軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

やるなよ、絶対やるなよ!

「俺も出てくか。悪かったな、これ以上は煩わせないはずだ」

頭をがりがりとかいたリヴはそう言ってドアから出ていこうとする。ハルカとしては何かと世話になったので、もう少し話をしたいという思いもある。しかし今の空気感で呼び止めるのには少し勇気が要った。

どうしようかと悩んでいると、袖をユーリに引かれる。ちなみにコリンは引き寄せた状態から、ゴロンと寝転がってハルカの膝枕でごろごろしている。頭を撫でられて満足そうだ。

「どうしました?」

「ご飯、誘ってもいい?」

「……そうですね、折角ですから」

ユーリはぴょんとベッドから飛び降りて、リヴの後を追いかけ、閉まりかけのドアを押し開いた。

「リヴさん、一緒にご飯……食べませんか?」

「俺は別にいいが……」

「食ってきゃいいじゃん。ハルカが飯買いすぎたし」

「……まぁ、そういうことですのでご迷惑でなければ」

コリンが膝の上にいるせいで姿勢を変えられないハルカは、首だけで振り返って誘いをかけた。

「……お前らがいいならいいか」

リヴは扉を押さえたまま、しばし考えてユーリの頭に手を乗せた。

「ほら、戻れ」

戻ってきて先ほどまでナーイルが座っていた椅子に腰を下ろしたリヴは、それぞれに顔を見て首をひねる。

「なんというか、変な奴らだな。攻撃的かと思えば、警戒心が薄いこともある。そもそも子連れで冒険者をしていることもおかしいし、身分のある子を保護しているのに何も要求してこない」

「普通に冒険者してるだけだろ。そんなことより、あんた特級冒険者なんだろ。なんか変わった話聞かせてくれよ」

アルベルトはベッドの上に胡坐をかいて体を揺らす。昨日の夜にムバラクを倒した蹴りを見てからリヴに興味津々だ。まじめな話がされている間は黙り込んでいたが、本当はリヴに話を聞きたかったようだ。あわよくば手合わせしてもらおうぐらいのことは考えているだろう。

小さなテーブルの上に積み上げられたパンを一つ手に取ってリヴは笑う。

「あまり人に話せるようなことはない。お前らの方がよほど変な生き方をしていそうだが」

「でも特級冒険者なんだろ。しかも長生きの」

「長生きをしていたら勝手になってた」

「強くないと長生きできねぇじゃん」

「……そういえば、ノクト=メイトランドの弟子だったか」

「ああ、師匠のことを知っているんでしたっけ」

「面識がある程度だけどな」

「リヴさん何歳なんだ?」

「何歳でもいいだろう。ただ一つ言うことがあるとするならば、女に年齢を聞くな」

当たり前の忠告をされてアルベルトは変な顔をした。

特級冒険者というのはぶっ飛んでいて細かいことを気にしないものだと思い込んでいて面を喰らったのだろう。

段々と固くなっていた空気がほぐされているのを確認して、ハルカはこっそりと食べ物の山に手を伸ばし、冷めてしまった細長いパンの真ん中を割った。そこに買い込んできた肉や炒め物を詰め込んでいく。

具の汁気をパンが吸い込んだのをじっと待つ間、顔を上げると、リヴが笑っていた。

「ナーイルの奴のせいで、折角の食事を邪魔して悪かったな」

「あ、いえ、むしろ昨日からずっと、ちゃんとお礼を言わなければと思っていたんです。リヴさんが色々と気を回してくださったお陰で、こうして犠牲を出すこともなく……」

そこまで話をして、ハルカはふとムバラクの顔を思い出して言葉を止めた。結構な怪我だったが本当に治さなくて良かったのか気になるところだ。

「まぁ、その、ほとんどの人が怪我をする事もありませんでしたから」

「ムバラクのことは気にするな。ナーイルもそうだが、アイツらは貴族のボンボンだからな。街の人間や冒険者とは相容れない。たまには身の程を思い知らせた方がいいんだ」

「そちらのことなのでお任せはしますが……」

そう言ってハルカが口を大きく開けてパンにかぶりつくと、リヴはまたこらえきれないというように口角をひくつかせた。

口の中のものを咀嚼しながら首をかしげると、リヴは口元を押さえて下を向く。

「いや、悪い。印象がだいぶ違ってな。その整った顔で子供のように大口を開けて食べるものだから、つい……」

「かわいいでしょ」

「ママはかわいい」

「ああ、そうだな、うん」

コリンとユーリが自慢げに言うと、リヴは笑いながらそれに同意した。

否定しようにも口いっぱいに食べ物が入っているハルカは、わずかに眉を顰めるだけだ。

あとから否定しても仕方ないと、諦めて食事に集中する。

「ああ、昨日も思ったんだが、その竜は随分賢そうだな」

モンタナの持っているパンのかけらをつついているトーチを見ながら、リヴが興味深げに目を細める。見られていることに気が付いたトーチは慌ててパンをむしると、定位置である袖の中へ逃げ込んだ。

警戒心の高い竜である。

「トーチです。大竜峰で捕まえたですよ」

「ほう、確かディセント王国とプレイヌの間にある山脈だったな。飛竜は大体北方の生まれだ。南方には地竜が多くて飛竜は少ない」

そんな会話の中で、ハルカはハッと街の外にいる一人と一匹のことを思い出した。話がついたのだから、できれば街の中に呼んであげたいところだ。ついでに大型飛竜が一緒にいることを城に伝えておかないと、見つかった時に大騒ぎになりそうである。

「……あの、リヴさん。お世話になってばかりで恐縮なんですが、一つお願いごとがありまして」

ハルカは少しばかり姿勢を正しリヴへお伺いを立てる。

「なんだ?」

「そのですね、街の外に仲間を一人と一匹待たせてまして、それを城の方にお伝えいただけたらなと」

「別に、仲間がいるくらい伝えなくてもいいんじゃないか? 伏兵のつもりだったのかもしれないが、話は着いたのだから街に入れてやれ。今となっては誰も文句は言わないだろう」

「それが、一人の方は良いんですけど、その、一匹の方が大型飛竜でして……」

「…………大型飛竜? 大きいのか?」

「はい、大きいです」

「どれくらい?」

「この宿の一番長い辺くらいは……、尻尾を入れるともっとでしょうか?」

「あー……うん。交渉決裂していたら、そいつも城に乗り込んできていたというわけか」

「あ、いえ、それは私が空を飛んで一人で何とかするつもりでした」

ハルカの返答にリヴは難しい顔をして黙り込み、それからパンを持ったまま立ち上がった。

「とりあえず、騒ぎにならないように城には伝えてくる。街に入れるとしたら……俺の家の庭だな。その前に通達は必要になると思うが……。とにかく、ちょっと待ってろ、勝手に入ってきたら大騒ぎになるからな。絶対に勝手に中に入れるなよ」

「はい、わかりました」

「絶対にだぞ」と言って慌ただしく部屋を出ていったリヴを、今度は止めることができなかった。あれだけ絶対にと連呼されると、日本にいた頃に見たお笑いを思い出してしまう。

でもきっと破ったら【人鬼】が顔を覗かせるのだろうと思うと、ハルカは冗談でも彼女との約束を破るつもりはなかった。