軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

先の依頼

バルバロ侯爵領で街に入ろうとすると、衛兵に止められる。てっきりまたナギのことかと思っていたのだが、そうではないらしい。ハルカたちが街に来た場合に、バルバロへ連絡を入れるよう指示が出されているのだそうだ。

門の端で時間をつぶしていると、間もなくしてバルバロが馬に乗って姿を現した。本来領主というのはそんなにフットワークの軽いものではないのだろうが、彼に関しては別だろう。初めてここを訪れたときも、大型の船の上で作業を見守っていた覚えがある。

少し手前で華麗に馬から飛び降りたバルバロは、それを衛兵に預けて歩いて近寄ってきた。片手をあげて挨拶をしている姿は、相変わらず海の男にしか見えない。

「よぉ、半年ぶりか。そっちの竜、あの時の卵だよな? 随分でかく育ったもんだ。やっぱり俺も欲しいぜ、大型飛竜」

初めて会うなれなれしい人間に、ナギが大きく口を開けて鳴き声を漏らすが、バルバロが動じた様子はなかった。どちらかといえば、後ろで見守っている衛兵たちの方が動揺している。

「ナギ、ダメですよ」

ハルカが静かな声で注意すると、ナギは口を開けたままそろっとハルカの方を見て、かぽっと音を立てて口を閉じる。ちゃんと言うことは聞くのだ。

一度ハルカの背の高さを超えたあたりで、あまり話を聞かなくなった時期もあったのだが、いつの間にかそれもなくなった。あれはもしかしたら反抗期みたいなものだったのかもしれないと、ハルカは思っている。

「おお、賢いな」

「ええ、かわいいでしょう?」

「……まぁ、どう思うかはそいつ次第だからな」

ハルカはかわいいと思っているのだが、たまに村でその話をしても同意を得られたことはない。バルバロならあるいはと思ったが、苦笑して流されてしまった。仲間たちは同意してくれるのだが、もしかすると親の欲目というやつなのかもしれない。

「んで、今回は大竜峰に行くのか? どうだ?」

以前にバルバロも大型飛竜の卵を欲しがっていたので、きっとそれを頼みたいのだろう。期待で子供のように目を輝かせているのだが、あいにく今回その予定はない。

「いいえ、補給と、イースさんへの言伝のために立ち寄りました。これからオランズに一度戻ります、と。ユーリやナギのことを考えると、拠点を構えたほうがいいだろうという話になりまして。そのためにしばらくはオランズからあまり離れないと思うんですよ。イースさんに伝われば、遊びに来てくれるのではないかなと」

「あー、わかった、それは伝えとく。ってーことは、卵はまだ無理か」

「はい、すみません」

バルバロは腕を組んで、少し考えながら、遠くに見える大竜峰を睨む。

「よし、わかった、依頼を出す。期限は未定。いつでも良いから、大竜峰から大型飛竜の卵を取ってきたら、依頼料を払う、だ。どうだ、準備したら受けるか?」

後ろを向くと、コリンがうんうんと頷いている。次回からは真竜ともすでに顔見知りになっているし、前ほどの危険はないだろう。もう少し自信がついたら、もう一度大型飛竜に挑んでみるのもいいかもしれない。

「わかりました。条件を決めて、依頼書をいただきます」

「決まりだな。明日の朝には渡そう。あとは……、そいつ、ナギが街中を歩くとみんなが怖がるからな。今日はうちの館に泊まっていけ」

本当は港近くの宿とかで、街の珍味を食べ漁る予定だった、そんなことで申し出を断るわけにはいかないだろう。ハルカは、あまり間をあけずに、バルバロの申し出を受けることにした。

まさか宿の中にまでナギを入れてくれるとは思わなかった。しかしバルバロが何をしている時もナギの様子を観察しているのを見ると、よほど竜が好きなのだろうとわかり納得する。

何を食べるのか、どんなふうに鳴くのか、飛べるようになったのか、どれくらい眠るのか。成体の大型飛竜のことは知っていても、幼体のことはよく知らないといって、質問を矢継ぎ早に繰り出された。

注目され続けているナギはというと、少し居心地が悪いみたいで、ハルカの後ろに隠れたり、物の陰に逃げ込んだりしている。

ナギは大きくなるにつれて、何度か脱皮を繰り返しているという話をしたら、バルバロはそれを欲しがった。毎度脱皮した抜け殻は、ナギが自分で食べてしまうので、現物なんて保管していないというと、残念そうにしていた。

蛇の抜け殻を持っていると金運がよくなる、なんて話をハルカは聞いたことがある。では竜の抜け殻をもっていると、何かいいことがあるのだろうか。気にはなったが、ナギが食べようとしている抜け殻を取り上げてまで、検証したいとは思わなかった。

後半にはバルバロとコリンが、依頼の金額についてつめ始めてしまったので、ハルカは蚊帳の外だった。

対外的に一番はったりが利くのがハルカだから、普段は交渉役を買っている。しかし、既にハルカの性格がばれてしまっている相手との交渉では、コリンに任せるのが一番手っ取り早い。

イーストンに会えなくてがっかりしているユーリと、バルバロのことを気味悪がっているナギの相手をしてやるのが、ハルカの今の仕事であった。

「次はマジで頼むぜ。エルフの感覚で、そのうちってのだけはやめろよ?」

「ええ、まあ、数年中にはなんとかできるといいなと思っています」

「それならいいんだけどな」

翌日街を出発するとき、バルバロに散々念を押された。エルフのそのうちというのは、寿命が長いのであまりあてにならないらしい。

ハルカの感覚は普通の人間と同じなので、他に優先するべき用事がなければ、早めに、と思ってはいるのだ。

しかし実際のところ、領主たっての頼みを「今回は行かない」で断ること自体が非常識であることを、ハルカは気づいていない。元々の性格であればすぐに気づきそうなものであるが、この世界の冒険者の感覚に大分毒されてきている。もっと正確に言うなら、特級冒険者であるノクトの感覚に、毒されている。

誰も訂正してくれないので、この感覚は恐らく、これから先ずれていくばかりとなるだろう。

館の前でバルバロと別れを告げ、人々に遠巻きにされながら、ハルカたちは街を後にする。あとは面倒そうな公爵領さえ通り抜ければ、すぐにオランズに到着する。

厄介ごとに巻き込まれるのが嫌なので、大事を取ってここから先の街には、もう立ち寄らないことにしている。中型飛竜を集めているという話も聞いていたし、下手をすればナギをよこせという話にもなりかねないだろう。

何の得にもならないトラブルはごめんである。

少し先のことは心配であるが、オランズに戻った後のことを考えれば、足取りは軽い。コリンはバルバロからの依頼書を眺めながらご機嫌であるし、ナギもじろじろと見られなくなってご機嫌だ。

アルベルトとモンタナは、相変わらず歩きながらも身体強化の訓練中で、ハルカも魔法を頭の上で展開して自由に動かしたり、状態を変化させたりを繰り返している。

ハルカたちのいつもの旅の風景だ。ユーリがまじめな顔をしてそれらを見つめ、自分でも挑戦し始めたことに、仲間たちはまだだれも気づいていなかった。