しかし、幾人かの男は、もうすでに息がなかった。

ハルカは難しい顔をしてそれらを見下ろす。

助けられなかったことへの後悔はほとんどない。どちらにせよ悪事を働いた彼らは、帝国の法に則ってろくな目に合わないと決まっているのだ。

だからと言って、全員が自殺することを選べるほど勇気があるとは思えなかった。

つまり、この集団には何かあるのだ。

使命、あるいは自殺することをいとわないほどの忠誠。

なんにせよ面倒ごとに首を突っ込んでしまったことは、間違いなさそうだった。

風と共に着陸したナギの上から、イーストンが身軽に飛び降りてくる。

そうして地面に転がった男たちを見て眉を顰める。

「……なんか、妙なことになってるみたいだね」