作品タイトル不明
帝国の兵士
思ったよりもしっかりと眠ってしまっていたハルカは、すっかり辺りが暗くなってから目を覚ました。
体を起こすと、ちょうどアルベルトとコリン、それにレジーナが休む準備を始めていた。夕食を食べて、夜の警戒役を割り振ったあたりだったのだろう。
「あ、ハルカ起きた。寝ててもいいけど、ご飯は食べた方がいいよー。じゃ、おやすみー」
言うことだけ言って、コリンは返事も聞かずに寝転がってしまった。
ハルカと一緒に横にいたユーリも起き上がる。
「ご飯食べましょうかね」
「ん」
一緒に立ち上がって焚き火まで行くと、イーストンとモンタナがそれぞれ手を挙げて挨拶をした。
ハルカは残っていた夕食を火で温め直す。
「すっかり眠ってしまってすみません。起こされなかったということは、この辺りは安全ってことでしょうか?」
「魔物や野生動物が多いから、一般的には安全じゃないね。でも、それだけ人があまり立ち入らないってことだと思うよ」
「海沿いに漁村を作ろうとした跡みたいなのはいくつかあったです。頓挫して随分経ってるようですが」
つまり帝国の人間はいないということだ。
周りの状況と、明日からのことを決めながら、ハルカはもそもそと食事をすすめた。
元々帝国は街を一つしか持たない小さな国だった。元となった街は現在の【ドットハルト公国】との国境に近い位置にある。
南へ勢力を広げるにつれて、帝国はだんだんとその首都を移転させていったが、それでも現在位置からはさほど遠くない。
真っ直ぐ空を飛んでいけば四、五日もあれば到着するはずだ。
問題があるとすれば、帝国が各都市間の警備にどれほど力を入れているかわからない点である。
どちらにしても、ナギが空を飛べば目立つ。ことをいかに早く、無駄なく進めるかが重要であるとハルカは考えていた。
実際問題として、ハルカたちが持っている帝国の情報は古い。皇帝であるソラウは、基本的には現在の帝国の首都である〈カロキア〉に滞在しているはずだが、諸事情で留守にしている可能性もある。
その場合は、付近で帰りを待つか、追いかけるか判断しなければいけないだろう。
そもそもどうやって謁見するのか、という話もある。現在帝国において、ユーリがどのような扱いになっているかによっても、その手段は変わってくるだろう。
まずやるべきことは、首都へ辿り着いて情報を集めることだ。
翌日の朝からハルカたちはまた空の住人となった。できるだけ高度をあげて、目立たないように。主要な都市を避けながら、首都〈カロキア〉へ向かっていく。
途中現在位置の確認を頻繁に行なっていたためか、思ったよりも時間がかかってしまったが、それでも六日目の夜には〈カロキア〉付近に到着していた。
流石にカロキアからは四方に道が延びており、人通りも多くなってくる。街が近いと、冒険者なんかは森まで探索に来ることもあるだろう。
夜の闇に紛れてこっそりと着陸したが、誰に見られているかもわからない。ハルカたちは、夜のうちに森を抜けて道まで出るつもりでいた。
「それじゃ、行ってきなよ。僕はナギのことを見てるから」
「よろしくお願いします」
「もし見つかって、移動しなければいけないようだったら手筈通りに。大丈夫だと思うけど気をつけて」
そう言ってから、イーストンはユーリの前にしゃがみ頭を撫でた。
「無理しちゃダメだよ。でも頑張って」
「うん」
話し合って決めたことだった。最初はナギ一人、森に隠れていてもらうつもりでいたが、それに反対したのはイーストンだった。
何日かかるかわからないこと。万が一冒険者と遭遇してしまったら。状況を考えると、ナギを一人で残していくのは流石に危険だと、自らが留守番をすることを決めた。
『信じてあげるのはいいけど、ナギはまだユーリより年下だからね?』
そう言われ、本気で反省したハルカたちである。
イーストンを置いていくのは、街の調査としては少々痛手だが、その分安心して活動できるというメリットもある。
月が中天へ昇る前に、どうにか道まで辿り着き、左右と空を見て、ハルカは左へと進む。
ナギがいる場所が〈カロキア〉より少し東。この道を真っ直ぐ進んでいけば、到着するはずだ。
少し進んでから、適当なひらけた場所で夜を明かした一行は、朝になるのを待って〈カロキア〉の街を目指した。
普通に旅をしてきた冒険者ならば、昼前には街へ入るものだ。名目としては観光とでもしておけばいいだろう。強い冒険者の中には、さすらいながら依頼をこなして生きているものも珍しくはない。
〈カロキア〉の城門前は人でごった返していた。大きな町ではよくある程度の混み合いだが、これと丈夫そうな壁を見るだけでも、街がそれなりに発展していることはわかる。
街の外では兵士と思われるものたちが訓練している姿を見ることができた。圧迫感はあるが、厳しい訓練をしている兵士たちを城門付近に配置することで、治安の向上にも役立っていそうだ。
よからぬことを考えてやって来たものにとっては結構なプレッシャーになるだろう。
アルベルトは列に並びながら、訓練している兵士を眺め大あくびをした。特に緊張もなければ、興味もそんなにないらしい。
そしてぼそっと呟く。
「……兵士って動きがわかりやすいよな」
「じゃないと指揮が執りにくいです」
「まぁな、だから見てて退屈なんだよなあ……」
兵士の戦いというのは、冒険者とは違う。
多人数が一つの生き物となって、敵を飲み込むための訓練だ。
特に、強力な個とではなく、人と人がぶつかる戦争においては、その練度こそがものをいう。それは時に、個人のそれなりの強さを容易に飲み込む。
アルベルトの目指すところは、その軍というものを個人で圧倒するような強さだ。
兵士の訓練を見ていたところで、退屈でしかないのは当然のことだった。
やがて街へ入る順番がやってくる。
ドッグタグで身分の証明をして、軽く街へ入る目的を告げる。ハルカが特級冒険者であると知れても、兵士たちは少々身を固くしただけで、態度を変えたりはしなかった。
よく訓練されている。
何事もなく門をくぐれそうなことにホッとしながら、ハルカは軽く兵士に頭を下げるのだった。