軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

旅行の始まり

せっかく宿を取っているのだが、ナギ一人を残しておくわけにもいかず、ハルカたちはリヴの庭に泊まることにした。

旅に出る時もあまり急がず、できるだけ道を歩いていくつもりである。そうでないと、ナギが安全だという触れが間に合わないからだ。

どうせ歩いていくのならば、そのまま北方大陸に向けて戻るのも一つの手だ。

しかしせっかく自由に国内を彷徨いていいというのなら、リヴの言っていた巨大な地竜くらいは見てみたい。

アルベルトやモンタナ、それにこっそりとユーリとハルカもその巨大な地竜を見ることを楽しみにしていた。

幸いなことに、レジーナが一度見に行ったことがあるらしく、そこまでの道は大体覚えている。

翌日にはギルドで地図を購入して、必要な食料を買い込み、みんなで頭を寄せて旅の予定を話し合う。

旅にも慣れて、切羽詰まった用事もない。気を抜いてばかりはいられないが、計画を立てるのは楽しい。

街で情報を集めたところ、帝国の主要な街は大きな道でまっすぐ南北へ延びており、その道に限ってはかなり安全性が高いらしい。

ただし、それを一本外れると危険度は他の場所とさほど変わらない。

領土といっても、ほとんど人が立ち寄らないような場所は山ほどあるのだ。また、ほとんどの商売がその主要道だけで完結してしまうせいで、脇道に逸れると道は随分と荒廃するそうだ。

帝国も新しい村を興すことには積極的に手を貸しているそうだが、その全てがうまくいっているわけではない。

地図にあるはずの村が、補給のために訪れたら無くなっていたなんて話はザラにあるそうだ。

それで冒険者が戻ってきて報告をすれば地図情報は更新されるが、面倒がってしないものだっている。

用意した地図は必ずしも信頼していいものではないということらしい。

とはいえハルカたちは、補給ができなくても最低限生活していくことに支障はない。水は魔法で用意できるし、食べ物は野生の動物を狩ってきてもいい。

いざどうしようもなく困ったら、ナギに乗って街まで戻ってくるという手段も残されている。

旅は決して油断していいものではない。しかし冒険者に憧れて育ったアルベルトたちにとっては、やはり胸の高なる冒険に他ならないのであった。

そして旅に出るのに手ぶらでは気が済まないのがコリンだ。手ぶらというのは、荷物の話ではない。依頼や目的なしに、という意味合いである。

そんなコリンはどんな話をしてきたのかわからないが、カロキア冒険者ギルドの支部長から、依頼を一つ引っ張ってきていた。

その内容は、地竜が住んでいる土地までの村を確認してくることである。

先ほど地図の話で触れたように、新興の村は増えたり減ったりを繰り返している。そして減っている場合は、自然消滅以外に理由がある場合がある。

例えば山賊。あるいは強力な魔物や、 破壊者(ルインズ) の出現などがそれにあたる。

一つの村の存亡を確認するごとの出来高で報酬が出るそうだ。滅んでいた場合、ついでにその原因を排除してくれば追加の報酬ももらえるとか。

割りのいい仕事ではないけれど、通り道のついでにやるくらいならば悪くない依頼だ。

そんなわけで、ハルカたちは主要道から外れた、少々危険の伴う道を経路に設定したのであった。

ナギが街に降りて三日。

子供達が忍び込んでこようとしたり、いい大人たちが忍び込んでこようとしたりするというトラブルはあったが、ハルカたちは順調に旅の準備を終えた。

リヴもナディムたちも忙しそうに毎日を過ごしていたが、旅に出る前の挨拶をすることはできた。

早朝、まだ空が暗いうちに、ハルカたちはナギの背中に乗り込む。街の外に出るためには、一度空を飛ぶ必要があるからだ。

事前に知らせていなかったというのに、ナギの飛ぶ姿を見ようと、街の人がちらほらと庭の周囲に集まってきていた。

街の人にとって、ナギの姿は大きく恐ろしい。

しかし同時に、それに憧れるものだっているのだ。

目を輝かせてナギを見上げる子供たちを見て、アルベルトが笑った。

「あいつら、いつか冒険者になるかもな」

「そうかもしれませんね」

「俺もさー、それまでにもっと有名で立派な冒険者になってるんだ」

「なんかいいですね、そういうの」

「だろ?」

意外なことに、忍び込もうとして止められた子供たちを、ナギのそばまで連れていったのはアルベルトだった。

冒険・強さ・未知なるものへの憧れ。アルベルトにはその気持ちがよく理解できたらしく、震えながらもナギを見て目を輝かせた子供達と、楽しそうに話をしていた。

コリンと一緒に遊び混じりの戦闘訓練までつけてやっていたのを見ると、案外子供好きなのかもしれない。

かっこいいとか、強いとか言われてまんざらでもない表情をしていた。子供がいる間は、ナギも心なしかキメ顔をしていたようだった。

逆に子供に一切近付かなかったのはモンタナだ。子供達の視線がゆらりと揺れる尻尾に集まった直後、何かを察して素早くレジーナとハルカがいる方へと逃げていった。

レジーナは子供を見ても容赦なく怖い顔をしているし、ハルカは応対が得意でないので積極的に近寄ろうとしない。

要するに、子供が近寄りがたい二人を盾にしたということなのだが。

ちなみに忍び込もうとしてきた大人は、瓶底眼鏡をかけた妙な男だった。どうしてもナギを見せてほしいと這いつくばって頼んでいたが、どう見ても不審者である。

しかし何やら立場のある人物のようで、兵士たちに両脇を抱えられて丁重に運ばれていった。

どこにでも変人というのはいるものである。

ほんのしばらくの間だけ空の旅をして、主要道からの分かれ道付近で、ナギはゆっくりと降下する。

ここからは歩いての移動だ。

「なんかちょっと久しぶりですね、この感じ」

「たまにはちゃんと歩かないと鈍るからな」

張り切って先頭を歩こうとしたアルベルトの腕をコリンが掴む。片手には地図を持っており、真剣な顔で分かれ道を確認していた。

「アル、進む道こっち、ね!」

コリンが指し示した方向は正しい。

最後にハルカの方を向いて確認さえしなければ、もうナビゲーターを名乗ってもいいだろう。

ハルカはちょっと自信無さげなコリンの仕草に笑って答える。

「ええ、そちらで合ってますよ」

ハルカたちは主要道を外れ、少し細い道に折れて進む。

モンタナが尻尾を揺すりながら先頭を歩き、一番後ろには、これまた尻尾を揺らしながらナギがついてくる。

最初の村に辿り着くまで、徒歩でおよそ半日。

ほんの一ヶ月ばかりの予定だが、帝国領の旅が始まろうとしていた。