作品タイトル不明
13 エリアとアーヴィン エリアside
◆◇◆
「それで? どうしてお前はバルドに、時戻りの魔術道具を使わせたんだ? 国宝だろ? アレ」
年(・) 上(・) の(・) 甥(・) の執務室に押しかけ、エリアは疑問をぶつけた。
「いきなりだな、エリア。オレはまだ、執務中なんだが?
バルドが抜けて、人手が足りないんだよね〜」
結局バルドは王太子の側近を辞め、家族で領地に引っ込むことになったらしい。
現在は引き継ぎでバタバタしているが、通常業務からは手を引いている。
「知るか。で? どうなんだ? お前が、 側(・) 近(・) ご(・) と(・) き(・) に国宝を使わせるとは思えないんだが? そこまで親切じゃないだろう?」
「あ〜、オレが前回の記憶持ってるの、気付いてる?」
「ああ。いつ記憶が戻ったかは、知らないがな」
「記憶が戻ったのは、バルドが会いに来たときだな。試用会の前だ。彼の話を聞いて思い出した。
……しかし、エリア。お前の中のオレは、一体どういう人物なんだろうね?」
「国の為なら 多(・) 少(・) の(・) 犠(・) 牲(・) は(・) 厭(・) わ(・) な(・) い(・) 奴(・) だろ? 少なくとも信用しているとはいえ、側近如きに国宝を使うことを許可するような奴じゃない。
何かそうしなければならない理由があったんだろう?」
「そうだね。時戻しの魔術道具を使った理由は、お前だよ。エリア」
「俺?」
「お前はこの国で最も膨大な魔力を有している。そんな奴が怒りで呪いをばら撒き、魔力暴走を起こし始めたら、誰だって時を戻したくなるだろ?」
「……何があったんだ?」
アーヴィンは 前(・) 回(・) の(・) 出(・) 来(・) 事(・) を話し始めた。
結婚してから、バルドの様子がおかしくなったこと。
意を決して助言をしたが、マリアーナは呪いによって亡くなってしまったこと。
それにブチギレたエリアは魔力を呪いへと変換。
マリアーナを死に至らしめた犯人と、悪評を信じて冷遇したバルドに対して呪いをばら撒いた。
犯人の方は誰か分からなかったので、不特定多数を犠牲にした。
そして、魔力が暴走し始め、このままでは国が吹き飛ぶということで、魔女の遺産の使用を許可したらしい。
「ふうん。まあ、確かに俺なら、そうするかもしれないな」
「すでに犯人もバルドにも、手打ちは済んでいる。変な気は起こすなよ?」
「犯人は分かるが、バルドは何故?」
「時戻りの魔法具は使用者の魔力を膨大に消費するが、足りなければ寿命を魔力に変換して使う。
あいつの魔力量は平均的。相当寿命を使われただろうな」
「なるほど、あいつは生贄だったわけか? ……信用している側近に、よくそこまでできるな?」
「あいつが不甲斐ないせいで、国が滅びかけたんだ。それに、女性二人をみすみす死なせるようなボンクラだ。
こ(・) れ(・) く(・) ら(・) い(・) で(・) 済(・) ん(・) で(・) 、むしろありがたいと思ってもらいたいがね」
──やっぱりコイツ、やべー奴だな。
と、エリアは思ったが、口には出さなかった。
そういえば、王太子であるアーヴィンは、自分の妻を溺愛していたことを思い出す。
「そもそもは、お前がマリアーナ嬢とさっさと婚約しなかったことが悪かったんだ。前回でも好きだったくせに!
今回はさっさと結婚して、幸せにしてやれ!」
「なっ!? ばっ、わ、分かってるよ……」
なんだかんだ言って、年上の甥はエリアのことを弟のように可愛がっているのが分かるので、渋々ながら仕事を手伝ってやることにした。
◆
エリアがマリアーナと出会ったのは、彼女が貴族学園に入学した頃だった。
飛び級ですでに学園を卒業していたエリアは、学園の魔法系授業の顧問役として、時折様子を見に来ていた。
入学式にも出席し、そこで初めてマリアーナと出会った。
マリアーナは生まれつき魔力が少なく、生活魔法程度しか使えないらしかった。
それでも魔法に関する仕事がしたいと考えた彼女は、お守りに出会った。
お守りには能力向上のタリスマンと、悪いモノを退けるアミュレットの二種類があるが、マリアーナはその二つの効果をうまく組み合わせて、双方の効果を持ったお守りを作ることを得意としていた。
個人の希望に合わせて効果を変えることもできるし、彼女が相当努力したことが窺える。
そして、学業そっちのけで、お守り製作に打ち込むマリアーナの姿は、エリアの心を惹きつけた。
同時に、さっさと飛び級で学園を卒業してしまったことを後悔していた。
マリアーナの学年は一つ下だが、それでも好きな人と過ごす学園生活は、さぞ楽しいものになっていただろう。
だから、お守りに興味があるということにして、マリアーナと親しくなり、彼女の作ったお守りを買い取るという、売買契約を結んだ。
意外にも、マリアーナの作ったお守りは効果が確かで、試しに知り合いの冒険者たちに配布すると、確かに魔獣による影響や、病を患う人数が減っていた。
それから定期的に学園へ赴いて買い付け、マリアーナと会う頻度が増えた。
そうして、意外にも楽しい学園生活をエリアも送ったのだった。
しかし、楽しい学園生活にも終わりが来る。
学園を卒業したマリアーナは、バルドと婚約してしまった。
こんなことなら、もっと早くエリアが婚約を申し込めばよかったと思ったが、後の祭り。
今までの関係が崩れるのを恐れ、告白するのを躊躇ってしまったのだ。
それを酷く悔いた。
マリアーナはお守りのレシピをエリアに渡し、それ以来、会うことはなかった。
エリアはマリアーナが幸せになるならと、恋心に蓋をした。
だが、そうはならなかった。
マリアーナの置かれている状況を知ったのは、彼女が亡くなった後だった。
死因は、おそらく呪い。
そして、マリアーナとバルドの結婚生活の真実。
あの男は、真偽不明な悪評を信じて、マリアーナを冷遇していたのだという。
その瞬間、エリアの体を怒りが支配した。
呪いを生成し、バルドと犯人へと飛ばした。
犯人は不明だったので、呪いは不特定多数の者に作用した。
結果、王都で突然血を吐いて倒れる者が続出。
怒りと、無理な魔力の使い方によって、エリアの魔力は暴走を始める。
そして、いよいよ暴発しかけたその瞬間、意識は暗転した。
◇
「──!!」
目を覚ますと、自室だった。
「今の──は、 前(・) 回(・) の(・) 記(・) 憶(・) ?」
どうやら、アーヴィンと話をしたため、前回の記憶を思い出したらしい。
胸には、バルドとシンディへの殺意が湧くが、アーヴィンとの約束があるため、それは胸の奥に仕舞った。
シンディは王太子の立ち合いの下、すでに罰が与えられているし、バルドも寿命を削っている。これ以上、エリアが何かする必要はない。
「こんなことなら、アーヴィンと約束なんてするんじゃなかった」
普段ツンツンしていても、歳の離れた実の兄よりも兄らしい年上の甥との約束を違えるつもりはないエリアだった。