軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

静寂の村

「まぁ、よくある話ではあるね」

事情を聞いたイーストンの第一声がそれだった。なんだかんだといって長いこと人の住む地域を放浪しているので似たようなケースをよく見たことがあったのだ。

「半分くらいは田舎が嫌になって飛び出してるね。もう半分はなんらかに襲われて命を落としているかな」

改めて聞くと随分と厳しい環境であることがよくわかる。これまで旅をしてきた中で、ハルカたちも相当な回数野盗や魔物に襲われている。

野盗に関しては、冒険者らしき一行には手を出さないこともあるようだから、普通の村人の場合、外を歩いた時の危険度はさらに高いはずだ。

「田舎が嫌になって飛び出した人でも、道半ばで命を落とす人はいるから、結果的に七割くらいは亡くなってるんじゃないかな」

「うーん、今回はどっちだろう? 飛び出したのか、襲われたのか」

「襲われたんだと思うです」

「どうしてそう思うんです?」

非情な現実の話を聞いたにもかかわらず、ハルカたちは普段とあまり変わらない様子で会話を続ける。ハルカはまるっきり気にしていないわけではなかったが、知識として取り入れるよう努めていた。

三年近くも冒険者をしていると、この世界で村や街から飛び出したものが帰ってこないという話はよく聞く。

状況に直面する前からその全てに同情してばかりもいられない。

「街に出るのなら、街の方の村へ行く用事の時に失踪するです」

「確かにそうだな。んじゃ、この先なんかいるかもしれねぇってことか。よし、俺が先頭な」

話を聞いていたアルベルトがそう言って前に出ると、いつの間にかレジーナがすでに先頭を歩いていた。

やる気満々で金棒を片手に持っている。

どこで襲われたのかがはっきりしないので、準備していても構わないが、これで商人とでもすれ違おうものなら、慌てて逃げ出されそうである。

ハルカは一応その懸念を伝えようとして、あることを思い出してやめた。

歩きながら振り返ると、ナギが止まってのんびりと森の中を覗き込んでいるのが見える。一歩が大きいので同じペースで歩くのが難しく、たまに止まって道草を食いながらついてきているのだ。

きっと商人たちが正面から来たとして、気にするのはアルベルトやレジーナの武器ではなく、一番後ろにいるナギのことになるだろう。

武器を手に持っているくらい些細なことである。

「たとえば野盗や魔物が付近にいたとして、果たしてナギの前に飛び出してくるようなことがあるんでしょうか?」

「僕だったらまず隠れてやり過ごすけどね」

「出てくるとしたらすごく強い人かもねー」

「一応警戒しておくです」

それから一晩挟んで、一日と少しの間、案の定ハルカたちに襲いかかってくるものは何もいなかった。

やがて視界が少し開けて、割と規模の大きい村が見えてくる。おそらく前の村から使いに出された若者たちも、この村で何かを調達するために向かわされたのだろう。

「もしかしたら、若者たちもこの村でのんびりしてるだけかも知れませんね」

「思ったよりも大きいです」

耕作面積が広く、千人近くは暮らしていそうな村だ。近くに湖があり、その岸には桟橋が伸びて舟がくくりつけられている。

おそらくこの豊富な水資源が、この村が発展している理由なのだろうと推測できた。

「でもなんか変じゃね?」

アルベルトが訝しげに遠目から村を睨む。

すでにナギの姿が確認できるはずなのに、村の正面には誰も出てきていないし、慌てる村人も見えない。

立派な物見櫓には鐘が備え付けられているというのに、その音が聞こえてくることもなかった。

「村に入らずに外をまわって通過してもいいですが……」

「うーん、後ろから襲われるのも嫌だし、依頼的には村が機能してるかの確認はしたほうがいいかも」

コリンの言うことももっともだ。

外から見て建物などに損傷があるようには見えないが、だからといって村人の姿を見ないことには、正しく報告をすることもできない。

その場で話し合った結果、ナギとイーストン、それにユーリは空から先行して村の向こうで待機。残った五人で村の中を探ってみることにした。

さらに村の門に近づいてから、ナギが上空を飛んでみたが、そこまでしても家から出てくる村人の姿は見えなかった。

これはもう、明らかに異常事態だろう。

ハルカたちは固く閉ざされた村の門を避けて、横の高い柵をよじ登る。物見櫓や家々を警戒してはいたが、それでもやはり誰も出てくることはなかった。

全員が入り込むと、モンタナが右上の櫓を仰ぎ見て呟く。

「人、いるですけどね。上にも、家にも」

「じゃあなんで出てこねぇんだ?」

「それを調べにきたんでしょー」

そんな雑談をしていると、肩に武器を担いだレジーナが近くの家を睨んで、おもむろに歩み寄った。

足音が出ないように気をつけているのか、その動作がゆっくりだったおかげで、不穏な気配を感じたハルカは先に声をかけることができた。

「レジーナ、何をする気ですか?」

「家ぶっ壊したら出てくるだろ」

「……先に声をかけてみません?」

「何かあるから隠れてるんだろ。それなら敵だ」

「いえ、単純にナギが怖かったから隠れてるだけかもしれませんし……」

「これだけいるのに全員が? ねぇだろ」

「……わかりました、じゃあ私に一度声をかけさせてください。相手が攻撃してくるようなら、捕まえて事情を聞き出しましょう。モンタナ、この家にも人はいるんですよね?」

「いるですよ」

レジーナの言うことにも一理あると思ったハルカが折衷案を出すと、レジーナはやや不満そうな表情をしながらも、道を空けて顎で先に行くよう促すのであった。