軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

混血児

「なぜ知っているんだ? ここに来るまでに立ち寄ったのか?」

「いえ、まっすぐここまで来ましたよ」

「ではエトニア王国が北方大陸の国とやり取りをしている?」

「……お互いに情報を交換しませんか? 探られなくても話せることは話しますから」

交渉ごとになってしまうと、余計な情報まで漏らしてしまいそうで、ハルカは早めに白旗をあげた。

「俺がお前たちにとっての有益な情報を持っているとは限らないぞ」

「わざわざ親切でいかないように忠告してもらったんですから、少しくらい損をしてもいいと思っています。……いいですよね?」

最後に心配になったハルカは仲間たちに確認をとるように振り返る。

「ただ問題が起こらないようにと思っただけかもしれないだろ……、何でもよく受け取るな」

あきれたような口ぶりのリヴだったが、表情は困り顔だ。

冒険者として生きていくうえで、無条件に善人だと思われるのはあまり良いことではない。他者に付け込む隙を与えないために、わざと露悪的なふるまいをするものもいるくらいだ。

レジーナの攻撃的な性格も、防衛的な意味合いから生み出されたものだったともいえる。

これまでリヴがハルカたちに見せてきた表情は、どちらかといえば誠実で親切なものだった。このあたりでバランスを取ろうとしたのかもしれないが、ハルカの警戒心が薄いせいでやりづらいようだった。

調子が崩されると、本来うまくごまかせている仮面を見破るのも難しくなくなる。リヴを善人寄りなのだろうと解釈している仲間たちは、ハルカの好きなようにしてもらおうと反対意見を出さなかった。

「北方大陸にも、エトニア王国からやってきた吸血鬼が支配している地域がありました。北方大陸への橋頭保を築くつもりだったようです。依頼を受けてその地域を解放したことがあります」

「……意外と手広いな。案外町にも紛れ込んでいるかもしれない」

リヴがもう一度ちらっとイーストンを見る。

「僕は関係ないって言ってるでしょ」

「あの、イースさんはその地域を解放するときも積極的に協力してくれました。そもそも私がイースさんと初めて共闘したのは、街で悪さをしている吸血鬼と戦った時です」

「吸血鬼も一枚岩じゃないというわけか」

「……というか、リヴさんは何でイースさんを吸血鬼だと思うんですか?」

「特徴がいくつか一致するからだ。この地域で白い肌は目立つぞ。日中けだるそうな様子も赤い瞳も、吸血鬼の特徴だろ」

イーストンは平然とした顔をしていたが、内心反省しきりだった。

ハルカたちと長く一緒にいたせいで、つい擬態がおろそかになっていたのだ。ひとところに長くとどまらない。強そうな人物には近づかない。日中も普通にふるまい、できるだけ顔は見せない。

そんな当たり前のことをしなくなっていた自分に気づき、深くため息をついた。今更ごまかしようがないと、あきらめて口を開く。

「正しくは、吸血鬼と人間の混血。能力の詳細までは言わないけどね。みんなも知っていることだけど、それで君はどうしたいの? さすがに退治するっていうのなら、頑張って抵抗するけど」

「混血……、…………研究所の出身ではないな?」

「研究所が何なのか知らないけど、僕は北方大陸の出身だよ」

「……そうか。いや、別にどうしようというわけではない。エトニア王国所属の吸血鬼でないのなら、これ以上言うことはない」

「…… 破壊者(ルインズ) と人の間に子供が生まれるのって、普通のことです?」

黙って話を聞いていたモンタナが、突然リヴの目をじっと見て質問を投げた。リヴはそのまっすぐな瞳と急な質問に、しばし考えるように黙り込む。

「……いや、一般的にはあまり知られていないことだ」

「僕もあまり聞いたことがないね。でも君はあっさりそれを信じた上に、研究所なんて言葉も出てきた。僕の秘密を知ったわけだけど、そちらも何か話すことがあるんじゃないかな? それでお互い様ってことにしておかない?」

イーストンがモンタナの話に便乗して告げる。

ちなみにハルカたちの一部は話に全くついていけないが、ままあることなのでおとなしく姿勢を正して聞いている。

「お前ら、何か確信があるくせに何ではっきり言わない」

「君がどうしても話したくないなら聞かないつもりだから。一方的に弱みを握られてるわけじゃないっていうのは、伝えておかないといけないしさ」

「……めんどくさい奴だな」

そう言いながらもリヴはわずかに微笑んでいた。がりがりと頭をかいて、それから額につけた角付きの鉢金を外す。

すると外された鉢金の下から、小さな角が二本、左右に現れた。

根元に向けて徐々に肌の色に近くになり、完全に一体化しているのが見て分かった。前髪を完全におろしてしまえば何とか隠せる程度の小さな角であったが、物が見えてしまえば違和感はぬぐえないだろう。

「そこのイースってやつと同じだ。ソラウは知っているが、他言はするなよ」

「……その角じゃ、ごまかすの大変だったんじゃない?」

「それなりに苦労した」

イーストンはその苦労を考えて顔をしかめる。

見た目だけならば普通の人とそう変わらないイーストンであっても、外を出歩くのに色々と気を使い工夫をしてきたのだ。リヴのようにパッと見ただけで分かってしまうような特徴を持っていて、よく大人まで成長することができたものだと思う。

ハルカたちは 破壊者(ルインズ) に対して妙に寛容だが、普通街に暮らす人間というのは、それらしい姿を見ただけで寄ってたかって殺しにかかるか、逃げまどって強者へ討伐の依頼をする。

「幸か不幸か、体に半分流れる鬼の血のおかげで、怪力で体は丈夫だったからな。死にはしなかった、それだけだ。妙な顔をするな」

ふっと鼻で笑うリヴは、イーストンの表情も、過去にあったこともそんなに重く見てはいないようだった。

「話を戻すぞ。とにかく、エトニア王国には行くな。忠告はしたぞ。もし行って襲われたとしても、帝国のせいだと言って復讐とかをしに来るなよ?」

「しませんよ、そんなこと!」

「なら別にいいけどな」

少しふざけたようにされた忠告に、ハルカはとんでもないと首を振った。それから、聞いたエトニア王国の話を考えながらリヴに問いかける。

「帝国としては、エトニア王国をどうするつもりなんですか?」

「すぐにはどうにもできないだろうな」

「……人がかなり犠牲になっているんですよね?」

「そうだ」

「では何とかしなければいけないのでは?」

「政治的に、いろいろと問題があるらしい」

帝国に長く住んでおり、皇帝であるソラウとも親しいはずのリヴが、まるで他人事のように淡々と答える。

それが理解できずにさらに質問をしようとしたところで、リヴが先に声を上げる。

「この話は終わりだ。ひと月くらい放浪するんだろう? 『鵬』との境にでかい地竜が住んでいる。そのおかげで、そこは戦場にしないことが決まっているくらいにでかくてな。一回拝んでおいてもいいんじゃないのか?」

「……そうですか、ありがとうございます」

ハルカは聞かれたくない話をしつこく尋ねるのは得意でない。どうしてもということではなかったので、のどに小骨が刺さったような気分ではあったが、礼を言って質問をひっこめた。