作品タイトル不明
大型飛竜の本気
フォルカーが去っていってから、改めて他のルートを考えてみるが、どこから行くにしても元考えていたルートよりは目立ってしまう。
海にいる魔物があの大蛸だというのであれば、空への攻撃手段はおそらく持たないだろう。
そうなると後はナギ次第ということになる。
つまり、ハルカが大蛸に勝って、強さを見せつければ良いということだ。
「でもよ、実際あの蛸にナギって勝てねぇのか?」
「ちょっと、変なこと言わないでよ。食べられちゃったらどうするの」
「いや、食われる前に助けりゃいいじゃん」
「かわいそうでしょ」
アルベルトとコリンが言い争いを始めてしまったが、ハルカはそれを聞いてふと考える。
ハルカが知っている竜といえば、生物としては最上位の存在である。実際この世界においても、竜というのは非常に強いものであるという印象がある。
その中でも大型で空を飛ぶことのできるナギが、いくら大きいとはいえ、蛸に勝てないものなのだろうか。
ハルカが眠っているナギを見ていると、モンタナが立ち上がって、ハルカが捌いた蛸の足の方へ歩いていく。
そうして放置されていた表皮を、自分の短剣を抜いて突っつき始めた。
一見遊んでいるようにも見える光景だが、別にそういうわけではない。蛸の表皮の硬さを確かめているのだ。しばらく試してから、ぷつりと切先が潜り込むのを確認して、モンタナは焚き火の近くへ戻ってきた。
「案外、勝てるかもしれないです」
「ほらなぁ?」
「で、でも怖がってるし!」
勝ち誇ったアルベルトに、コリンが怯みながらも反論する。
「竜は最も強い生物だって言われてるからね。僕としても、蛸に負ける大型飛竜は見たくないよね」
「わかるけどさぁ」
イーストンに言われると強く出れないコリンである。
「実際どうなんでしょう? 皮は弾力がありますが、鋭い武器を通さないほどじゃないですよね」
「です。あの魔物、魔素が防御力に回ってないです。多分大きくなるのに使われてるです」
「だな。大きさほど強くねぇよ」
モンタナの言葉を引き継いだのがレジーナだ。だからこそレジーナはずっとあの大蛸に強気だったのだろう。
「うーん……、つまり、もしナギが危なくなっても、途中から助けられるってこと?」
「そういうことに、なるんですかね」
「じゃ、やっぱりナギにやらせようぜ。自分より小さい獲物ばっかり狩ってたら、臆病になっちまうからな」
「まぁ、そういうことならー……」
コリンが折れたところで、作戦の路線が変更される。今までは『ハルカが派手に倒そう』作戦だったが、今から立てるのは『おびき出してナギに倒してもらおう』作戦だ。
いつもよりほんの少し遅くまで続いたその話し合いは、ナギ本人の与り知らぬところで終了となった。
朝早く起きたナギは、いつも通り近場で狩りでもしようかと思っていた。
しかし、いつもはまだ眠っていたりぼーっとしたりしている仲間たちが目を覚まして、準備を終えていた。
何かあるのかと思い、ハルカに近寄って首を伸ばす。
「ああ、おはようございます、ナギ」
ハルカが挨拶をして鼻の頭を撫でてやると、ナギは返事にぐるっと喉を鳴らす。
すると気づいたアルベルトが寄ってきて、腰に手を当ててナギへ宣言する。
「よしナギ、今日はあの大蛸倒すぞ」
ナギは大蛸というのが、怖くて美味しいあの生き物だとわかっていたので、ぺたりとその場に伏せた。怖いので嫌だった。
いつもはアルベルトが何かをすると止めてくれるハルカやコリンまで、それをするように言ってきて、ナギは少々混乱していた。
すると遠くからユーリの声がする。
「ナギー、これ、口からガーってするやつで撃ってー」
離れた場所に、昨日剥いだ蛸の皮が伸ばして張ってあるのが見えた。
ユーリのいうガーっというやつは、ブレスのことだ。訓練中に何度か、ユーリにせがまれて空に向けて、あるいは大岩に向けて撃ったことがある。
撃つこと自体は気分がいいので嫌いじゃなかった。
ナギは両脇にいる保護者たちの様子を窺ってから、かぱっと口を開いて短いブレスをボッと吐き出した。
狙いは違わず、大蛸の皮へ。
皮を張るために地面に刺さっていた木の棒がへし折れ、皮と一緒に弾き飛ぶ。
空に舞い上がった蛸の皮は、わずかに焦げ、裂けていた。
「あぁ、そうなっちゃいますか」
木が飛んでいったのが予想外で、ハルカが間の抜けた声をあげた。
「でも、威力は十分だろ。あれならきっと致命傷与えられるぜ」
「よし、じゃあやりましょうか。ナギに説明しておいてください」
ハルカはそう言って空へ飛び立ち、海へと向かった。
真上の高い位置から見ると、海の中にまだ大きな影がいるのがわかる。足の数が七本、まず間違い無く昨日の蛸だろう。
一晩経ってもいなくならないとは、なかなか執念深い。
ハルカは空の上で人の頭くらいの岩をいくつも生み出し、眼下に向けてボトボトと落としていく。
するとすぐさま蛸が動き出し、空へ向けて足を伸ばしてきた。十分に距離をとったつもりだったが、思った以上に足が長く、ハルカはさらに上空へ。
びんっ、と足が伸びたのを確認して、挑発するように石を落とし続けながらゆっくりと海岸へ向かう。
砂浜付近まで来ると、上陸を一時ためらっていた蛸であるが、ハルカが続けて岩の弾をその頭目掛けて飛ばし続けると、我慢できずに海面から頭を出した。
砂浜をじわじわと前へ進み、半分以上頭が露出したところで、ハルカは岩を投げるのをやめて動きを止める。
そして、海の温度を急速にさげる。
ハルカは元々あるものに対して干渉する魔法が苦手だった。自分で生み出した物質を動かすのであればともかく、自然にあるものの性質を変えたり、形を動かしたりするのがどうにもうまくいかなかったのだ。
しかし、苦手なだけならば克服できる。
半年間みっちり訓練を続けてきたハルカは、目に映る海をゆっくり凍らせるくらいならば、朝飯前になっていた。
突然体の動きが鈍くなった大蛸は焦った。慌てて海へ逃げ込もうとした時には、もう体の周りがじわりじわりと凍り始めていた。
振り返って海を向いた時には、もう完全に足が凍りついて動かない。
「ナギ、がんばって」
近くに来ていたユーリに言われて、ナギはまた大きく口を開ける。あの大きな生き物は怖いので、今度は本気でブレスを吐き出す気でいた。
「……結構すごいです」
ナギの口元に集まる魔素を見て、モンタナが目を瞬かせる。
次の瞬間、巨大なエネルギーが大蛸に向けて一直線に吐き出された。
衝突音、それから弾ける音。
ナギの吐いたブレスは、大蛸の頭に大穴を穿ち、あっさりとその命を奪い去った。
その光景を見て、イーストンが一言。
「まぁ、普通の大型飛竜って、こんな威力のブレス吐かないんだけどね」