軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

一幕とおまけ

リヴは随分と前から歩き慣れた城の中を早足で進んでいく。すれ違う人物の多くは顔見知りだ。おそらくソラウを除けば、あるいはソラウを含めてもこの城について一番詳しいのはリヴであった。

本来そんな人物は危険極まりないから処分されて然るべきなのだが、一個人として破格の戦闘力を持ったリヴはそうはならなかった。

長い廊下を抜け、階段を登りまた進む。リヴは左右に窓が設けられた渡り廊下で、ふと立ち止まって外を見た。

あんな方法で乗り込む人物がいるのだから、ソラウの執務室は場所を移した方がいいかもしれないと思う。

自分が協力したこととはいえ、どこかで噂になって襲撃に利用されては困るのだ。

再び歩き出したリヴは、適当に門番に挨拶をして、終には昨晩の執務室までたどり着いた。

リヴが中へ入ると、ソラウは一瞬だけ目を合わせてから一言も発さずに手元に視線を落とした。

「ハルカたちと話してきた。仲間を一人と大型飛竜を外に待たせているようだ。俺の庭に入れてやろうと思っている」

「民が不安がるだろう」

「では、自由に街の外や国外を飛ばせるか? どちらにせよ噂になって陳情が山ほどくるぞ。それとも、あいつらにバレないようにこっそりこの国からいなくなってくれと要求するのか?」

「……大型飛竜は制御下にあるんだな?」

「知らない。ただそんなようには見えたな」

ソラウは近くに立っていた仕えのものを一人呼び寄せて伝える。

「……聞いたな? 手配しろ。大型飛竜がはじめから帝国と敵対するものではないと喧伝せよ。すぐにリヴの屋敷の庭を整備。近くで新たに露店を出すものからは、竜がいる期間に限っては税を徴収するな。警備の兵を派遣し、街のものが庭に入り込まぬよう厳重に警戒させよ。その際にあの冒険者たちから何か要求があった場合、よほどのことでない限りその場で許可を与えていい。行け、不明なことがあればすぐに使いをよこせ。残りのものはやつの手伝いをせよ」

メモを取ることもせずにじっと命令を聞いていたその男は、ソラウの言葉に従って早足で執務室から出ていった。

部屋内にいた仕えのものたちのほとんどがそれに続く。

「俺の家の周りで祭りでもするつもりか?」

「少し騒がしくした方が不安もない。どうせたいして使ってもいない屋敷なのだから構わないだろう」

「別にいいけどな」

ソラウはペンをデスクに置いて頬杖をつく。

「……リヴよ、あの冒険者たちをここに通したのは、そうしないと国が打撃を受けると思ったからか?」

「それだけじゃない」

「あの者たちのことが気に入った?」

「それもある」

「ならば、私の弟がそこにいたからか?」

「まあ、それもそうだ」

「私に怒っているのか」

「いつものことだ」

「ならば来なければいいだろう」

「怒っているというのは、嫌っているのとは違う。分かっていて言うんじゃない」

「私は皇帝だ」

「知っている。だから我慢してやってるだろう。だからやめろともどうしろとも言っていないだろう」

「その目と口調と行動が語っているではないか」

「では城に通さなければいいだろう」

「そうして暴れられたら困る」

「暴れない」

「リヴを慕っているものたちから反感を買う」

「お前は皇帝なのだから、そのくらい握り潰せばいい」

「そんなに私を追い詰めたいのか」

「そんなことは言っていない」

「言っている」

「深読みのしすぎだ。ただ俺は、お前が、お前の父が、お前の祖父が、その兄弟が、弱いくせに強がってばかりいるのが、気に食わなくて仕方がないだけだ。今に始まったことじゃない」

「だったら口を出せばいい」

「出してうまくいかなかったから、こうして我慢しているんだろう。俺は人のことは多少分かっても、皇帝のことはさっぱりわからん」

「我慢するぐらいなら来なければいい」

「俺は、気に食わないが来たくないとは言っていない。……この話は堂々巡りだぞ」

シンと静まり返った執務室に、城の間を風が抜けていく音だけが響いた。

ソラウが、ペン先でトントンと書類の先を叩いて口を開く。

「告知が行き渡るまで、今日含めて二日欲しい」

「伝えてやる」

「それだけだ」

「それだけか?」

「……早く部屋から出ていけ」

リヴは顔を上げようとしないソラウをじっと見つめてから、踵を返して大きな扉に手をかける。

この件が終わったらしばらく旅に出るつもりだ。

ソラウは相変わらずで、教育したはずの貴族のボンボンたちも結局あんな感じだ。どこかで気晴らしをしないとやっていられない。

権力はあまり好きじゃないし、自由がないのも好まない。それでも定期的にこの城へ戻ってきて余計なお世話をしている自分に、リヴは大きくため息をつくのであった。

「リヴさんってさー、なんで帝国にいるんだろうねー? 長いことずっといるって言ってたよね?」

「そうですね。特級冒険者って目的のために動いている人が多い気がしますけど……何かあるんでしょうか」

「……ハルカ、私分かっちゃったかも」

ハルカはそれをたずねようとしてから、ちょっとだけ目を逸らして考える。そしてコリンと再び向き合った。

「コリン、一応言っておきますけど、リヴさんに好きな人いるんですか、とか聞かないでくださいね?」

「またそんなこと言ってんのかよ」

忠告に呆れたようなアルベルトのツッコミが入ると、コリンは唇を尖らせた。

「だってさー、だったら他にどんな理由があるのさー」

「いや、わかんねぇけど。本人に聞けばいいじゃんか」

「さっき教えてくれなかったじゃん!」

確かにアルベルトが聞いた時はさらっと流されてしまった。

考えているとちょっと気になってきたハルカだったが、ひとまずは失礼のないようにコリンの言動には気をつけておこうと思うのであった。