軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

慣れた対応

街の外を旅するのはやはり危険だ。

獣人の国は、自由に道を行き帰しているものが多かったせいか、賊や魔物に襲われることは少なかった。しかし、王国に入ってからは、既に数度それらと遭遇している。

王都を抜け、小さな町で補給を続けながら、ハルカたちは東へと歩みを進める。その足取りは止まることなく、予定が覆されたことは今のところない。

それはつまり、ハルカたち一行が、街の外の普通の危険程度であれば、何の問題もなく乗り越えられているという証左でもある。

今は守る依頼人もいない状態であるが、代わりにユーリを連れている。もしあと数人護衛対象が増えたとしても、歩みが遅くなることは恐らくないだろう。これは、一流の冒険者チームといって差し支えない安定感であった。

ノクトールを出立して早三か月。

特別に変わったことがあるとすれば、ナギの大きさだった。

足が太く、首が少し長くなり、その大きさは既にユーリが乗ってもびくともしない。だというのに、たまにハルカの背中にくっつこうとして、肩に手を乗せることがある。そのままずるずると後ろ足を引きずられて進んで、しばらくすると満足するのか横に並んで歩きだす。

ある程度人の言葉が理解できるのか、ダメだといったことはやらないし、ユーリやハルカの顔を見ながらいろんなことをするので、手間はそれほどかからない。ただ、肉をよく食べるので、最近では森や山で、大型の動物や魔物を狩る毎日だ。

一番最初に狩った記念すべき大物であったタイラントボアも、今となっては苦労もなく狩ることができる。近隣の村の人にも感謝されて、一石二鳥である。

ただ、ナギが大きくなってきて困ったこともあった。何か成果がないと、村や小さな街に入れてもらえないのだ。そんなでかい竜を連れていて大丈夫かと言われてしまう。冒険者と名乗ったところで、この国での冒険者はそれほど信用がなかったし、全員がまだ見た目が若いせいで、余計に心配されてしまう。

そんな交渉をしているときに、ナギが「ぎゅおお」とでも鳴こうものなら、たちまち人々は家にこもってしまうのだ。

ハルカたちにとってはかわいい仲間であっても、ただ平和に暮らす人々にとってはただの脅威にしか見えないのであった。

偶に近くの大物魔物を討伐すると、このやり取りが少しスムーズになるというわけである。

季節はすっかり冬になっていた。ちらほらと雪が降り、夜には凍えるような寒さになる。きっと今頃北上してディグランドに行ったら、足がずっぽりと沈んでしまうくらいには雪が積もっているだろう。

ノクトの拠点だってきっとそうだ。あそこは山に近いから、きっと冬は雪に閉ざされるに違いない。獣人の子供たちが、雪の上を駆け回る姿はきっとかわいいのだろうと思いながら、ハルカは焚火に当たる。

ナギを一番外側に、仲間たち全員が焚火の傍で横になって目をつぶっている。最近分かったことであるが、ナギは体がいつでも温かい。そばで寝るとじんわりと周囲も温かいのだ。元の世界で例えるのならば、オイルヒーターのような感じである。竜が冬に冬眠しない理由である、火炎袋が活発に働いているせいだろう。

最近モンタナが懐にトーチを入れているのも、きっとそのせいだ。トーチは、身の安全が守れる場所ならばどこにいてもいいらしく、特に抵抗はしていない。

夏場はヒンヤリとしているのに不思議なものだ。ハルカは竜という生き物が、また少し好きになった。

ハルカは自分が夜の番をするときは、周囲に障壁を張るようにしていた。だからといって気配を探る努力を放棄したわけではないのだが、念のためである。モンタナと一緒の時だけは、微妙にやりにくいと言われるので解除しているが、今日はアルベルトと一緒なので、障壁を展開中だ。

なので敵が出ても問題はない。

剣の手入れをしているアルベルトがぴたりと手の動きを止めた。ハルカも遅れて、頭上でぐるぐるとまわし続けていた水球を虚空に消した。魔素が霧散して、現象そのものが消える感覚。ハルカも最近ようやくそれがつかめてきていた。

無数の赤い点が森の奥から現れるのを見て、ハルカはそこに水を発現させて凍らせる。乗り越えて姿を見せたネズミの集団も同じ手段ですべて凍らせた。ただのネズミでも中には魔物化したものが複数混じっていることがある。油断は禁物だ。

「何かから逃げてるな、外出るぞ」

「どうぞ」

アルベルトの先の障壁を消して、迫りくるネズミを処理し続ける。それが途切れた直後、残像が見えるほどの速さの何かが、アルベルトに向けて飛びつく。

小型の肉食動物の魔物だろうとハルカは推測する。自分が対応するのには、相手の攻撃経路に障壁を作るのが一番楽だろう。動きを止めたところで仕留めればいい。アルベルトの心配をするでもなく、ハルカはそんな風に戦力分析をする。

アルベルトは、剣を振るうでもなく、その獣の脳天に向けて、的確に柄頭を叩きつけた。静かな決着だった。

モンタナが一瞬目を開けたのが見えたが、すぐに目を閉じる。ちなみにナギはすぴーと寝息を立てていた。野生の動物として生きていくのは難しいかもしれない。

アルベルトが仕留めたのは、恐らくイタチ系の魔物だ。通常のものより大きく、額が僅かに盛り上がっている。毛並みが非常にいいように見えるから、きちんと皮を剥いでおけば、街で高く売れそうな気がする。

戻ってきたアルベルトのそばに魔法であかりを出してやり、障壁を張りなおす。すぐに解体を始めたのをみながら、ハルカは小さな声で話しかける。

「上手く倒しましたね」

「血が付くと面倒だからな」

「せっかく手入れしましたしねぇ」

ちらほらと雪が降り始めて、ハルカは空を見上げる。障壁を頭上に斜めに展開する。せっかく休んでいる仲間たちに雪が積もっては大変だ。

雪は少し水けを含んでいて、障壁に当たるとべしゃりと潰れる。十分寒いと思っていたのに、粉雪が降るほどではないらしい。

明日は地面がぬかるむかもしれないから、ナギは障壁に乗せて運んでやろう。そのまま歩かせて、背中に飛びつかれてはたまらない。

いつもと変わらないゆっくりとした夜の時間が流れる。

もうすぐバルバロ侯爵領だ。タイミングが合えば、イーストンとも再会できるかもしれない。伝言を頼んで、一度オランズに戻ってきてから、もう一度侯爵領に戻るという手段もある。

今度の訪問では、美味しくてお高い料理だけでなく、港の下町料理も試してみよう。何の依頼も受けていないから、滞在期間は好きにしてもいい。あの街ならきっと、ナギのことも受け入れてくれるだろう。

ぱちぱちという、燃えた薪の爆ぜる音を聞きながら、ハルカは明日からのことをぼんやりと考えるのであった。