軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

見張り

リヴを先頭に城の中を歩いていく。

警備している兵士や、すれ違うものたちの全てがリヴのことを知っているようで、ハルカたちが一緒にいることを見咎めるものは誰もいなかった。

どうやらリヴがこの国に張っている根は、随分と深いようである。

城を出るまで誰一人として言葉を発しなかった。

外に出てしばらくもそれが続き、流石に気まずくなってきたのか、リヴが口を開く。

「随分と静かだな。全員で考え事か?」

「……リヴさんは、こうなるのが分かっていたんですか?」

ハルカが尋ねると、リヴは前を向いて歩きながら答える。

すでに月明かりしかない城の周りにはひとけがない。街の住人たちは不審者扱いされてはたまらないので、意味もなくこの辺りをうろついたりはしないのだ。

「大方な。お前たちが子供を口実にあいつの命を狙っているようなら、手を貸したりはしなかった。暴れられなくてすっきりしなかったか?」

振り返ったリヴは、アルベルトとレジーナを順番に見た。

「なんだよ」

「お前たちは気が短そうに見えたが違ったか?」

「違わないです」

「うるせぇ、モンタナ」

「仲のいい」

アルベルトは答えたが、レジーナは未だリヴに対する警戒心が取れないのか、黙ってそちらから目を離そうとしなかった。

出会ってからずっとこんな調子だが、元々の性格を考えれば仕方がないことだろう。

「ただ俺は……、ユーリの話が先だと思って我慢しただけだ」

「アルえらーい」

「馬鹿にしてんのかお前」

茶化すコリンを睨みつけるが、そこに本気の怒りはなかった。ただのじゃれあいだ。

「でもさー、案外あれでよかったのかもね。私、ナディムさんたちの話聞いたあとだったからさ、何が何でも戦わなきゃいけないような気になってたんだよねー」

「……そうですね。私も、ちょっとそんな気になっていたかもしれません」

宿の一室で作戦を立てていた時、暴力的な気持ちがなかったとは言い切れない。ユーリの身の安全のためにやってきたはずだったのに、今思えば目的が少しずれていたような気がする。

皇帝ソラウがもう少し好戦的で、挑発をしてくるタイプだったら、どうなっていたかわからない。

ナーイルを問い詰めた時や、ソラウに食ってかかった自分の姿を思い出して、ハルカは静かに反省をしていた。ユーリのことを優先したアルベルトの方がまだ冷静だったのかもしれないと思うくらいだ。

力に溺れるというのは、こういうことなのかもしれないと、少し恐ろしい気分でもあった。

力があるのなら、なおのこと余裕を持って相手の事情を慮るべきだ。振るう時を間違えてはならないと、ハルカは耳のカフスを撫でた。

「ソラウの采配を認めるようで腹立たしいが、俺が行ったのも無駄ではなかったということか」

リヴが振り返り、城を仰ぎ見た。そして「あ」と聞き逃してもおかしくないような小さな声を出す。

「……ナーイルたちのことを忘れていた。一度戻るぞ」

比較的暖かい地域とはいえ、ナーイルは水で濡れたまま外に放置されている。あまり長い間放っておいていい状態ではない。

方向を変えて歩き出したリヴに、ハルカたちは異論なく従った。

リヴの邸宅へ戻ると、庭の一部がぼんやりと光っており、そこから小さな話し声が聞こえる。

「なぁ、頼むよ、この縄にちょっと火を吐いてくれるだけでいいんだ。そうしてくれたら、いっぱい肉をやるからさ」

ハルカたちがきたことに気がつくとその話し声はピタッと止まる。そして草をかき分けて走ってきた小さな光、もといトーチがモンタナの足を登って袖に入り込んだ。

そうして干した果実を咥えて顔を出し、ナーイルたちの方を窺っている。トーチは雑食なようで、虫も肉も木の実も、与えれば何だって食べるのだ。

見張りとして、一応の暖を取るための存在として、モンタナが留守番をさせていたのだ。

トーチは男たちがしっかりと縄に縛られて動けなくなっていることを慎重に確認してから、ナーイルの腹の上に乗ってくれていた。

先ほどの話し声は、どうやらナーイルがトーチと意思の疎通をとろうとしたものだったようだ。

「……早い帰りだ。騒ぎにもなっていないようだけど、もしかして諦めて戻ってきたのかい?」

それはナーイルの希望も入り混じった質問だったが、事実はそうではない。

「いえ、こちらの要求が通りました。ユーリの身の安全の保証をしてくださり、帝国を自由に歩けるような保障もいただけるそうです」

「……一緒には、暮らせないか」

「命を狙ってきた相手と一緒に暮らさせるのですか?」

「そうか……、それも事実だったのか」

主人から全てを知らされていなかったせいか、あるいは、その事実にか、ナーイルはため息をつくように言葉を漏らした。

「縄を解いてやるからそのまま城へ戻れ。暴れたりするなよ」

「そんな元気があるように見えますか、先生」

「念のため言っただけだ」

縄を解かれたナーイルは、緩慢な仕草で立ち上がり、軽く手足を振って状態を確認してから、ハルカたちの方を向いた。

「今は、考えがまとまらないが……、とにかく迷惑をかけてすまなかった。今日のところはこれで失礼します」

「一人で帰るな、気持ちよく寝てるそいつらも起こして連れて行け。俺はハルカたちを宿へ送ってくる」

かなり憔悴した様子のナーイルに、リヴは容赦なくそう申し付けて、ハルカたちに手招きをして歩き出した。

ハルカたちからしても今のナーイルにかける言葉が見当たらないから、そうしてくれた方がありがたい。

広い庭を草をかき分けながら進み、ハルカたちはまた夜のカロキアを歩き出す。

ハルカは相変わらずぐるぐると、頭の中で今日のことを考えていたが、仲間たちは早々に吹っ切れたらしく、いつもの調子に戻ってきていた。

少し賑やかになった一行とともに歩き続け、やがてあたりが見覚えのある景色になってきた。

長い一本道の途中にある宿の扉が開き、中から男性が顔を出しては閉じ、しばらくするとまたその扉が開き、中からわずかに光が漏れ出す。

よく見てみると、その手前の窓にも人影があって、じっと外の様子を気にしているようであった。

扉を開け閉めしていた人物は、ハルカたちが歩いてくるのに気がつくと、慌てて一度引っ込んでから、すぐに二人でまた外へ出てくる。

ずっと心配をして待っていたのだろう。

ナディムとシャディヤは早足でハルカたちの方へ歩いてくるのだった。