軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12 マリアーナとアンネッタ

◇◆◇

事件から一ヶ月が過ぎた頃、私とアンネッタ様──いえアンネッタは、気付けば友人になっていた。

バルド様は気を遣ってか、夜会などの必要なときにしか会わないようになった。

多分、それがお互いにとっては最善なのだと思う。

「マリアーナ、結婚式の日取りが決まったから、絶対に来てね」

「おめでとうございます。いつですか?」

アンネッタには呼び捨てにするように言われたけど、いまだに敬語は抜けない。

慣れるしかないね。

「来年の第六の月の十三日よ。招待状送るわね!」

アンネッタとバルド様はあの事件の後、すぐに籍を入れている。

家のゴタゴタのため、結婚式は先延ばしにされていたので、ようやくって感じだ。

「では、エリアと共に出席しますね」

「ありがとう。マリアーナはいつ結婚式を挙げるの?」

「まだ当分、無理そうですね。領地をいただいてしまったので、そちらが落ち着いてからになりそうです。

なのでアンネッタとバルド様みたいに、とりあえず婚姻の書類だけ提出しようかと思います」

エリアは王弟で、公爵位を持ち、魔法省に勤める大魔法使いでもある。

けれど、これまで自身の領地は持っていなかったらしい。

そこで、私との婚姻を機に大変お世話になったヴァルヌス領の管理を任されたのだ。

なので、ヴァルヌス領は、モナルダ公爵領となる。名前も変更予定だ。

ちなみに、エリアのフルネームは『エリア・モナルダ・エクレール』という。

大抵の国の王族には、家名がない……というか、国の名前がある意味、家名だ。

代わりに『守護名』と呼ばれる特別な名前を持っており、本人を守護する植物──国によっては動物や鉱物の名が与えられる。

エリアの『モナルダ』も、その守護名だ。

そして、最後の『エクレール』は、この国の名を表している。

なお、臣籍降下して貴族になった場合は、この守護名がそのまま家名になる。

つまり、エリアが臣籍降下した場合には、『モナルダ』が家名となる。

「それは良いわねぇ。婚姻さえすれば、すぐにでも子供を作れるし!」

「そ、そうですね〜」

それからアンネッタは近況を話してくれた。

そ、そうか。結婚したら、そういうこともするのか。

ん? そういう話題が出たってことは、アンネッタとバルド様もすでに……?

いや、やめておこう。友人知人のそういう想像は……ちょっと、無理だ。

アンネッタの実家はシンディが呪術に手を出したことと、子供の躾ができていないとのことで、男爵に降爵したらしい。

躾云々自体は厳重注意で済んだらしいが、この国では呪術は禁忌扱いであり、関わっただけでも重罪。シンディは実の姉を呪っていたため、このようなことになった。

本来なら、お取り潰しになって爵位を返還する様な事態だが、呪った相手が身内であり、両親は関与していなかったため、この程度で済んだらしい。あとは、侯爵家に嫁ぐアンネッタに配慮したとのこと。

当のシンディは、私のお守りによって呪い返しに遭い、呪いに体を蝕まれ、それでも辛うじて生きている状態だという。

通常の呪いは、何重もの呪い返し対策や足がつかない対策をした上で、呪術師を介してかけるらしいが、それだと効果が出るのは遅くなる。

待てないシンディはすぐに呪いの効果を発揮させ、自分で自由に呪うために 何(・) の(・) 対(・) 策(・) も(・) 挟(・) ま(・) な(・) い(・) で(・) 呪いを使えるようにしたらしい。

それを最大出力で発動させ、呪い返しのカウンターを喰らったものだから、その呪いをそのまま自分で受けることになってしまった。

その呪いは、対象の魔力を暴走させ、体の内側から肉体を破壊するというもの。

要は、魔力過多による魔力暴走と同じことを、魔力の多寡に関わらず起こさせるようなものだ。

私は魔力が少なかったから、体内を壊され、血を吐いて死ぬ程度で済んだが、魔力が多い人の場合だと周りを巻き込んでの大爆発になるらしい。

ちなみにエリアに同じことが起こると、国の機能が失われる程の大災害となってしまうらしい。

アンネッタも魔力が少ないのと、一年をかけてじっくりと呪われたため、自分自身の死だけで済んだようだ。

シンディが呪い返しで受けた呪いは、本来彼女へ向けたものではないのと、使用者が不安定だったためか、シンディの命までは奪うことができなかったらしい。

時に呪いは、呪いを成就させるために対象者の命を守ることもあるという。そのため、治癒魔法も安楽死も受け付けず、寿命までそのままらしい。

これが、『呪い』と『呪い返し』の恐ろしい所なのだとか。

「本当に、過去……いえ、未来? でもシンディはあなたに酷いことをしたわ。本当にごめんなさいね」

「いいえ。そのおかげっていうのは変ですが、やり直せてよかったと思っていますし、もう気にしてはいませんよ」

「それでね、これはマリアーナには伝えないつもりだったのだけど、私は伝えるべきだと思うから伝えるわね」

「なんですか?」

アンネッタが真剣な表情になったので、私も身を正す。

「時戻しの魔術道具を発動したのは、バルドだと知っているわね?」

「はい」

試用会の後の話し合いで説明されたからね。

「彼はその影響で、魔力をほとんど失ったの。今は生命維持程度の魔力しかないわ」

「そ、なんですか?」

「バルドの魔力は特別多い訳ではなく、貴族としては平均程度。だから魔力だけでは足りず、彼の寿命も多く使われている」

「え?」

それじゃあ、バルド様は……。

「きっとバルドは長くは生きられないわね。それでも、きっと彼は貴女を助けたいと思って時戻しの魔術道具を使ったんだと思うわ。マリアーナ。貴方、本当にバルドに未練はないの?」

「……ありません。結婚したときは、せっかく夫婦になったのだから、お互い歩み寄れればいいとは思いましたが、そこに男女の愛はなかったように思います。

話し合いのときにも言いましたが、時が戻ったときに感じたのは、彼とやり直したいでも復讐したいでもなく、もう二度と彼とは結婚しない、でしたから。

それに、私はエリアのことが好きなんです。愛しています。

その気持ちに気づいてしまったら、もうバルド様とやり直したいなんて思えません」

「そう」

アンネッタはほっとしたような表情を見せた。

なぜこの話をしたのかと思ったが、おそらく彼女は不安だったのだ。

バルド様が魔力と寿命をかけてまで時戻しを行ったきっかけは、私の死だったから。

「それより、アンネッタこそ大丈夫なのですか? 結果的には私のせいで、バルド様の命は短くなってしまいましたけど……」

「いいえ、マリアーナ。貴女のお陰で私は死ななかったし、バルドとも家族になれるの。お礼を言いたいくらいよ」

そう言って、アンネッタは微笑みながら涙をこぼした。

……もし、バルド様がアンネッタを置いて先に逝ってしまっても、私は彼女の助けになろうと固く誓った。