作品タイトル不明
どっちもどっち
ハルカは仲間たちに集合をかけて一つの部屋に集まった。膝を付き合わせて秘密会議だ。ユーリを膝の上に乗せて、どこから話すべきか考える。
「なになに、どうしたの?」
「……さっき宿の娘さんと話していて、いくつか分かったことがあります」
コリンから催促をされ、覚悟を決めたハルカは、そう枕を置いて話し出す。心配なのは、この話をしたことでユーリが何を思うかだ。
「この宿の娘さんには、二人お姉さんがいます。どちらも今は宿にいないようです。下のお姉さんの名前はシャナ。あなたの叔母の名もそうでしたよね?」
「……うん」
「元々冒険者をされていて、今は恐らく行方不明になっています」
仲間たちは黙って話を聞いている。
そうしなければならない雰囲気があった。
「上のお姉さんはお子さんがいらっしゃるそうです。その名前がユーリ」
「ここがユーリのお母さんの家、ってことです?」
「その可能性が高いのではないかと、私は思っています」
それぞれがいろんな考えを巡らせて、しばし黙り込む。
最初に動いたのはアルベルトだった。「うーん」と唸ってから立ち上がる。
「よし、んじゃあ確認しに行こうぜ」
「ちょっと待ちなさいよ!」
「なんでだよ、聞かねぇとわかんねぇじゃん」
「今回のことに巻き込んじゃうかもしれないでしょ!」
わざわざ他国から来てそんな探りを入れてくる冒険者は怪しい。もし行動を監視されているとするならば、それはより厳しいものになるだろう。
それに、他人から家族の事情に深入りされるというのは気分のいいものではない。それこそ、この推測が本当だとするのならば、シャディヤの上の姉は現皇帝に殺され、下の姉は行方不明になっているのだ。
わざわざそんなことを無遠慮に聞いてくる人に好意的になれるとは思えない。
「ユーリは、どう思います?」
「わかんない、会ったことなかったから。でも、ちょっと似てる」
「お母さんと、シャナさんに?」
「じゃ、やっぱ話したほうがよくね? いろいろ情報貰えるかもしれねぇし。っていうか、身内が死んでるの知らねぇなんて嫌じゃねぇのか? 俺は嫌だぞ。ユーリを守って死んだんだ。ちゃんと知らせてやりてぇだろ」
「知らせないことも、優しさじゃないの?」
コリンが珍しく眉を顰めて言うと、アルベルトはまっすぐその顔を見つめ返す。
「俺はお前らと離れて、生きてるか死んでるかわからねぇでずっと待ってんのは嫌だぞ。探しに行くし、死んでんならどう死んだのか知りたい。中途半端なまま、何も知らずに死ぬなんて絶対に嫌だ」
「それは、わかるけど! わざわざ悲しい思いさせるのも嫌じゃん!」
「一生引きずるよりいいだろうが!」
どちらの言っていることもわかるのだ。どちらも相手のことを考えている。
自分だったらどうなのだろうとハルカも悩んでいた。生きているかもしれない、を抱えたまま過ごすのか、その人生を知って、次へ進むのか。
そんなことを考えていると、モンタナが立ち上がって歩き出す。
「とりあえず、話聞いてみるですよ。この街のこととか、皇帝についてどう思っているかとか。それからまた考えるです」
折衷案みたいなものだ。もうちょっと情報を増やしてから判断しましょうというのが、モンタナの結論だった。ここでうだうだしていても何も解決しないのだから、判断が分かれた以上それが建設的なものの進め方というものである。
「ま、そうだな」
「そうね、情報集めもしたいし」
相手憎しで言い争っているわけではないので、二人の口喧嘩はあっさりと終わる。後に尾を引くわけでもないと知っているからこそ、ハルカたちも止めないのだが。
全員が立ち上がって廊下に向かう中、最後まで座っていたレジーナが、ハルカのことを見上げる。
「あたしは……知りたい。知らねぇと、誰を殴ったらいいかわからないからな」
レジーナらしい結論だった。すっくと立ちあがって、仲間たちの後に続く。
どうやらレジーナがまじめに考えていたらしいことが分かり、ハルカは少し驚いた。
この話は、その人の大切な人の生死を知らされるか、知らされたくないかというものだ。つまり、大切な人を思い描かないと、自分のことに置き換えて想像することができない。
レジーナと付き合いがある人間というのは、恐らくだがハルカたちだけだ。
自然と、レジーナが思い描いた大切な人というのは、ハルカたちの誰か、あるいは複数人ということになる。
そんな場合ではないはずなのに、ハルカは少し心が温かくなってしまった。仲間に迎え入れてよかったと、そう思えた。
「わ、皆さんお揃いで。もしかしてお外でお食事ですか?」
廊下を出てカウンターへ向かおうとすると、丁度角からシャディヤが出てきた。何も持っていないところを見ると、掃除をしていたわけでもなさそうだ。
先頭にいたモンタナが首を横に振ると、シャディヤは良かったと手を叩く。
「あの、うちはお食事とか提供していないんですけど……。御迷惑でなかったら、一緒に夕食をどうかと思いまして。先ほどのお礼になるかわかりませんが……」
「別になんもしてねぇけ……どっ」
「あっ、是非お願いしまーす! まだきたばっかりで街のこととかも色々聞いてみたかったんだー」
そっけない対応をしようとしたアルベルトの顔を押しのけてコリンが答えた。それを見てシャディヤが「仲がいいですね」と笑う。本当に良く笑う子だと、ハルカは横にいたユーリの頭を撫でる。
「いい子ですよね」と呟くと、見上げてきていたユーリがこくりと頷いた。
それにしてもいいタイミングである。情けは人の為ならずというやつだ。