軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

小さなサイン

「こいつら、人気のないところに置いてった方がいいんじゃないのか?」

空高くをゆっくり飛んでいると、ナーイルたちの方を見てリヴが提案してくる。

「……見られた時に騒ぎになるのが嫌なんですよね」

「連れていって大声出されても困るだろ」

「何であんたがそんなこと気にすんだ?」

アルベルトが首をかしげる。

「俺はお前たちがソラウと交渉することに手を貸すんだ。城の人間や住民に余計な被害が出ることは望んでいない。でもこいつらはソラウに忠実だぞ。奴に危険があると少しでも思ったら、犠牲など考えずに邪魔をすると思うけどな」

「そう言って、この人たちのこと守ろうとしてるです?」

「なんでそうなる?」

「大声なんて出したら、僕たちが怒って殺すかもしれないですから」

「……どちらにしても、連れて行っていいことはないだろ」

リヴの指摘ももっともだったが、だからといってどこかに放置するにも土地勘がない。

「どこか、置いていくのに良い所はありますか?」

「あそこにでかい家があるだろ」

ハルカが尋ねると、リヴが眼下を指さした。

城の近くに敷地が広く取られた家がある。中に明かりは灯っておらず、庭の手入れも頻繁にはされていないように見える。

建物が立派であるだけに、お化け屋敷の洋館のような異彩を放っていた。

「ありますね」

「ほとんど使ってないけど俺の家だ。今は誰もいない。縛って猿ぐつわでも噛ませて、あそこの庭に投げておけばいいだろ」

モンタナが静かにうなずくのを見て、ハルカはその家に向けてゆっくりと高度を下げた。

リヴがあまりに自分達に有利に動いてくれるので、不審に思って疑っては、それが嘘でないと知ることを繰り返している。人を疑うというのはあまり気分のいいことではない。

こんな出逢い方でなければとハルカは内心ため息をつきながら、リヴのものだという広い敷地内に降りるのだった。

気絶している兵士たちを拘束して、最後にナーイルの番になる。

「なぁ……、陛下とは交渉するだけなんだよな?」

「そのつもりですが」

「俺が間に入るから、改めてきちんと場を設けないか?」

「申し出はありがたいですが、準備する期間を与えたくありません」

「そうか……」

ハルカのはっきりとした拒絶に、ナーイルは食い下がらなかった。

「大人しく拘束されてくれますか?」

「ここに至ってはそうするしかないだろう」

先ほどからやけに物分かりがよく、ここでも殊勝な態度を取ったナーイルだったが、それでモンタナの目は誤魔化されなかった。

「ハルカ」

名前を呼ぶその一言だけでハルカは理解して、障壁の檻の中を水で満たした。

全員の武装解除をして拘束を済ませたところで、再び空へ浮かび上がる。

「詠唱もなく威力のある魔法を並行して放てる。それだけで十分に特級だな。いったい今までどこに隠れていたんだ?」

「冒険者になってまだ三年くらいです」

「たまにいるよな、そういう規格外な奴」

先ほど檻の中が水で満たされたのを見ているはずなのに、リヴの態度はまるで変わらない。ただ空の上で世間話のような気楽さで会話を続けながら、間に皇帝ソラウがいるであろう場所の説明や、注意事項を挟んでくる。

城の上空へ近づいた時、リヴは顔をしかめた。

「上から見たことはないからわからないが、いつもよりもかがり火が多い気がする。……その割に警備はいつもと変わらないな」

「何か報告があったんでしょうか」

「いや、少なくとも俺の後は誰も付けてきていなかった。恐らくソラウの奴は、俺を付き添いにした時点で何かに気付いていたんだろう。……つまり、アイツはお前たちのことを知っていたということになるな」

相変わらずハルカたちの手助けをするような情報をぽろぽろとこぼす上に、自分なりの考察まで述べてくれている。こうまで協力的だと、もはや疑うのが馬鹿らしくなってくる。

「……さっき聞いた窓から入り込んで大丈夫かな?」

準備をされているとするならば、リヴから聞いた経路が安全とは限らない。全員が頭に浮かんだ疑問ではあった。それでも、リヴは説明の時点で嘘をついていなかった。それ以外に何かあてがあるわけでもない。

そのまま上空を移動して、城の側面に回り込む。

皇帝の私邸も兼ねているその付近は、あちらこちらに兵士が立っている。しかし彼らは、視線の先を警戒することはあっても、空を見上げることは殆どない。

サボりがちな兵士がいれば、退屈しのぎにぼんやり夜空を見上げることもあったかもしれないが、皇帝の身辺警護を任されたものたちは一様に真面目で、偶然ハルカたちの姿を発見するということはなかった。

執務室から一番近いアーチ状の窓から廊下へ入り込んだハルカは、近くにいた兵士達の頭を即座に水球で囲い、それを凍らせた。

突然の呼吸困難に兵士たちは暴れたり石壁にぶつかったりしたが、助けを呼ぶことも場を打開することもできなかった。

廊下を抜け、同じように兵士たちの意識を奪いながら、まっすぐに皇帝のいる私室へ向かう。

両開きの扉にたどり着き、ハルカはそこに手をかけた。

ここまでいくらでも邪魔をする機会があったはずのリヴは、結局最後まで一貫してハルカたちの邪魔をしなかった。そして小さな声でハルカに忠告する。

「中から閂がおりているぞ。さっきも言ったが、まだ執務をしているだろうから、中に数人手伝いのものがいる」

ハルカは無言で頷いて腕に力を込めた。

ミシッときしむ音がして、すぐに扉が無理やりに押し開けられた。

「……何か魔法でも使うのかと思っていた。魔法使いのくせにえらい怪力だな」

そこで初めて驚いた表情を見せたリヴは、感心しながら気の抜けた感想を述べた。

扉が開くと中にいたものたちが、無手のままハルカたちを鋭く睨みつけ、戦う準備をしていた。執務机に座っている浅黒い肌をした男が顔を上げる。

短い眉に鋭い目つき。煌びやかな腕輪やネックレスをつけているが、嫌味な煌びやかさは感じさせない。

「全員隣の部屋に待機。こちらのことを一切聞くな」

動揺も見せずにそう言い放った皇帝に、部屋にいた従者たちはうろたえる。

皇帝であるソラウを守ることは、彼らの仕事の一つだ。それなのに当の本人がそれを放棄させようとしているのだが、うろたえるのも無理はない。

「二度言わせるな」

しかしソラウの続けた言葉に、従者たちは我先にと隣の部屋の扉をくぐった。

ハルカはそれを見送ってソラウへ言葉を投げかける。

「交渉をしに来ました」

「聞こう」

準備してきた言葉や脅しを聞く間もなく、皇帝ソラウは交渉のテーブルに着いた。それがなぜだかわからずに、ハルカは言葉に詰まる。

ソラウの金色の双眸が、ハルカから外されてユーリを経由してリヴへ向かう。

「そいつらの味方をしているのか?」

「お前は言葉が足りない、反省しろ」

言い返されるとソラウはそのまま視線をハルカへと戻した。

「都合が悪くなると黙るのはやめろ」

小さな舌打ちの後、リヴは子供に諭すようにソラウへ文句を言った。