軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

消えた若者

とるものもとりあえず駆け付けたであろう村人たちが、足を震わせて横並びになっていた。多くのものは手に農具を持っており、ちらほらと武器を構えているものもみられる。

ハルカはその姿を見て、初めて人を殺してしまった時のことを思い出した。そういえば彼らの一部も、農具を武器に襲い掛かってきていた。村が崩壊し、どこへも行けなくなったものが野盗へ堕ちていくことは、この世界でよくあることなのだと再認識する。

しかし、いまこの時において、彼らの行動はまったくもって正しい。

見たこともない大型の飛竜が道を歩いてきて、逃げ出さずに武器を構えて集まった彼等は勇敢であるといえた。

こうなることはあらかじめ予測していたので、ハルカは仲間たちの周囲に障壁を張って一人先行した。万が一先手を取って仕掛けられたとしても、ハルカなら怪我をするようなこともない。

ナギにもうちょっとかわいらしい装飾品とかをつければ、ここまで怖がられないのではないだろうかなんて、しょうもないことを考えられるようになったのは、もしかしたら精神的に成長している証なのかもしれない。

今はただ、村の人々の生活を邪魔したことが申し訳ないばかりである。

「争う意思はありません! 私たちは冒険者ギルドから依頼を受けて、村を確認して回っている冒険者です。こちらの村の皆さんがお元気なことは確認しましたので、このまま頭上を通り抜けさせていただきます。もし真偽が気になる方がいらっしゃるのならば、依頼書をお見せすることもできますが、いかがでしょうか?」

十分に距離を取ったまま声を張ると、村の代表者と思われる男から返事があった。

「そのまま通り抜けてください! お話を信じます!」

本当に信じているかどうかは、ひきつったその表情を見ればまるわかりだったが、そこに突っ込むのは野暮というものである。たださっさといなくなってほしいという言外の祈りを受け取ることができた。

「それでは通過いたします! お騒がせして申し訳ありませんでした」

それ以上粘ってもただ心労をかけるだけだ。

ハルカは素早く振り返って仲間たちの下へ戻った。

「ま、当然あの対応だよねー。でもほら、これで依頼を一つ達成と」

コリンが地図上の村の上に、日付を書いて丸印で囲む。村の存続を確認できたので依頼を一つ達成である。

「でもこの調子だと、村での補給は結構難しいかもしれないね」

「でしょうね。圧力をかけて無理やり買い取るような真似もしたくありませんし」

「ごはん探しながら歩くですよ」

モンタナが久しぶりにふらりふらりと茂みに入って小動物を捕まえていたのはそんな理由もあったのだろう。木になるような実は冬につくものも割と多い。気にしながら歩いていれば、収穫がゼロということもないはずだ。

さっと村の上を通り抜けて、すぐにまた道に降りる。

やはり自分たちのペースで進める旅というのは、精神的に楽しいものだ。初めての旅だったらこうもいかないが、冒険者の階級ではベテラン、旅をするものとしても中級者くらいの経験はしてきている。

モンタナが茂みの中へ入っていくのに、途中からユーリもついていくようになった。

後でハルカが聞いてみると、モンタナは足音の消し方や、冬に食べられる植物を教えてくれたらしい。ハルカも以前モンタナから教わったことだ。ちなみに足音を消す才能はないらしく、遠回しに狩りは任せてほしいと言われたことがあった。

モンタナがそういうからにはおそらく相当に才能がないのだろう。

適材適所という言葉が頭に浮かんで、ハルカは狩人の真似事はすっぱりそこであきらめることにした。

同じようなやり取りをしながら道を進むこと一週間。たまにすれ違う商人や、村を行き来する村人たちにも、いちいち怯えられながらも、ハルカたちはこれといった戦闘もなく道を進んでいた。

ある村にたどり着き、ハルカがいつも通りの文言を伝える。

すると珍しくそこの村長がハルカに依頼書を見せてほしいと言ってきたのだ。足腰の衰えたその老婆は、杖を突きながらよぼよぼとハルカの下へ歩み寄ってくる。どこかでつまずくのではないかと思い、はらはらしながら見守っていたハルカだったが、その老婆はふらつきながらも無事にハルカの下までたどり着いた。

依頼書を手渡すと、老婆は顎を引いて依頼書を遠くへやりながら目を細める。

「あぁ、確かにこれは依頼書じゃなぁ。儂もその昔は冒険者をしておったからわかるよ。いまじゃこんなよぼよぼの婆じゃが、当時はカロキアでも一目置かれる一流の冒険者じゃった」

「おばあさんはカロキアの出身なんですね」

「ああそうじゃ。じゃが突然冒険者稼業が嫌になってのう。こうして村を興してこの年までのんびり生きてきたんじゃが……。はて、冒険者さんはこの村より先に進むつもりなんじゃろ?」

「ええ。このままずっと進んで、巨大な地竜がいるというところまで行こうかなと」

「あぁあ、あそこを目指しとるんか。見たところででかすぎてなぁんも面白くないぞぃ」

「それほど大きいのなら、見るだけでも価値がある気がしますが……」

老婆はそれを聞いて、せき込むようにしばらく笑った。

「冒険者じゃのう、若いのう。儂も若いころは……」

何かを話し出そうとして言葉を止め首を振る。

「世間話をしに来たんじゃなかったわ。この道を一日半ほど行った先に、小規模な村があるんじゃがな、そこに行った若者がもう二週間も帰ってこんのじゃよ。じゃから気を付けるようにと、そう言いに来たんじゃった」

「それは、ありがとうございます」

「あいや、たまには村の外から来たものともしゃべりたいからのう。ついでに必要なものがあったら融通してやろう。もちろん、これは払ってもらうが」

指でわっかを作り、老婆はまたせき込むように笑った。

それはともかくとして、ハルカには気になることがある。

「それで、その若者を探しには行ったんでしょうか?」

「んん? いかんよ」

「行方が分からないんですよね……?」

「……ダークエルフの冒険者さんは、もしや都会の出身かのぅ? 村の若者が適当なこと言って飛び出していくことなんて、よくあることなんじゃよ。いちいち騒ぎ立てるほどのことでもないし、それを捜索するための人員なんておらん」

「しかし、あなたは若者が行方をくらましたことを不審に思っていらっしゃるようでした」

「……そうだとしても、余裕はないからのう。儂にできることは、この村に来た強者に、この先の不穏な空気を伝えることくらいじゃよ。村で補給できるものは、割安で融通してやろう、これでいいかい、冒険者さんよ」

「ありがとう……ございます?」

ハルカは純粋に疑問に思い質問を投げかけただけだったが、老婆はそうは取らなかった。

この先の村に危険があった場合取り除いてやるが、お前らは何を出せるんだ、と交渉されたと考えたのだ。ただの深読みであったが、結果的にお財布係のコリンは、必要な穀物類を安く手に入れることができて大満足であった。