軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

各地の事情

「ちゃんと頼めたー?」

「あ、えー、頼めたには頼めました」

予定が狂ったせいで奥歯にものが挟まったような返答をするハルカ。コリンが気づかないはずがなかった。

「なに? なんか問題あったの?」

「ヴィーチェさんが近くにいて、一緒に依頼を受けてくれることになりました」

「……カーミラ大丈夫?」

「よくよくお願いはしておきましたけど……」

「カーミラも子供じゃないんだから、自分でなんとかするでしょ」

荷物を持ってナギの背に上がっていくイーストンは、カーミラにちょっとだけ厳しい。

「問題はばれたときです」

「流石にそれくらい気を付けるんじゃないですかぁ? ねぇユーリ」

「多分だいじょぶ」

小さな三人が順番に歩いていく。先頭にモンタナ、真ん中にユーリ、後ろにノクト。そのうちユーリが一番背が高くなりそうだ。

のんびりと話しているが、コリンとハルカは心配だった。カーミラにも十分注意してきたつもりだったが、それでも心配なものは心配だ。

「ほっとけ」

「強いんだからなんとかなるだろ」

上からレジーナ、アルベルト。二人ともあまり気にしていない。

「まぁ、いざとなったら飛んで逃げるか」

「そうだといいんですけど……」

コリンも自分を納得させたところで、いつまでも心配しているのはハルカだけになってしまった。他の仲間たちのように割り切ることはできないハルカは、悩みつつも出発のためにナギの背に乗るのであった。

今回のエリザヴェータの訪問は、この間のマグナス公爵の件についてだろう。

国境を騒がせたのもあるし、中型飛竜や過去の遺物を使ってトラブルを起こそうとした経緯もある。特に後者については、場合によっては街が一つなくなるところだったのだ。

黙って見過ごせる問題ではない。

だからこそ、騒ぎが落ち着いてすぐに、トップ同士での会談をすることにしたのだろう。

ただハルカには、あのギルド長が真面目な顔をして会談に臨む姿は想像がつかなかった。軟体動物のようにぐにゃぐにゃと眠っている姿が印象的すぎる。

【独立商業都市国家プレイヌ】は商人と冒険者の国だ。ギルド長であるテトがそのトップの一角であることはともかく、商人達に関してはどうなのだろうかと、ふとハルカは疑問に思う。

「師匠、トップ同士の会談だと、この国からは誰が出るんですか?」

「その時の外相担当の商人ですね。これは持ち回りで、予め商人間でやり取りをして決めています。一応代表になる権利はある程度の財を成した人物のみになりますよねぇ?」

視線を送られたコリンは頷いて続く。

「うん。うちのパパも私が冒険者になるころに、その末席に入ったみたい」

「コリンって……、結構なお嬢様だったんですね」

「うん。うちはお兄ちゃんもお姉ちゃんも優秀だからさー、どんどん規模拡大してるみたいだよ」

コリンが高い教養を持ち、いい武術の師に恵まれたのもそんな家柄だったおかげだろう。ちなみに幼馴染であるアルも、同じように教育を受けているはずなのだが、何かあるとすぐに「知らねぇ」が出てくる。折角の学ぶ機会も、興味がないからとあまり真面目に受けていなかったようだ。

「よく冒険者になるの許してもらえましたね」

「うん、小さいころから言ってたし」

「でもこいつ弓術も武術も、習い始めた頃毎日泣いてたぜ」

「一緒にやるって言ってたのに、アルは逃げたじゃない」

「俺は剣だけでいいんだよ」

コリンが泣きながら訓練をしていたなんて、今では想像もつかない。両親も可愛い末娘によくそんな師匠をあてがったものである。

しかし今の戦いに慣れてきたハルカでこそわかることだが、コリンの持っている戦闘技術は確かに出会った頃から洗練されていた。弓にしても格闘術にしてもだ。

「かなり特殊な戦い方をするよね」

「戦いづれぇんだよ」

イーストンもレジーナも、あまりコリンのような戦い方は見慣れていないようだ。ということはおそらく、この辺りの伝統的な武術ではないのだろうと推測できた。

「その師匠はなんて名前なんですかぁ?」

「弓の師匠はエルフのティルクさん、武術の師匠はゴンザブローって言ってたわ」

「権三郎ですか?」

「そ、ゴンザブロー=イィリオモテ? みたいな? 聞いたことない名前よね。【朧】の人っぽいお爺さんだったわ。私の武術はその人が改良した 合術(ごうじゅつ) とかいうらしいわよ」

「こちらに渡ってくる【神龍国朧】の人は変わった人が多いんですよねぇ。やけに厳格だったり、変わった目的意識があったり」

どうやらノクトも知らない人物らしい。

冒険者でないと名前が知られる機会も少ないのかもしれない。

王国で会ったリョーガという人物も、中々の実力者だったことをハルカは思い出していた。

「【朧】は遠いからね。あっちは造船技術が発達してるけど、それでも海難事故は絶えないんだ。たまに航路に巨大な海の魔物が現れることもあるし」

「イースさんは海に詳しいんですねぇ」

「まぁ、うちやバルバロは【朧】と交易しているから。あとは【鵬】とかから大陸に入る人が多いんじゃないかな?」

バルバロ領の港には大きな船がたくさん停まっていた。あれだけ大きなものをいくつもつくるということは、それだけ【朧】との交易に利があるということなのだろう。

「そういえば、師匠も海の魔物の話をしていましたね」

「ええ、北方と南方の間に住んでいる魔物ですねぇ。とにかく大きいですし、それなりに数もいるので船を渡すのが難しいんですよぉ。そうでなければオランズから少し南へ下ったところに、港町を作ると便利なんですけどねぇ」

「師匠なら退治しながら進めるのでは?」

「誰かがいないとやっていけないような場所に、街を作っても意味がありませんからねぇ」

「まぁ、確かにそうですね」

ばさりと手書きのアバウトな地図を広げて位置関係を見ていると、イーストンは一点を指さして珍しく悪戯っぽく笑った。

「ここ、混沌領の端。この辺りに街が作れると、僕のところからの交易に中継地点になってとても便利なんだよね」

「……なぜ私にそれを?」

「別に、他意はないよ」

「ありますよね?」

「いや、どうかな? でも、いつかどうにかなったらいいなとは思うね」

「……結構広いですね、混沌領」

「ま、そうだね」

ハルカが真面目な顔をして地図とにらめっこしているのを、仲間たちは楽しそうに、少しワクワクしながら見守るのであった。