作品タイトル不明
悲鳴も歓声も似たようなもん
コリンがどうにかナギの獲物を確認したところ、すでに皮はズタズタになってしまっていた。切り取って持っていってもいいが、難癖をつけられたら証明できないレベルだ。
そこでコリンが考え付いたのは、この魔物を食べずにこのまま街の中へ持ち込んでしまうという方法だった。ナギはちょっと嫌そうな雰囲気を出していたが、コリンがお願いするとしぶしぶ食べるのを中断して、ぺたんと顎を地面につける。
「ナギー、ありがとねー、ごめんねー? 今度一緒に狩りに行こうね」
お礼をたくさん言われて頭を撫でまわされると、ナギもまんざらではなさそうだ。ここまで大きくなってもナギはまだまだハルカたちに構ってもらうのが好きなのだ。大人しくしているが、一緒に出掛けてやるととても喜ぶ。
それはそうと、説明をしているうちにナギに触れられるようになったシャディヤを確認して、ハルカはさっそく移動を申し出る。
「そろそろ街へ戻りましょうか。ナギの背に乗ればすぐに到着するはずです」
「の、乗るんですよね。途中で落っこちたりしませんか?」
ごくりと息をのんだシャディヤに微笑み、ハルカは伏せているナギの背に向けて障壁で階段を作る。その先は障壁で作られた床と薄灰色の壁に仕切られてた部屋のようになっている。
「大丈夫ですよ、皆でナギに乗せてもらってここまで来ましたから」
アルベルトたちがさっさと背中へ上がっていき、シャディヤの腕をユーリが引く。怖がってはいるが、促されて断るほどではないらしく、シャディヤは腰が引けたまま階段に足をかけた。
「……そういえば、本来は大型飛竜ってどうやって乗るものなんです?」
「うちでは翼の根とか足とかにロープをかけて座席を作らせてもらうようにしていたね。本来はっていう程大型飛竜に乗った経験のある人はいないんじゃないかな」
「速度を出したり急旋回すると、振り落とされそうなものですが」
「基本的に竜は魔法で空を飛んでいるみたいでね。近くに乗っている人間も滅多なことじゃ風に影響されないよ。あまりにひどい旋回や、逆さになられたら流石に落ちるけどね」
「昔アルがナギに乗った時は結構風を受けていたような……」
「……ナギがまだ飛びなれてなかったんじゃない? よく落っこちなかったね」
呆れたように肩を竦めたイーストンはそのままナギの背に乗り込んでいく。こうして説明されると、当時はかなり危ないことをしていたのかもしれない。事故がなかったことが幸運だった。
背に乗っただけで随分と高くなった視界にシャディヤは興奮しているようだったが、ナギがゆっくりと翼をはためかせて浮かぶと、小さな悲鳴を上げて身をかがめた。
しばらくしてそろそろと頭を持ち上げたシャディヤは「わぁ」と声を上げた。
すっかり高く浮かび上がったナギが街に向けて速度を上げている。眼下の景色が次々と変わっていく。本来なら恐ろしいと思う感覚を飛び越え、シャディヤは感嘆の声を漏らしていた。
帰り道はあっという間だった。
段々と街が近づくにつれて、ナギがゆっくりとした飛行速度になっていく。眼下にいる人の反応は様々だった。
怖がってその場にしゃがみこんでしまう人、茂みに駆け込む人、呆然と空を見上げる人に、指をさして大はしゃぎする人。
「ナギ、あそこのお城の近く、大きなお家と庭があるでしょう! あの庭にゆっくり降りてください!」
改めてハルカが声をはって伝えると、ナギは速度を緩めたまま指定されたリヴ邸の庭へ近づき、ゆっくりとその体を地面におろしていく。ナギが降りても十分なスペースを確保できるその庭は、今では無人となっており、外をぐるりと兵士や街の人が囲んでいた。
ナギが着陸すると、どよめきが悲鳴と歓声に変わる。割合的には七対三くらいだが、それでも十分に歓迎されている方だろう。突然姿を現したら、街の人は声を上げる間もなく腰を抜かすか逃亡する。
十分に告知されているからこそのこの反応だ。
悲鳴の半分くらいは、ナギが足で持っていた熊の魔物のせいかもしれない。ぶらりと力なく血だらけの魔物は、どう見ても息はないのだが、恐ろしいものは恐ろしい。
ナギが着陸の前にペイっとそれを放り投げたときも、かなり悲鳴が上がっていた。
ナギは地面に降りると、頭の先に魔物が来るようにゆっくりと伏せる。
これは自分の獲物なんだというアピールなのかもしれない。
ハルカたちが背中から降りてくるのに合わせて、庭の外から怪我が治されたムバラクが歩いてくる。隣にはマントとフードで全身を隠した人物、恐らくリヴがいっしょにいる。
そしてその後ろには、何やら全体的に丸っこいおじさんがついてきている。
小太りなのかと思ったが、よく見てみると足も腕もパンパンに張り詰めた筋肉が詰まっているようだ。
背が低いのでそうは見えないが、恐らく相当に鍛えられた体つきをしている。
「思ったより随分でかいな」
最初に声を出したのはマントの人物、やはりリヴだった。ムバラクは無言でビシッと背筋を伸ばして立っている。庭の外にいる民衆には何を話しているかはわからないから、そうしているだけでも国としてのメンツは立つのかもしれない。
「本当にいるんだなぁ、大型飛竜を使役する人なんて。あ、いや、そんなことよりリヴさん、あの最初に落としたでかい魔物のことをきいていただけませんかね?」
「あの熊か? なんだ、土産に持ってきたのか?」
「あ、いえ、あれはナギが捕まえたご飯です」
「ああ、竜の飯か」
「いえそうではなくてですね、リヴ先生ちょっと私が話してもいいですかね?」
「なんだよ、出しゃばらないって約束だから連れてきてやったんだぞ」
「それはいや、そうなんですけどね、あの魔物ね、最近この近辺で暴れてた懸賞金付きの【不死身の星熊】だと思うんですよ、だからちょっとそこをね、なんとか」
「うるせぇな、ちょっと黙ってろ」
「いたっ、ちょっと頼みますよ本当に、私も仕事でして、お願いしますって」
腰を低くしながら前に出ようとした男の足の甲を、リヴが後ろから見えないように踏んづける。結構な音がしたそれを、ちょっと声を上げて顔をしかめただけで済ませた男に、コリンがニコニコと声をかける。
「もしかして冒険者ギルドの人ですか?」
「あ、はい、私、ここカロキアの冒険者ギルド支部長を務めております、ダイナモスと申します」
「あ、私も冒険者ギルドの人にちょーどお話が合ったんですよー」
鴨がネギを背負って来てくれた、コリンはそんな気分でにこーっと全力で愛想を振りまいた。