軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『ノクトール』

ハルカたちは翌日、ノクトに追い出されるようにしてこの街を出ることになった。ノクトが言うには、いつまでもいると身内の面倒ごとに巻き込むことになるから、だそうだ。他人の面倒ごとには首を突っ込んでいくのに、自分のことになった途端に遠慮がちだ。

ハルカは、街にまだトラブルの種が残っていることを知っている。自分も関わった手前、手を貸すべきではないかと提案してみたのだが、すげなく断られた。ノクトとダグラスのトップ二人が揃って首を振るものだから、それ以上しつこく食い下がれもしない。

見送りに来たのは、ノクトとダグラスだけではなかった。ゴードンを筆頭とした、アルベルトたちが訓練していた面々。それに、昨日喧嘩をしていたリオルとルプスが後ろに控えていた。

リオルは伝えることは伝えたのか、すっきりとした表情をしている。昨日の一件から、仲間として馴染んでいけるのかを心配していたので、ハルカとしても一安心だ。

「では、皆さんお気をつけて」

ノクトのあっさりとした別れの言葉に、ハルカたちは複雑な表情だ。

昨日のうちに話はしているし、ルートの選定も済んではいる。長々と心配されるのも違うが、もう少し別れを惜しんでもいい気がした。

そんな気持ちを察したのか、ノクトは笑う。

「冒険者に別れはつきものです、……そして再会も。ねぇ、ダグラス?」

「……大将、ちゃんと仕事は片付けるんじゃぞ」

「えぇ、もちろん。ゴミ掃除と後始末くらいはするつもりですよぉ」

何の話をしているのか、わかるようなわかりたくないような、微妙なラインだ。ただ分かるのは、ノクトが早々に脱走計画を立てているということと、ダグラスが既に諦めムードであるということだ。

ダグラスは眉を上げてハルカたちを見て、肩を竦める。

「いいんじゃよ。儂らは大将を見て冒険者になったが、大将は根っからの冒険者なんじゃ。あんまり留守にされすぎると困るが、度が過ぎねば好きにやったらいいと思っちょるよ。……度が過ぎねばな」

くぎを刺すように向けられたダグラスの視線は、ノクトに届かない。わざと視線が外れるように、一歩ハルカたちとの距離を詰める。

「さて……、後始末を任せる気はありません。しかし、もしこの街を出るまでに襲われるようなことがあれば、好きに対処してください」

「なんだ、最後まで面倒ごとかよ」

「ええ、そうです。楽しそうな顔になってますよ、アル君」

「暴れていいんだろ。ここで訓練して、結構手ごたえ感じてるからな。本気でやってどうなるかだ」

「……昨日も言いましたけどねぇ、アル君は結構強くなってるんですよ。今日の相手じゃ、お眼鏡にはかなわないかもしれませんよぉ?」

「だとしても、手を抜く理由にはならねぇもんな」

二人の物騒な会話が途切れたところで、ハルカは尋ねる。

「襲われる理由はなんでしょう?」

「僕への対抗手段として、あなたを人質にとること、とかでしょうか?」

「あー、面接にいたからですね。わかりました、なんとかします」

「はい、なんとかしてください。倒しても、無視して走り抜けても構いません。ご迷惑をおかけします」

「……今更ですよね、それ」

「ええ、そうです。私、可愛い弟子には苦労させることにしてるんです」

「期待に応えますよ」

得意げに微笑むノクトに、ハルカも笑顔を返す。この面倒ごとの対処は、師匠からの信頼と受け取ることにした。

ハルカは昨日の反省も踏まえて、予め襲撃の規模や対応を想定する。情報を仲間と共有するために、面接で落ちた人の数を思い出し、それぞれの強さを予測する。

考えながら、戦うために必要な情報がスラスラと思い浮かぶ自分に驚く。確かに、成長しているのだ。口喧嘩すら碌にしたことなかった自分を思えば、立派ではないかと、ハルカは自分を褒めた。

昨日の件で少し自信が喪失気味だったから、セルフメンタルケアだ。学ぶこと、研究することはまだまだたくさんあるけれど、自信を持つことは大事だとも教わった。自信は判断の速さを補強し、それは戦闘能力の向上にもつながる。毎日生きていることが、訓練みたいなものなのだ。

「では、そろそろ出発します。師匠も、次に会う時までお元気で」

ハルカが頭を下げて挨拶をすると、ベッドの上でもじもじしていたユーリが、顔を上げてノクトを見た。イーストンと別れたときのように、泣いたりはしていない。

「ノクト、またね」

「ええ、また会いましょう。……子供の成長は著しいですね」

ユーリの挨拶に何か感じるものがあったのか、ノクトが感じ入っているところに、仲間たちが次々と軽く挨拶をする。それはノクトを見くびっているからではない。自分たちが元気で活動している限り、必ずまた再会できると確信しているからこその軽さだった。

挨拶を終えた一行は、前を向いて振り返らずに歩き出す。

ハルカは地図を広げて、ルートをもう一度確認しながら、仲間たちに敵の勢力を伝える。アルベルトは、モンタナと並んで先頭を、コリンがハルカの横について、ユーリを挟んで歩く。

以前よりずいぶん大きくなった障壁のベッドの中では、今日もユーリと二匹の竜がのんびり景色を眺めていた。今ではハルカもすっかり、それを自動操作することにも慣れている。いざとなれば頭の方に蓋をして、完全防御態勢をとることも簡単だ。

ハルカたちは元来たルートを、寄り道せずに、オランズへ向かう。途中でバルバロ侯爵領によって、イーストンに会うことができれば、くらいの予定である。

長くため込んだ、冒険者としての功績が、オランズに帰ったときにどう評価されるのかが、今から楽しみであった。足取りは軽く、襲撃のことなどまるで考えていないかにも見える。

ハルカは、ふと思いついて、アルベルト達に提案をした。

「もしよければ、今回の相手は私がなんとかしたいのですが。おそらく、私が目的でしょうし……」

「なんか考えがあんのか?」

「はい、一応。ちゃんとできるかの確認もしたいので、皆さんにはいつでも動けるように準備だけしてもらえれば」

「……ハルカがそう言うなら、別にいいぜ。話聞く限り、大した相手じゃなさそうだしな」

アルベルトが言うと、二人も頷く。なんだかんだで、こうしたいと意志を強く示すのはいつもアルベルトの仕事だ。

方針を決めた後は雑談に華が咲く。ハルカの面接のこと、アルベルトとコリンの訓練のこと、それから意外とモンタナが人間からは声をかけられていたらしいこと。

モンタナとユーリと竜が連れ添って歩いていたのがかわいかったのかもしれない。その気持ちはハルカにはよくわかった。

そうして話していても、ハルカたちは油断していたわけではない。

モンタナが「もうすぐ来るです」と呟いたのを聞いても、雑談はやめない。

がさりがさりと、周りを囲まれて、敵が完全に姿を現したところで、ハルカたちは足を止めた。ハルカはもう迷わない。襲ってくるとわかっている相手に、問答は必要ない。

首をぐるりと回して、一人を除いた全員の頭を水の檻で閉じ込め、それを瞬時に凍らせた。それらがバタバタと暴れている間に、ハルカは特に見覚えのある、うさ耳の男、ジャックへと駆け寄った。ただ一人、魔法をかけなかった相手だ。

一瞬逃げ腰になったジャックだったが、結局迎え撃つことにしたようで、背負っていた棍を抜いて、思いきり振り下ろした。

ハルカはそれを、左手に持った杖ではなく、右手を振ることで迎え撃つ。ハルカの腕に当たった部分から棍が真っ二つになり、その衝撃で腕をかち上げられたジャックは、無防備に万歳する羽目になった。

そこで初めて彼我の力の差を思い知ったジャックは、恐怖に頬を引きつらせ、思わず目をつぶった。

しかしハルカは次の攻撃に移らない。目の前に立って、黙ってジャックが目を開けるのを待った。先端が尖った岩を空に生成し、その切っ先全てをジャックに向ける。

目を開けたジャックはその光景を見て、腰を抜かした。声も出ずに、ずりずりと後退るのを見て、ハルカは口を開く。

「私は、いつでもあなたたちを殺すことができました。しかし、ここは獣人の国であり、師匠の領地です。ですので、あなたたちをどうするかは、師匠に任せるとします。一つだけ教えておきましょう。私は昨日訓練で、師匠に手も足も出せずに負けました。あなたたちが挑んでいる相手は、そんな人ですよ」

後ろでバタつく音が無くなったので、倒れた者たちの姿を目視したのち、全ての魔法を解除する。

話はこれで終わりだった。

「身の振り方はよく考えましょう。それでは、私はこれで失礼します」

ふわっとユーリのベッドが浮いて、ハルカの傍に寄るのに合わせて、仲間たちもジャックの横を歩いて抜けていく。

後のことは『月の道標』の大将であり、ここ『ノクトール』の領主であるノクトの仕事だ。ノクトの名誉は十分に守れただろうと、ハルカは戦闘の終わりにほっと息を吐いた。

しばらく距離を取った後、コリンとユーリに「かっこよかった」と喝采されてハルカは顔を赤くして照れまくることになるのであった。