軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

人気者

最初は静かに隠れていたナギだが、小一時間もすると逆に興味深げに周囲の人々を観察し始めた。

顔だけ上げてみたり、口を大きく開けてみたり、尻尾を揺らしてみたり。その度に返ってくる反応が面白いらしく、やはりそれから一時間ほどそうして遊んでいたが、やがて飽きたのかいつも通りのんびりと過ごすようになった。

次に盛り上がったのは、ナギが食事をするときだった。

魔物が賞金首であることが確認されたので食事を始めたところ、あちこちから悲鳴が上がる。

巨大な肉の塊をむさぼる竜の姿は、それは恐ろしく見えるだろうとハルカは心配したが、そうではない。近辺で悪さをしていた魔物を貪り食べる巨大な竜を見て、街の人たちは喜んでいたのだ。

予想外の反応に驚いたが、ハルカはすぐにご機嫌になった。ナギが人々から認められたことが、単純に嬉しかったからだ。

心配事が一つ減ったところで、ハルカは周りの屋台を見まわして、ふと買い物に行こうと思い立つ。折角近くにこうして店をたくさん出してくれているのだ、買いに行かない方が失礼だと、妙な使命感に駆られて仲間に声をかける。

「あの、私ちょっとご飯を買いに行ってこようかなと思うんですが」

提案をした瞬間に仲間たちからぬるい視線を向けられてハルカはたじろぐ。

「な、なんですか?」

「そろそろ言い出すんじゃないかなーとは思ってたんだよねー」

「わかるですけど混んでるですよ?」

「ハルカっていつも食い物のこと考えてるよな」

たしなめられるように仲間たちからお言葉を貰い、ハルカは思わず反論する。

「そんな食いしん坊みたいな言い方をしないでくださいよ」

「そうだろ」

レジーナにまで言われてハルカが黙り込むと、ユーリがハルカの手をそっと握って見上げてくる。

「良い匂いするもんね、仕方ないよね」

にっこりと微笑み慰めてくれたユーリに、ハルカは余計にダメージを受けた。

「……まぁ、私のことはともかく、そろそろ食事をしたいので皆の分も買ってきますから、ちょっと待っててくださいね」

「僕だったらいかないけど……、まぁ、止めはしないけどさ」

日陰で座り込んでいるイーストンの言葉も聞こえたが、ハルカはそのまま門へ向かい、外へ出て、すぐに戻ってきた。

呆然とした表情で、何度も瞬きをしながら仲間の下へ戻ると、笑って迎えられる。

「な、なんか、あの、人がたくさん集まってきて怖かったので、一度逃げ帰ってきました」

ハルカが門の外に出た瞬間、辺りから声が上がって人が殺到してきたのだ。慌てて門を閉じて中へ逃げ込んだが、未だに心臓がバクバクしているような気がしていた。

「だから言ったでしょ、僕だったら行かないって。うまいことやるものだよね。これだけ街の人に顔を覚えられて歓迎されたら、今後は街に入ったらすぐにばれる。ハルカさんも、歓迎してくれる街の人を人質に交渉なんてもうできないでしょ」

「そういう意図はあるだろうな」

「逆にこちらに発言力を与えたともいえるけどね」

「裏切らないという証だろ」

見た目の若いお年寄り二人が複雑なことを話している。言っていることはよく理解できるが、今この瞬間だけの本音であるならば、ハルカは屋台を巡れなかったことを残念に思っていた。

ハルカが屋台の背中を眺めていると、近くにいたレジーナが怖い顔をしたまま立ち上がる。

「あたしが行ってくるか? 何人かぶん殴れば大人しくなるだろ」

「……レジーナ、気持ちはありがたいですが、絶対に問題になるのでやめておきましょう」

「ちょっと待ってろ、ムバラクを走らせるから」

物騒な会話に笑ったリヴは、堂々とぱしらせる宣言をして門の外にいる兵士へ声をかけに行った。お陰で屋台飯にはありつけそうだが、事を重ねるにつれてムバラクが哀れに思えてくるハルカであった。

日が暮れて周囲の人が減り始めた頃、門へ迎えに来たナディムと共にシャディヤは宿へ戻っていった。店番は近所の住人に任せてきたらしい。

ナギの近くに来た時、ナディムは強がってはいたが表情は引きつっていたし、足はわずかに震えていた。声に出さなかっただけ立派だろう。

また夜中には宿に戻ることを約束し、ハルカたちは一時的にこの場に残る。

まだ、リヴからのお話とやらを聞いていない。

夜。

イーストンの紅い眼が角度によってはうっすらと輝くように見える時間だ。そう見えるだけと言い張ることもできるが、見る人が見れば一つの判断材料にもなる。

イーストンもリヴも地面に腰を下ろしているので、一触即発という雰囲気ではなかったが、その場の空気が徐々に緊張をはらみ始める。

「……ハルカたちは南方をうろつくつもりだったな?」

口火を切ったのはリヴだった。

「ええ、一月ほどはそうするべきだと言われましたから」

「予定は?」

「特にありませんが……」

「なら北東のエトニア王国領へは行くな。一応あそこはグロッサ帝国の傘下だから、ソラウの証明章の効力はある。ただそれ以外のところに問題があるからな」

「……問題、ですか?」

エトニア王国領という名前にハルカたちは聞き覚えがある。そしてわずかに反応が遅れたことを反省していた。

リヴの琥珀色の瞳がハルカをじっと見つめ、それからイーストンへ移っていく。

「何か知ってるな?」

「……念のため言っておくけどね、僕は関係者じゃないからね」

イーストンがまたため息をついて答える。

エトニア王国領。カーミラと出会った時にいた吸血鬼から聞いた、吸血鬼の王国の名前だった。