軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

国の評判

〈カロキア〉の街は、言うまでもなく発展していた。

国土だけ見るならばディセント王国と並ぶ二大国だ。その首都が発展していないはずがない。

門から入ってすぐの道は、まっすぐに城へは通じておらず、途中で折れ曲がるように作られている。

今まで見てきた街の中では、デルマン侯爵領のエレクトラムと並ぶほどに、防衛能力に優れているように見えた。あちらは険しい山と、長い歴史によりつくられた幾重もの壁に守られていたが、ここ〈カロキア〉は街がそれごと、人と戦争するために作られたような形になっている。

街を歩く人々の表情は決して暗くはなく、国としては活気があるように見えた。

しばらくの間街の様子を眺めて歩き、やがて工房に併設された武器屋に立ち寄った。中に客の姿はない。

カウンターで一人のドワーフが退屈そうに頬杖をついていた。

敷居をまたぐと、各々ばらけて勝手に中を見て回る。単純に武器に興味があってというのもあったが、話をするための時間を稼ぐように言われているのもあった。

さほど広くない店内に、コリンと店主の会話が響く。

「すみませーん、品ぞろえがよさそうですが、このお店って結構長いんですか?」

「ま、ぼちぼちな。伝統のことは言わねぇが、帝国がここを首都とする前からある」

「へー、すごいですねー! 私、北方で冒険者をしているんですけど、あっちより品ぞろえがいいかも」

「はは、そりゃああんな平和ボケした大陸なんかより需要があるからな」

「だからかー。きっと職人さんの腕もいいんでしょうねー。店主さんも武器を打つんですか?」

「もちろんだとも。今日はくじ引きで負けて仕方なくこうして店番をしちゃいるがな」

ハルカは高価そうなプレートメイルをぼんやりと眺めながら、話を聞いていた。仲間たちのように整備するほどの武器も持っていなければ、審美眼もない。ただよく磨かれているなーと、自分の顔が金属に歪んでうつるのを眺めるばかりだ。

上手いこと店番ドワーフの自尊心をくすぐったコリンが、段々と本題の情報集めに入っていくのが分かり、ハルカは耳を澄ませた。

「ま、負けてなくなっちまう国なんかより、帝国ぐらい強い国で武器を作っているほうがやりがいはあるわな。事実この街が帝国になってから〈カロキア〉まで敵がやってきたことはねぇ。その代わり皇族は血なまぐさい内輪もめはしてるがな」

「あ、聞いたことがあります。でもほら、三年くらい前の皇位継承以来落ち着いてるんでしょー?」

「はっ、ありゃあ簒奪っていうんだと思うが……、おっと声がでかかったな。俺がこんなこと言ってたのは秘密だぜ、嬢ちゃん」

「はーい。でもそんなこと言うってことは、おじさんは前の皇帝が好きだったの?」

「……いや、今の方がいい。…………なんにせよ、今の皇帝様はお強いからな! 地盤固めるためにここんとこ戦争に出ちゃいねぇが、軍備も整えてるし、商業にも力を入れてくれてるからな」

「へー、簒奪したのに人気があるんだー」

「あ、こら、滅多なこと言うなって。見つかったとこで何もねぇが、人気があるのは確かなんだからよ。特に顔が良くてなぁ、女人気が高くて嫌んなるぜ」

「へぇ、見てみたいかも」

最後のはコリンの本音だ。情報集めをしていたはずなのに、自分の好奇心が勝った瞬間だった。

「あ、でもさ、なんか前の皇帝に含みがある感じだね。なんかあったの?」

コリンがニコニコしたまま問いかけると、ドワーフは視線をそらしてポリポリと鼻の頭をかいた。調子よく話していたところの突然の停滞に、コリンは軌道修正をかける。

「あー……聞いたらまずいことだった?」

「いや、そんなんじゃぁねぇが……。ま、あんまり知っても面白くない話だな」

「じゃあ無理に聞くのやーめた。ね、ね、この辺でいい宿屋知らない?」

「お、おう、そうか。宿屋か……、ちょっと待ってろよ」

ガサゴソとやり始めたのを見て、ハルカがちらりと目を向ける。ドワーフは、古びた地図を取り出し、カウンターに乗せた。それを見てハルカはコリンの隣へ並ぶ。

「さて、おっと。後姿も美人だったが、顔見たらこりゃまた、偉い迫力の美人だな」

「……ありがとうございます」

「えーっと、ここがうちの店。おすすめの宿屋はここだ」

ドワーフが指をスーッと動かして、ピタッと止める。ハルカはそこまでの経路をいくつか瞬時に割り出したが、コリンは北西ね、と方角だけを覚える。結局街に出るとどっちが南でどっちが北かわからなくなるので、迷子になるのだが。

察して近寄っておいたハルカは大正解である。

「若い嬢ちゃんが一人で切り盛りしてて、値段もそこまで張らねぇ。よく頑張ってるし、小綺麗にやってるから、ぜひ訪ねてやってくれ。まぁ、なんつぅか、酔っ払いがたまに現れるが、冒険者なら気にしやしないだろ?」

「うんうん、気にしない。じゃ、そこにしよっかな!」

話が途切れたところで、丁度残りの面々が、それぞれ必要なものをカウンターに置いていく。

表情の変化に乏しい、恐ろしい程美人なダークエルフ。

背が高く威圧感がある、大剣を背負った青年。

機嫌が悪いのかずっと眉間にしわを寄せている、顏に傷が走った修道女。

順番に目を走らせて、やや緊張したドワーフだったが、その横にかわいらしい耳をつけた獣人と、楽しそうにあちこちを見て目を輝かせている子供を見つけ、少し気持ちを和ませた。

何とも変な組み合わせの冒険者たちだと思いながら、ドワーフはそれぞれの会計を終えた。

店を出ると、コリンが右左を見てから首をひねる。

「じゃ、お勧めしてもらった宿に向かいましょうか。いいところなら、部屋がなくなってしまうと困りますし」

「うん、そうしよう!」

ハルカが特に言及せずに宿の方へ歩き出すと、コリンが元気にその横に並んだ。