軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

覗き込む

部屋へ戻ってからはあれこれ話さずに、体を清めてすぐに休んだ。

ハルカはいろいろと考え事をしていたし、他の仲間たちもそうだ。

二部屋とっているのに、眠るときには結局全員が同じ部屋にいた。外で眠るのも板の上で眠るのも大した違いはない。コリンとユーリだけがベッドに休み、もう一つのベッドの上はトーチが占領していた。

寝息が聞こえる中、ハルカはそっと立ち上がり、椅子に座って窓の外を眺める。玄関の前の石階段には、相変わらずナーイルが座っている。

この辺りは比較的暖かい地域だが、夜になると結構冷えるのだ。両手で体を抱いているのが見えて、どうしたものかと考えていると、玄関が開いてシャディヤが顔をのぞかせた。

毛布を差し出して、立ち上がったナーイルがそれを受け取ると言葉を交わすことなく、宿の中へ引っ込んでいく。

ナーイルがその場でじっとドアを見つめてから毛布を畳んでその場におくと、石階段にまた座って額を押さえてうなだれた。罪悪感でも刺激されているのかもしれない。

当然のことだが、彼らにだって感情がないわけではない。

ハルカはその姿をしばらくの間眺めながら、今日の皇帝との問答を思い出していた。

ソラウの答えは常に淡々としていた。何が起こるか予測していたようであったし、それへの回答も用意していた。もしあの場で暴れたらどうなるかも、きっとある程度考えていたのだろうと思う。

為政者として話していたソラウは、ユーリと話したときに恨み言を言わないことを疑問視していた。ただ感情が分からないから疑問に思ったとも考えられるが、ハルカはそうではないのではと思っていた。

ユーリに恨み言を言われて当然のことをしたと思っていたのではないか。恨み言を言われることで、罰を与えられたかったのではないか。

それはユーリの血縁者を、ただの冷酷な人間であると思いたくないハルカの妄想かもしれない。本人も頭の片隅ではそう思いながら、皇帝ソラウのことに思いをはせていた。

ぼんやりと見つめていたナーイルが動く。

毛布を手に取って、少し逡巡してから結局それを肩にかけた。寒さが我慢できなかったらしい。

それがあまりに人間らしくて、ハルカはおかしくなって笑ってしまった。

そして椅子から立ち上がると、モンタナが片目だけ開けてハルカを見たが、すぐにまた目を閉じた。

声はかけずに床の上に寝転がる。きっといつも気を張っているから、モンタナは朝に弱いのだ。荷物を枕にしてローブにくるまった。

強い眠気に襲われなくても、目を閉じて眠ろうと思えば休むことはできる。

この体になってから、ハルカは不眠に悩んだことがなかった。

目を閉じる。

仲間たちの呼吸が聞こえ、意識がすとんと暗闇に落ちた。

ぼんやりとした空間で、誰かが話しているのが分かる。

恐らく自分が何かを言っている。

笑い声が聞こえる。

自分以外にも二人の人物がいるらしい。

聞き馴染みのない声だ。

いや、そんなことはないはずだ。

しかし……。

ガサゴソと音が聞こえてハルカの意識が突然浮上する。

目を開けると、ユーリが近くで顔を覗いているのが見えた。

「……おはようございます」

「おはよ、ママ」

「おはよ、ハルカ」

ママ呼びもユーリから言われる分にはすっかり慣れてしまって、突っ込む気も起こらない。思い返してみれば、ユーリが前の世界の知識があると告白した瞬間は、これを訂正するチャンスだったのだ。しかしその時はそんな空気ではなかったし、今となっては言うべきではない。

ユーリが親しみをもってそう呼んでくれてるのなら、そこまで強く拒否する理由もない。自分がおじさんであるという認識が、唯一ハルカをもやっとさせるくらいだ。

少し視線をずらすと、コリンも同じように横に並んで座っている。

「二人して何を?」

「ん? ハルカがよく寝てるから顔見てたの」

「楽しいですか?」

「割と。いつもはお人形さんみたいなんだけど、今日はちょっと表情変わってたね。なんか夢でも見てた?」

いつもという言葉にハルカは突っ込みを入れようと思ったが、それ以上に尋ねられた夢のことに思考を奪われる。

夢を見たのは随分と久しぶりだ。

しかし思い出そうとしても、大した記憶は掘り出されなかった。誰かと話していたような気がするというのが精々だ。

「多分、何か見たような気がします」

「ふぅん、あんまり覚えてないんだ?」

「そうですね、夢を見ること自体が少ないですし……」

「へー、私は結構いつも夢見るけどなー。ユーリは?」

「夢見る。みない日の方が少ないかも」

雑談をしているうちに夢の記憶はますます薄れていく。別にそれが大切なものというわけでもないから、ハルカもたいして気にはしなかった。体を起こすと、日の入る窓際の椅子にモンタナが座っている。頭にトーチを乗せて、半分目を閉じていた。

ドアが開いて、アルベルトが顔を出し、ハルカが起きたことに気が付いて口を開く。

「ハルカ、腹減った。飯食いに行くぞ」

「あれ、もうお店が開いているような時間ですか?」

「おう、早く準備しろよな。下で待ってるから」

アルベルトはそう言うと、そのまま廊下を歩いていってしまった。よく見れば他の仲間たちももう準備ができているようだ。レジーナの姿が見えないのは、アルベルト同様もう外に出ているからだろう。

「お待たせしたみたいですみません、準備もないのですぐに行けます」

「ま、そっか。ハルカって寝起きでもいつもと変わんないもんねー」

コリンが「いいよねー」と言いながら立ち上がったのにハルカも続く。完全に眠っていたわけではないのか、モンタナも椅子から立ち上がった。トーチが素早く腕を移動して袖の中へ入り込む。

ロビーでシャディヤとナディムに挨拶をして外へ出る。今日はナディムもきちんと働いているようだ。

外へ出て最初に目に入ったのはナーイルの姿だった。階段の横に座り込んでうつらうつらしている。言いつけを守って真面目に警備をしていたようだ。

きっとリヴが戻ってくるまでこうしているのだろうけれど、いつ戻ってくるのかわからないのが辛いところだ。

少し同情していると、パンのいい匂いがして、ハルカはそちらの方を向いた。

見ればレジーナが一人でパンをがりがりとむさぼっている。

「おはようございます、レジーナ」

レジーナは口に全てのパンを詰め込んで、それを腰に付けた水筒の中身で流し込んで口を開く。

「おはよう。朝飯食いに行くぞ」

じゃあ今食べたのは何だったのかという話になるが、仲間たちが大飯食らいなのはいつものことなので、突っ込みも入れなかった。当然のように朝食の話をされてハルカが言うべきことは一つだ。

「お待たせしてすみません」

「別に待ってない」

「君らさ、さっきもなんか別のもの食べてなかった……?」

ナーイルの一言にレジーナはじろりと鋭い目を向けたが、鼻を鳴らしただけで返事もせずに歩き出した。

道をどちらに行っても食事ができる場所はある。

何かあてがあるわけではなかったが、ハルカたちは先を歩くレジーナの後について行くのであった。