軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

かつての

シャディヤについてカウンターの中へ入っていくと、先ほどの男性が神妙な顔をして椅子に座っていた。

顔はまだいくらか赤いが、酔いは抜けてきているのか、ハルカたちが姿を現すなりテーブルに額をつけた。

「先ほどは迷惑をかけたようですまんかった。娘のことを助けてもらったようで、本当にありがとう」

「ああ、たまたま出くわしただけですから。それより、随分とお酒を飲んでいたようですが、体調は大丈夫ですか?」

「そりゃもう、いつものことなんで……」

曖昧に笑いながら頭を掻いたナディムは、ユーリの姿を見つけてぴたりと動きを止めて口をぽかんと開けた。

「あ、皆さん座って待っててくださいね!」

奥からシャディヤの声が聞こえてきてそれぞれ椅子に座っていく。テーブルとセットになったものが一揃い。それにどこから持ってきたであろうテーブルがつけられて、椅子も統一感のないものがいくつか用意されていた。

わざわざハルカたちを招くために用意したのだろう。

それぞれが椅子に腰を下ろす間も、ナディムの視線はずっとユーリに固定されたままだった。それをわかっていながらも、ハルカたちは何も言わない。

ナディムはゴシゴシと目を擦ってから、引き攣ったような笑顔を浮かべる。

「子連れの冒険者なんて珍しい。私はナディムというんだ。君の名前を教えてもらえるかい?」

「ユーリ」

「……そうか、いい名前だなぁ」

ナディムはハルカたちの名を聞かず、しみじみとそう呟いて、足元から持ち上げた瓶の中身を一気に傾けた。

「あ、お父さん、今日はもうお酒飲まないって言ったじゃない!」

両手に持った皿をテーブルに置いたシャディヤが、ナディムからすぐさま酒瓶を取り上げる。

「あ、ああ、そうだった、そうだった」

「もう、ごめんなさい、皆さん。料理運んでくるので、先に食べててくださいね」

「おう」

遠慮なく手を伸ばすアルベルトだったが、ハルカは先ほどのナディムの反応を見て、改めて確信を持っていた。

どこから話を切り出したものかと考えを巡らせていると、腕を何度か叩かれる。

「ママ、元気ないの?」

「あ、いえ、ちょっと考え事を」

気づけばテーブルに食事が並び、シャディヤも席につくところだった。仲間たちもいつの間にかしっかり食事を始めていた。

自分の前にもいくつか小皿が用意されていて、見ればコリンによってもう一つそれが追加されている。

せっせとハルカの分を用意してくれていたようだ。

「ありがとうございます、コリン」

「ん、美味しいよー。宿で食事も出せばいいのにー」

「ありがとうございます。でも、私とお父さんだけだとちょっとそこまで手が回らなくて。昔は出してたみたいなんですけど」

「ふーん、昔は従業員さんがいたの?」

「あ、いえ。お姉ちゃんが……一番上のお姉ちゃんがいたし、休みの日には下のお姉ちゃんも手伝ってくれてたので」

普段のコリンだったら回答を予測して、しないであろう質問だ。親子とも少し表情が暗くなっている。

「そっかー、一階に結構スペースがあるもんね。その時にも来てみたかったなー」

互いに軽く笑ってその話題を流して、今度はシャディヤからいくつか質問が飛んでくる。どこから来たのか、だったり、どんな冒険をしてきたのかだったり、当たり前の盛り上がりそうな質問だった。

場の雰囲気が和み、穏やかな会食がしばらく続く中、静かだったナディムが上目遣いで様子を窺うように口を開いた。

「その、あなたたちは北方のあちこちに行ってるんだよな? その、シャナという君たちより少し年上の女性に心当たりはないか? ちょっと勝ち気な目をしていてな、黒髪の赤ん坊を……今なら三歳くらいの子を連れているかもしれないんだが……」

シャディヤと同じように目尻を指で吊り上げさせたナディム。

「お父さん、それ私がもう聞いたってば」

シャディヤが困ったように言ったが、ハルカはここがチャンスかもしれないと口を開いた。

「……その、シャナさんは、ずいぶん帰っていないんですか?」

「……もう長いこと」

「冒険に出て帰ってこないんです?」

「いや、それは……。……人に頼むようなことでもなかったな、忘れてくれ」

ナディムはそう言って肩を落としたが、シャディヤは逆に何かを決心したかのように表情を引き締めて真っ直ぐにハルカを見つめた。

「あの、話を聞いてもらえませんか? 別にこの食事が終わったら、忘れてもらってもいいんです。でも、もしどこかでシャナお姉ちゃんに会えたら……」

「シャディヤ、やめなさい」

情けない姿ばかり見せていたナディムが、背筋を伸ばして言葉を遮った。

「忘れてください。もしかしたらあなたたちにも迷惑がかかる」

「でも、お父さん!」

「聞きますよ」

ハルカは静かに、しかしはっきりと答えた。

「そうそう、そこまで言われちゃ気になるもん。まずい話だったら、ここだけの話にすればいいし」

「しかし」と小さな声で言うナディムをシャディヤが睨みつける。

「もう、話すくらい大丈夫だってば! お父さんだってお姉ちゃんとまた会いたいんでしょ!」

ナディムが口の中でモゴモゴと何かを言って、そして大きなため息をついた。そして立ち上がり、奥に引っ込んで酒を持って戻ってくる。

「せめて、酒を飲ませてくれ……」

「もう……。えっと、それじゃあ聞いてもらえますか?」

「おう」

今まで会話に加わっていなかったアルベルトが、なぜか踏ん反り返ってえらそうに答える。

それが面白かったのか、シャディヤはくすりと笑い「あまり良い話ではないんですけど」と前置きをして話し始めるのであった。