軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8 やり直し【バルド】

それから様々な調査が入った。

バルドはその様子を、ただ静かに見守っていた。

「バルド、マリアーナ夫人の事は、その、残念だったな……」

バルドは王太子から長い休みをもらっていた。

本来は、新婚当時に使う予定だった休みだ。

「いえ、お心遣い、感謝します……」

「話はできたか?」

「いいえ……」

「そう、か……」

マリアーナの突然死で真っ先に疑われたのがバルドだった。

しかし、夫婦仲がよくなかったとはいえ、王太子の側近を務めるバルドがそんな事をする訳もなく、証拠も無かったため、疑いは晴れた。

「死因調査の結果、目立った外傷、病の症状はなかった」

この日、王太子は邸宅に引きこもっているバルドに、マリアーナの死因調査の結果を伝えにきた。

「では毒ですか?」

「その反応も無かった」

「そ、それなら、なぜ──」

「代わりに、魔力が暴走した痕跡があった。いや、マリアーナ夫人の死に方は、魔力暴走による死と同じだった」

「魔力の、暴走?」

「ああ──」

この世界の者は、誰でも魔力を持って生まれてくる。

その量に違いがあっても、魔力がまったく無いという事はない。

だが、魔力が少なくても生きていくには困らないが、魔力が多すぎるとまれに制御できずに魔力が暴走し、死に至る事がある。

その際の死に様は、内側から破裂したかのように凄惨なものとなる事が多い。

そして、魔力が多ければ多いほど、周りを巻き込むこともある。

まさに人間爆弾と言ってもいい。

「ですが、マリアーナの魔力は生活魔法を使える程度だと、聞いています」

「ああ。魔力量が少ないのに、魔力暴走を引き起こす事はまずない。だが、例外がある」

「──まさか」

「そう、呪いだ。確か隣国に、そういう呪いを扱える呪術師がいたそうだな。現在はすべて管理されているらしいが」

「呪い、だとしても、一体誰が……」

「そういえば、バルド。亡くなった君の元婚約者であるアンネッタ嬢も、最後は血を吐いて亡くなったそうだね?」

「は? いや、まさか……」

「遺体はどうなった?」

「感染症の可能性があるとして、火葬に……」

改めて口に出し、バルドは血の気が引く感覚がした。

それはまるで、死因を悟らせないために処理されたかのようだった。

「どうやら犯人は、君が女性とくっ付くことを良しとしていない人物のようだね」

「──うぐっ」

その時、バルドは胸の痛みを感じて、うずくまった。

「どうした?」

「魔力が、乱されて──?」

「……すでに ア(・) イ(・) ツ(・) の(・) 影(・) 響(・) が出始めたのか。さて、バルド。きみはどうしたい?」

「犯人を、見つけたいです。でも、願わくば、すべてを、やり直したい、と──」

「そうか。なら急ごう」

「……何を?」

王太子がその手を差し出し、バルドがその手を取った。

その瞬間、周りは一瞬光に包まれ、二人の姿は掻き消えた。

転移したのだ。

行き先は王宮の第二宝物庫。

国宝の装飾品などの、本当に価値のあるものを保管する第一宝物庫ではなく、様々な意味で外には出せない物品を保管する場所だ。

「ここは、第二宝物庫ですか?」

「そうだ。良くない曰く付きのものから、現代では禁忌扱いの魔法道具などが眠っている。そして、今は亡き、魔女たちの遺産もここにある」

「魔女たちの、遺産……」

昔、この世界でまだ瘴気や魔物が 在(あ) った頃、世界を秘密裏に守っていたといわれている存在だ。

現(・) 在(・) で(・) は(・) すでに神々の国へ帰ったといわれている。

「その中に、時間を戻すことができる 魔(・) 法(・) 具(・) がある。レコードキーパーの魔女が世界を破滅の運命から救うためにこの世界にもたらしたものだ。結局は使われなかったらしいがな」

「そんなものが……」

王太子はある物の前で立ち止まる。

石造の台の上に赤いクッションが敷かれ、その上に手に乗るサイズの虹色の玉が置かれていた。

虹色の玉には金属の四本の足が取り付けられており、自立するようになっており、その上部には鋭利な針状の金属のパーツが取り付けられている。

よく見れば、球の中には幾何学的な構造が見られ、明らかに今の人類が作れるようなものではない事が分かる。

「これを使えばこの生の時間をやり直す事ができる。だが、使用者の魔力が足りなければ寿命を奪われるだろう。……どうする?」

「使います」

「即答か」

「でもよいのですか? 世界をやり直しても」

「大丈夫。どうせ、使用者以外は誰も覚えていない。ならこの未来は無かったことになるだけだ」

「そう、ですか」

「戻った先でも、オレに仕えてくれよ?」

「もちろんです」

「なら、この先端の針で手を刺せ。そうすれば発動する」

「王太子殿下。ありがとうございます」

バルドは躊躇なく、その鋭利な先端に右手の平をかざし、刺した。

途端に視界に虹色が溢れ、そして意識が暗転した。

◆◆◆

「──!?」

次に気がつくと、自室のベッドの上だった。

カレンダーを確認すると、ヴァルヌス歴七年第三月二十二日。あの日から約三年前に、 戻(・) っ(・) て(・) い(・) た(・) 。

最初に感じたのは、自身の中に本来あったはずの何かが、ごっそり無くなっている感覚だった。

これが、魔力を失うということなのだろう。

バルドの魔力量は貴族としては平均的だが、特別多いわけでもない。おそらく寿命も使われている。

それでも、二人の女性を屠った犯人を探すことを諦めなかった。

そして気づく。

この時点ではまだ、アンネッタは生きているということに。

バルドは急いで身支度を済ませると、先触れも出さずにアンネッタに会いに行った。

「バルド? どうしたの? いきなり来るなんて珍しいわね?」

そこにはまだ、元気なアンネッタがいた。

「──っ」

バルドは、何も言わずにアンネッタを抱きしめた。

「ちょ、ちょ、バルド? どうしたの? バルド〜?」

訳が分からないながらも、アンネッタはとりあえずバルドの背中をポンポンと叩いた。

──ああ、いつもの君だ。

バルドの目から涙が溢れた。

「ええ!? 泣いちゃった!? 何? 嫌な事でもあったの? 大丈夫?」

それから落ち着くまで、バルドはアンネッタに抱きしめてもらっていた。

「一体、どうしちゃったの? バルドらしくもな……い」

いつの間にか人払いがされたアンネッタの部屋で、ソファーに座らされ蜂蜜の入ったホットミルクが出される。

明らかに泣き疲れた子供に出すメニューだったが、バルドは文句も言わずにそれを啜った。

「それで? 何があったの?」

「アンネッタ。体調はどうだ?」

「体調? そう言えば最近、風邪っぽい感じがするけど、それくらいよ? 寝込むほどではないわね」

「アンネッタ。よく聞いてほしい。君は呪われている可能性がある」

「は? 呪い? 私を?」

「そうだ。このままだと、一年も持たずに君は死ぬ」

「え、ええ!? だって来年にはあなたと結婚するのよ?」

「それを快く思わない者がいるらしい」

「それで、私を? 一体誰が──」

その時、アンネッタの部屋のドアが、激しく叩かれた。

「お姉様? バルド様がいらっしゃるって本当ですの!? わたくしもご一緒させてもらってもいいかしら!?」

「──シンディか」

「……そうね」

「お姉様〜? 開けてくださいまし!!」

淑女らしからぬノックの連打。

ふと、バルドは 前(・) 回(・) の(・) こ(・) と(・) を思い出す。

マリアーナと婚約中も、アンネッタの妹であるシンディはバルドによく会いに来ていた。

アンネッタの妹なので無下にもできず、興味もなかったので放置していたが、婚約関係のなくなった相手の家に、元婚約者の妹が入り浸る。

それは、どう考えても異常ではないだろうか。

マリアーナは話し相手ができたので、喜んでいたらしいが……。

それに婚約期間、アンネッタの邸宅に来ると、いつもシンディが同席していた。

婚約者同士の茶会に『何故?』と思ってはいたが、アンネッタの事しか目に入っていなかったバルドは、気にした事がなかった。

だが、よく考えてみればおかしな事だろう。

「──アンネッタ。シンディは、 い(・) つ(・) も(・) こ(・) う(・) な(・) の(・) か(・) ?」

「……そうね。私の持っているものはなんでも欲しがって、両親も甘やかしているからシンディの大抵の希望や要望は通されるわね」

「それがもし、姉の婚約者をほしいという願いも?」

アンネッタの顔が強張る。

「──ええ。そのお願いは、今年に入ってから何度もされたわ」

「──っ」

バルドの中で何かが繋がった。

「アンネッタ。今すぐ私の屋敷で一緒に暮らそう」

「え?」

「君を、みすみす殺させる気はない」

「……分かったわ。すぐに用意する」

アンネッタはバルドの真剣な様子に押されて、すぐに屋敷を出た。

その直後、アンネッタ宛にマリアーナから試用会の招待状が届いた。

バルドはマリアーナに手紙を書いた。そして、謝罪と真実を話すために会う機会を望んだ。

調べてみると、マリアーナはエリア・モナルダ公爵と婚約していた。

前回とは違う出来事に、バルドはマリアーナも前回の記憶があると踏んだのだ。

バルドはマリアーナから、承諾の返事を貰い、そうして試用会の当日となった……。