作品タイトル不明
くいちがい
「知られて困るようなことじゃねぇし、話してもいいんじゃね」
迷っているハルカの背中を押したのはアルベルトだった。色んな事情をひとまず置いておいて物事を決められるのが、アルベルトの良いところだ。
仲間たちの同意を得てから、ハルカはユーリのことも確認する。
ユーリは緊迫した場で邪魔にならないように、静かに状況を見守っていたが、ハルカと目が合ったので頷いた。今の自分が高度な戦いの場において役立たずであることはよくわかっていたし、ハルカたちが悪いようにしないであろうと信じていた。
ハルカから伸ばされた手を取って、ぎゅっと握る。
「この子のことで、話をしに来ました。この子の名前はユーリ。聞き覚えはありませんか?」
リヴは口元に手をやって目を伏せ考え始める。
一方でナーイルは驚いた様子で声を上げた。
「まさか、その子。その髪は染めているのか?」
「ええ、そうです。あなたがいつか探していた行方不明の赤ん坊です、恐らくは」
「……ナーイルたちが探していた、ソラウの弟とか言うやつか?」
訝しげな表情でリヴは首をかしげる。ハルカが何を言いたいか、まだ理解できていないようだった。この様子だとリヴは本当に詳しい話を知らなさそうだ。
「しかし! それならば正面から俺を訪ねてくればよかったじゃないか」
「本気でそんなことを言っていますか? ユーリの命を狙っておいて」
「……待ってくれ、何の話だ」
「あなた方がユーリの母を殺したんでしょう? 追手を出してその妹であるシャナさんのことも殺したじゃないですか。証拠を消すためかわかりませんが、村人を全員殺して、とぼける気ですか?」
「いや、待て待て、待ってくれ。その話はおかしい」
首を振って両手のひらを見せたナーイルは、本気で焦った様子で訴える。ハルカは一度話すことをやめて、言葉を待った。
「それが本当なのだとしたら、保護者が乗り込んでくるのも、まぁ、わからんでもない話だな」
片膝を立てて頬杖をついたリヴが合の手を入れる。完全に話を聞く態勢になっていて、当事者という意識はなさそうだ。
「先生だって俺たちが真面目に陛下の弟を探していたのは知っているでしょう!?」
「知っているさ、少なくとも俺の前ではそうしていたことを。裏のことは知らない」
「どっちの味方なんですか!」
「それを今決めようと思っているところだ」
ナーイルはあてにならなさそうなリヴから目をそらし、頻りにつま先を動かしながら申し開きをする。
「ほら、それが本当なら俺は、はじめての問答の時にもっとしつこく聞いていたはずだ。なにせ、任務で殺さなければいけない相手を探しているんだから」
「あの時のあなたは、確かに余裕がありましたね」
「だろう!?」
「でも、本当のことは言いませんでした」
「他国で皇帝の弟が行方不明なんて言えるわけないだろう! 何に利用されるかわからないんだ!」
至極もっともな言い訳ではある。今のところナーイルの言うことに嘘はないようだ。
おそらく皇帝の側近であろう人物が、全容を理解していないことなどあり得るのだろうか。そう考えたときにハルカは、もう一人の人物のことを思い出した。
「……ムバラクさんという方をご存知ですか?」
「あ、そうか、あいつにも会ってるのか!」
「ええ、【神聖国レジオン】で。彼は個人的に皇帝の弟を探していると言っていました。皇帝はもう探していない、見つけたら喜ぶだろうと。あなたもそうですか?」
「……ああ、まぁ、あいつならそんな感じか。そうだと言いたいところだが、俺は少し違う。単純に、他国に利用されてはまずいから見つけて手元に置いておくべきだと考えていた。もちろん、どこかで辛い思いをして暮らしているよりは、国元にいたほうがいいじゃないかとは思っていた部分はあるが」
「勝手だな。母と叔母を殺しておいて」
「先生、ホントにちょっと黙っててもらえませんか?」
コリンがリヴと同じことを言おうと勢い込んで息を吸ったが、先に言われてしまって不完全燃焼で口を閉じた。リヴがそれを意識してやっているかはわからないが、敵側であるはずのリヴが、ハルカたち側に立ってものを言うせいで怒るに怒れない。
「つまりナーイルさんはこう言いたいんですね? 自分達はユーリのことを探していただけで、殺そうとなんてしていないと。シャナさんを殺めたのも自分たちの手のものではないと」
「…………俺は、そのつもりだ」
「私も相談をしながら色々考えたんです、この件について。確かに帝国がユーリとシャナさん、それにあの村を襲った確証はありません」
「それなら」「しかし」
ナーイルの言葉をハルカはさえぎる。まだ話は終わっていない。
「それならば、皇帝の弟を狙ったものが他にもいたということになりますね。帝国は、そんな重要な情報を容易く他国に奪われたのですか? それとも、偶然村を襲ったところに、シャナさんとユーリがいたと?」
ナーイルは答えない。
帝国の追手がそれをやったと考えるのが一番自然であると、ナーイルも言葉にせずともそう思ってしまったからだ。
「私たちは今から、真偽を確かめに行きます。それから、二度とユーリに手を出さないよう皇帝へ直に交渉をします。およそ二年間、私たちはユーリと一緒に過ごしてきました。帝国を敵に回すようなことだとしても、私たちは仲間を、家族を守ります」
ナーイルにはもう語る言葉がなかった、その場に座り込んで、ため息をついて目をそらす。
「で、その場で約束させるのは良いとして、それを守らせる交渉材料はあるのか?」
いつの間にかすっかりハルカたちの味方のような顔をして、リヴは懸念に関して尋ね始めた。
「魔法を本気で使えば、私はカロキアを丸ごと更地に変えることができます」
「あー……、そういうタイプの魔法使いか。暗殺者とか送られるぞ」
「私、怪我をしたことがないんです」
「いくら障壁を使えるといっても、不意を突かれたら終わりだろ」
「いえ、障壁を使わなくても怪我をしたことがないんです」
「何言ってんだこいつ、大丈夫か?」
リヴは白けた顔をして他の仲間たちに話を振ったが、誰も冗談だと笑いだすことはない。
「本気かよ。またとんでもない特級が出てきたもんだな。それじゃ、案内してやるからこの壁消してくれないか?」
「このまま運びますので」
「そうかよ」
不満そうな声で返事をしたリヴだったが、暴れ出すことはなく膝を立てて座ったままであった。
ハルカはすっかり静かになってしまったナーイルと、元から静かだった兵士たちも障壁で浮かした。
そうして仲間たちと共に暗闇にとけるような黒色の障壁に乗り込み、そのまま空へと浮かんでいく。
「思い出したぞ。お前さ、桃色の髪をした獣人の知り合いだろ」
「それがノクトって人なら、私の師匠です」
「王国のまわしものじゃないだろうな」
「懇意にはしていますが、今回のこととは一切関係ありません」
「ならいいか」
いちいち鋭い質問をしてくる割には、リヴはハルカの言葉を疑わない。
特級にしては随分とまともそうな反応であることを意外に思いながら、ハルカはカロキアの夜空を飛んで城へ向かうのであった。