軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

様子窺い

ダイナモスは前に出てきたコリンと、傷だらけの魔物を交互に見てハの字型の眉を持ち上げた。

「ではお先にどうぞ」

リヴと話していた時とは違って、ダイナモスはどっしりと落ち着いた様子で、話の主導権をあっさりと譲った。

「あー、あの魔物、賞金付きじゃないかなーって話だったんですけど、そちらもその話でした?」

少し弱気に見えたダイナモスに交渉の余地ありと思ったコリンだったが、いざ話し始めてみると様子が違う。

欲張らずに相手の出方を窺うことにした。

「ええ、確認をして、もしご存知ないなら説明をと思いましたが、要らぬ心配だったようで」

「あ、それなら大丈夫でーす。何か証拠とか渡さないとダメですか?」

「いやいや、小一時間ほどいただければ、生存時を見たことのある冒険者を連れてきて確認させますよ」

「じゃ、それでお願いします」

「こちらこそ、まだ暫定ではありますが、討伐ありがとうございます。あなた方がその魔物を狩ったと街のものに話しても?」

「あー……、ハルカいいよね?」

「まぁ、いいんじゃないでしょうか?」

「ってことで、大丈夫です」

「ではそのように」

互いに挨拶をして引っ込むと、コリンはそのままハルカの隣までやってきて囁く。

「なんかあのおじさんやりづらいかも」

「なんというか、まともそうな人ですよね」

「冒険者っぽくも商人っぽくもないからさー、変な感じ」

「リヴさんのこと先生って言ってたですから、元兵士かもしれないです」

「あー、なるほどねー」

モンタナの推測にコリンが大きく頷いていると、リヴが歩み寄ってくる。

「もう一人の仲間っていうのは、そっちのやたらと顔のいい男か」

「そういうあなたは特級冒険者のリヴさんかな?」

互いに正面に立たずに横目で視線を交わす。何かを探るような、妙にピリついた空気の中、イーストンはため息をついてリヴの方を向く。

「イースだよ。このチームじゃ一番新参者」

手を差し出しながら名前を告げると、リヴもそれに応じて手を差し出し、二人は握手を交わす。

「リヴだ。特級冒険者をしている。……綺麗な赤い目だな、夜に映えそうな」

「そちらこそ素敵な飾り物を額につけているね。よく似合っていると思うよ」

互いに褒め合っているようで、雰囲気はますます不穏なものになっていく。

その場にいたほとんどのものは、この妙な緊張を察して困惑していたが、よくわかっていないハルカはポツリと「気が合うんですかね?」と呟き首を傾げた。

それを聞いたイーストンはため息を吐き、リヴは首を振る。

「仲間が世話になったってきいたよ」

「いや、寛容な奴らで助かった」

「おおらかすぎてたまに心配になるけどね」

「後で相談がある。他の奴らも交えてで構わないがいいか?」

「ハルカさんと相談して。言ったでしょ、僕は新参者なんだよね」

「ならそうする」

「はい? 何かありましたか?」

聞いていたハルカが尋ねるとリヴは笑う。

「後でいい。また時間を作ってくれ」

「わかりました、ではその件はまたのちほど。ところで……人がやたらと多いのですが、ずっとこんな調子ですか?」

「いや、おいムバラク、説明しろ」

「はい!」

すっかり従順な態度のムバラクが一歩前に出て、背筋を伸ばす。

「完全に日が落ちてからは、庭に明かりを灯したりはしませんので見物客もいなくなるはずです。夜の最初の見回りに合わせて、残っている用のないものは全員周囲から追い出します。その後は部隊を一つ丸々使って周辺の警備をします。その際必ず私かナーイルが部隊の指揮を執らせていただきます!」

まるで新兵のように、目を合わせることなく大きな声で報告をしてくれた。以前会った時と態度が違いすぎて怖いくらいだ。

すぐ近くでリヴがジト目でその様子を観察しているので、ムバラクとしても気を抜くわけにはいかないのだろう。

それを不憫に思ったダイナモスは、遠い目をしてムバラクのことを見ないようにしていた。

「もし不審者が庭に入ってきたら、侵入経路にいた兵士と当該人物の処遇はハルカたちに一任する。これはソラウからの通達だ」

「一任……というのは?」

「煮るも焼くも自由にしろということだ。実際どうするかはさておき、それぐらいは気合を入れて警備をするんだよな、ムバラク?」

「は、おっしゃるとおりです!」

自国民や兵士の命を、侵入したくらいで相手の自由にする。つまりこの庭は治外法権になっており、ハルカたちのルールに則って罪罰を決めていいということに他ならない。

帝国ほどの大国がそれを認めることなど滅多にないだろう。同等以上の国力を持つ賓客に与えるような待遇だ。

ハルカたちとは敵対する気がないという、帝国の意思表示がそこにはあった。

「まぁ、ナギと仲良くなりたい人だったら別に入ってきてもいいんですけどね」

ナギは体を伏せたまま、鼻先においた魔物の死体を使って街の人たちからの視線を遮っている。

昔はハルカの後ろに隠れようとしてきたものだが、流石にこの大きさになるとそれもできない。

ハルカも街を歩くとよく人に見られるので、視線が気になる気持ちはわからないでもない。

「ナギ、夜には静かになるらしいですから」

ハルカの声かけにグルルとナギが答えると、周りからまたワッと悲鳴が上がる。

そのまましばらく伏せていたナギだったが、やがてそろりと首をもたげて周りの様子を窺い始めた。

ナギもこれだけ大きくなったから、もはや人が怖いわけではないのだ。ただ視線をたくさん浴びて気後れしていただけである。

あんまり嫌がるようならすぐに街の外に出ようかと思っていたハルカだったが、逆に民衆を観察し始めたナギを見る限り、その必要はなさそうだ。

「では挨拶できましたし私はこれで」

「ムバラク、お前も警備に戻れ」

「はい先生!」

二人はそうしてリヴ邸の正門へ向かう。

「お前たちはしばらくここでのんびりしていけ。今外に出ると囲まれるぞ」

「そうだな、うるさそうだ」

騒がしいことが嫌いではないアルベルトでも、あの民衆に囲まれるのは流石に嫌なのか苦い顔だ。

ハルカたちが周囲の様子をぐるりと見ていると、ムバラクたちが去っていった方から、ワッと歓声が上がる。

「……魔物を狩ってきたことをいいように話したんだろうな」

「大型飛竜を連れた冒険者たちが、悪いやつじゃないと刷り込むため?」

「そうだろうな。気に食わなきゃ抗議しに行ってもいいぞ。誰も文句は言わない」

イーストンが言い当てた推測をあっさり認めたリヴは、つまらなさそうに鼻を鳴らした。

「悪い噂じゃないなら良いと思うです」

「そうだねー」

つい数日前までは街で大暴れすることも視野に入れていたせいで、どうにもすっきりはしない。そもそもこういう政治的なことは、ハルカたちに限らず冒険者はあまり得意ではないのだ。

その得意でない代表者のようなレジーナは、眉間に皺を寄せ舌打ちをしてから「ウルセェなぁ……」と呟くのであった。