軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

乱暴するつもり

リヴがいなくなってからもハルカに限っては食事が続き、腹が膨れた後もしばらくだらだらとしていた。足をベッドからおろしたまま仰向けになっているとコリンから話しかけられる。

「そういえばさー、さっきシャディヤさんに呼ばれてなかったっけ」

満腹でボーっとしている頭を働かせ、慌てて上体を起こす。

「あ、そうでした。ちょっと行きましょうか」

この街に来てから嫌に忙しいせいで、つい一服してしまっていた。荷物を置いて歩き出すと、ぞろぞろと仲間たちも後をついてきた。

全員この街がまだ完全に安心していい場所だとは思っていないので、集団行動を崩す気はない。

フロントへ行くとシャディヤがカウンターを磨いているところだった。ハルカたちが来たことに気付くとすぐに笑顔になって、奥へ入るよう言ってくれる。

昨日と同じように用意された椅子に座ると、奥からのっそりとナディムが現れて腰を下ろした。

「俺たちはこの街から離れようと思ってるんだ、その、案内を頼めないかと思ってな」

「……宿は、どうされるんですか?」

「閉めるつもりだ。娘二人を奪われた国にいつまでも居るのは辛い。気に食わない話だが、娘二人の代わりによこされた金ならたくさんある。手を付けていなかったが、ようやく使い道を思いついた。この金で君たちに護衛の依頼をだして、シャナの墓参りに行きたい」

「なるほど……、シャディヤさんもそれで?」

「うん、お父さんと話し合ったから」

「その後、できればそのユーリ君の住んでいる場所の近くに居を構えたい。できないだろうか?」

「ユーリでいいよ?」

ユーリが他人行儀な呼び方を訂正すると、ナディムはクシャりと顔に皺を寄せて笑った。

その間にハルカは仲間たちと相談をする。

「好きにしていいよー。……お金は、ユーリの身内だし、本人たちの旅の費用賄ってもらえばいいじゃない?」

ただでいいよと言わないのがコリンらしいところだ。他の仲間たちは特に反対意見もないようだし、後はハルカが上手いこと話をまとめればそれでいい。

「護衛も案内も受けられますよ。しばらくは帝国をぶらつくつもりですので、帰りに一緒にという形になると思いますが」

「ありがたい。俺たちも今すぐすべてを放っていなくなるよりも、少しくらい時間がある方がありがたい」

「支払いは道中かかる費用を払ってくだされば結構です」

「長い旅になるだろうにそれでは迷惑だろう、ちゃんと支払わせてくれ」

「……ああ、えーっとですね、多分近いうちにわかる話なんですが、私たち竜に乗ってここに来たんです」

「竜?」

「はい、ナギという名前の大型飛竜に乗ってきています。帰り道も空路を行きますから、寄り道をしなければ一月もかかりませんよ」

ナディムが口元に拳を当てて考え込むと、シャディヤも首をかしげて質問を投げかけてくる。

「竜って……、そんなに人が乗れるんですか?」

「ええ、あと数人増えたところでどうってことないと思いますが……。あ、近いうちにリヴさんの庭におろす許可をいただけるそうなんです。仲間ももう一人来ますから、一度会ってあげてください」

イーストンに、ではなくナギに、会ってあげてくださいだ。慣れないと怖いだろうから、少しずつ慣れてもらおうという意図はあったが、言葉尻が可愛いペットを紹介する親ばか状態である。

「大きいですけど大人しいので、あまり驚かないであげてくださいね」

「は、はぁ、わかりました」

何やら饒舌になったハルカにシャディヤもやや困惑気味だ。

「あとは……、ユーリは今私たちの拠点に住んでいます。森の中ですが道は作っていますし、段々と人も移住してくることもあるかもしれません。依頼料は結構ですので、その分をその拠点で宿を作るのにあてませんか?」

「いや、しかし……」

「私たちとしても、外部の方がいらしたときに泊まれる場所があるというのは助かるんです。折角長いこと宿をされてきたんでしょうから、是非そうしてください」

腕を組んで悩み始めたナディムに、ハルカは一度言葉を止めた。まだ考えがまとまらないうちに急ぎ過ぎたのかもしれないとも思う。

「今決めなくても結構ですよ。宿をするしないに関わらず拠点付近に居を構えてくださるのは一向に構いません。一つの選択肢として頭に入れておいてください」

「気を使わせてすまん」

「いいえ、お気になさらずに」

しんみりとした空気になったところで、入り口から物音がした。扉が勝手に開けられる音だ。客が来たのかもしれないとシャディヤが立ち上がると、聞き覚えのある声がした。

「おい、シャディヤー! いるんだろ、ちょっと顔貸せよ」

シャディヤが苦笑してカウンターへ向かい、遅れて立ち上がったアルベルトとレジーナが後に続く。あの二人が出ては営業妨害になるのではないかと慌ててハルカが後に続くと「うわ、昨日の奴ら!」と男が悲鳴のような声を出した。

「……性懲りもなくまた来たのか」

「違う違う、誤解だ、おいシャディヤ! 何とか言ってくれ!」

アルベルトがすごむと、男は逃げ腰でシャディヤに頼み込む。

「アルベルトさん、ありがとうございます。でもこの人、もともと知り合いなんです。昨日はちょっと話がこじれちゃっただけで……」

「ふぅん。じゃ、用件全部話せよ。俺が一緒に聞いててやるから」

「な、なんでお前が一緒に……」

言い返そうとした男に、レジーナが酷く眉間にしわを寄せてガンを飛ばした。拳を握るとパキリと指が鳴る。

「じゃ、昨日みたいな乱暴なのはなしで、ちゃんとお話しするってことで」

あとから来たコリンが勝手に話をまとめる。

「乱暴したのはそっちだろ、どの口が……」

レジーナがつま先で、トンと床を鳴らすと男は唾と一緒に言葉を飲み込んだ。昨日一撃でのされたのをしっかりと覚えているらしい。

「えっと、それではあちらでお待ちください」

シャディヤに案内された男は、フロアの奥にあるテーブルセットにすごすごと歩いていくのであった。