軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第11話 生足で風穴開けるわよ

俺のとなりに座っている眞白。

その目は女王様のときを遥かに超える鋭さがあり、背筋の凍るような感覚が走った。

眞白が足を組み替え、小さく冷気を吐く。

「別に全く、これっぽっちも嫉妬というわけではないのだけれど……でもおかしいわよね? どうして私の前で兼助が、兼助ごときがニヤリと笑っていられるの? 他の女に告白されて、粋がって……ねぇ、正当な理由を今、この場で順序正しく根拠を持って論じてくれる?」

「え、えっと……」

こんな眞白は知らない。なんだこの眞白は。

これまでの女王様モードでも、強気に出られてしおらしくなるモードでもない。

「へぇ。散々私に言葉が弱いだとか虚勢がすごいだとか言っておいて、何も言えないのね。兼助が粋がれるのは私を押し倒して、さらに醜い欲望を私の体に獣のようにぶつけるときだけなの? 変態ね。気持ち悪い。最も、私の前でのうのうと他の女のことを考えてニヤつける今が気持ち悪さのピークなのだけれど。――で、早くしてくれる?」

「っ!!!」

ダメだ。全然言葉が出てこない。

というかそもそも、眞白は今何に怒ってるんだ? 全くもってわからない。

「ちょ、ちょっと待ってくれ眞白。一旦落ち着いて……」

「はぁ? 今の兼助に私の時間をあげるわけがないじゃない。早く、説明して」

「説明というか、そもそも何を説明すればいいのかが……」

「っ! だからねぇ……」

眞白が目力を強め、言葉を投げつけるように言い放った。

「私と二回もセックスしておいて、他の女に告白されて嬉しそうにしていられるその正当な理由を説明しなさいと言っているのよ!!!」

えっと……え?

「それってつまり、眞白が粟原さんに嫉妬して……」

「――は?」

眞白の視線がナイフのように体に突き刺さる。

「だから……」

眞白が立ち上がると、躊躇なく足を俺の腹にねじ込んできた。

「グハッ! ま、眞白……なに、して……」

「私がどうして嫉妬するの? それは私が兼助を好いているという、この世で最も成立しえない前提があっての話よね? は? どういうこと? 二回寝ただけで、私が兼助を好きになるとでも思っているの? ありえない。ありえなさすぎるわ。それは兼助がひそかにスマホで読んでいるエッチな漫画の世界だけよ。現実の女の子を舐めないで死んで」

「もう死んでって言ってますよ……ってかなんで知ってんだよ」

眞白の足がどんどん深く腹に突き刺さる。

美少女の生足が……と言えば聞こえはいいが、俺はそういう癖を持ち合わせていないので嬉しくはなかった。ただ、エロいのは分かる。いや、そんな場合じゃなくて。

「どうして私がこんな気持ちにならなきゃいけないのよ……腹立たしい。腹立たしいことこの上ないわ。いっそのこと、兼助のチンケな体にこのままソファーごと私の足で風穴を開けてあげる。そうすれば二度と他の女にニヤつくことも、他の女で喜ぶこともないわよね? 思いのほかいい案だわ。うん、すごくいい」

「二度と息をしなくなりますって……」

「そこはどうにかこうにか頑張ってくれる? 兼助の領分よ」

「どう頑張れと……」

「さっきから口答えばっっかり……いい加減にして」

眞白が一度、足を引っ込める。

少し楽になったかと思えば、勢いをつけてもう一度叩き込んできた。

「ブハァッ!!!」

たぶん吐血した。じゃないとおかしい衝撃だ……おかしい、眞白はひ弱なはずなのに。

「……腹立たしい。腹立たしい腹立たしい腹立たしい腹立たしい腹立たしい腹立たしい腹立たしい腹立たしい腹立たしい腹立たしい腹立たしい…………腹立たしい!!」

「まし、ろぉ……」

助けを乞うように眞白に手を伸ばす。

しかし、眞白は俺の手を払い、最上級のブチギレ顔で言ったのだった。

「他の女に告白されたからって、私の前で嬉しそうにするんじゃないわよ――雑魚兼助のくせに」

幼なじみの俺は知っている。

眞白が今、ただの毒舌ではなくシンプルにブチギレているということを。

「……フンっ」

眞白がリビングから出ていく。

「ど、どうなってんだ……」

見たことがない、知らない幼なじみに俺はただただ困惑することしかできないのだった。

その夜。

電気を落とした部屋でひとり、考える。

「どうしたもん、かな……」

ブチギレていた眞白のこともそうだが、今一番考えるべきなのは待たせてしまっている粟原さんからの告白の返事だ。

正直な気持ち、粟原さんのような女の子に告白されたのは嬉しい。

美化委員でずっと可愛いなと思っていたし、性格も穏やかで付き合ったら絶対に楽しいと思う。何ならいい奥さんになりそうというか、優しく包み込んでくれそうというか……もはや結婚したい。

こんなの誰に聞いたって付き合った方がいいに決まってる。

「…………」

冷静になってそう思うのに、ここ最近の眞白がずっと頭にちらついていた。

『け、兼助は…………はじめてじゃないの?』

『おはっ……よ、ようじゃない、わよ……吞気な顔して……』

『…………きょ、今日は勘弁して……お願い……よ…………』

『…………意気地なしじゃないところもあるのね、少しくらいは』

眞白の声が鮮明に思い出される。

それに、眞白との二回の夜だって……。

『んぁっ……けん、すけ……けんす、けっ……!!』

「っ!! 何思い出してんだ俺は……! しかも、粟原さんの告白の返事を考えてるときに……俺は不埒なのか⁉ 最低なのか⁉」

よくない。こんなのよくない。

粟原さんの気持ちに失礼だ。ちゃんと、全部を持って向き合わなければ。

「…………はぁ。眞白、か」

それでもやはり、眞白のことが脳裏によぎってしまった。

ずっと幼なじみだった。女王様気取りで上から目線で、強気で下っ端扱いしてくる、ちょっとヤな女の子だった。

でも、今は……。

「分けて考えらんないのか……これは」

ひとり、ぼんやりと天井に呟いた。

▽ ▽ ▽

翌日。

昼ご飯を食べ終え、教室を出ようと立ち上がる。

そのとき、眞白が待っていたかのように俺の前に立ちふさがった。

「どこに行くつもり?」

「え?」

「どこに行くつもりなのかって聞いてるのよ」

「えっと……体育館裏に」

「ふぅん、そ。他の女に会いに行くのね」

「他の女って……」

いや、眞白からしたら他の女なのかもしれないけど。

「いいご身分ね。兼助のくせに」

「な、何が言いたいんだよ。というか、何がしたいんだよ眞白は」

「別に。兼助に言いたいこともしたいこともないわよ。というか、逆にあるとでも思っているの? それは自意識過剰だわ。あまりに過剰ね。可哀そうに。同情はしていないけれど」

「そ、そうですか。じゃあ俺はこれで……」

しかし、俺の前から決してどこうとしない眞白。

俺をキッと睨み続けている。

「な、なんだよ」

「そっちこそ何? 私はただここに立っているだけだけれど? まぁ? 目の前には他の女に会いに行こうと必死な雑魚兼助がいるけれど」

「小学生の口論みたいだな……」

「行きたいなら早く行けばいいじゃない。私は立っているだけだもの。別に、兼助を行かせたくないとか、そんな可愛らしい女の子のようなことは少しも微塵もこれっぽっちも思っていないから。ほら、早く行けば?」

「わ、わかったよ」

眞白の横を通り、教室を出ていく。

きっと単に気に食わないのだろう。

あれだけ煽り、小馬鹿にしてきた俺が告白されるのが。

「……ほんとに面倒だな。俺も」

体育館裏。

目の前には粟原さんがいて、緊張した面持ちで俺の言葉を待っていた。

少し話した後、単刀直入に切り出す。

「その……ごめん! もう少しだけ、考える時間をもらってもいいかな?」

「……えっ?」

粟原さんが驚いたように小さく口を開けた。

「ほんとにごめん。ただでさえ昨日も待ってもらったのに、またなんて……でも、俺なりにちゃんと考えて答えを出したいというか、勢いで返事する方が失礼というか……いや、俺が優柔不断で情けないだけなんだけど……その、ほんとにごめん!」

勢いよく頭を下げて、ハッと我に返る。

何俺は捲し立てて……。

「ぷっ。あはははっ!」

「……え?」

な、なんで粟原さんが楽しそうに笑ってるんだ?

「ごめんごめん。なんか北くんらしいなって思って」

「お、俺らしい?」

「変に真面目っていうか、色々……上手じゃない? っていうか」

「それ、割と悪口では……」

「あ、ごめんね? そういうつもりじゃなかったの」

粟原さんがクスっと笑い、続ける。

「気にしないでいいよ? 考える時間のこと。私こそ、委員会で話したくらいで遊びに行ったりしたこともないのに、急に告白しちゃったし」

「そ、そっか」

「でも、一か月とか待たされたら困るかも。あ、困ります!」

「大丈夫! 今週中……金曜までにはちゃんと返事するから!」

「うん、わかった」

粟原さんが優しく微笑む。

俺としてはかなり最低のことをしていると思っていたし、嫌われてもおかしくないと思っていたが……まさかここまで優しさに溢れているとは。あなたは天使だ。

「あ、な、なんか飲む? 奢るよ!」

「そんなに気を遣ってくれなくてもいいのに」

「っ! つ、遣ってない! 遣ってないから!」

「え?」

「あっ、遣ってる……けど、そんなにというか……お気持ちだけでも、みたいな?」

俺がたどたどしく言うと、粟原さんは楽しそうに笑って「そっか」と呟いた。

「じゃあお言葉に甘えて、うーん……うん、いちごみるくで」

「へぇ、いちごみるく……」

「あ、茶道部なのにお茶じゃないんだ、って思ったでしょ?」

「……お、思いました」

「ふふっ、だからだよ。お茶苦いし」

「茶道部も苦いんだ……」

「実はね」

やはり、粟原さんと話すのは楽しい。

でも、告白を保留した。

それは俺の中に、眞白に対しての感情があったから。

――俺は眞白をどう思っているのか。

それをはっきりさせて、粟原さんの告白に誠実に向き合いたい。

「北くんって、優しいだけじゃなくて面白いよね」

「え、面白い? 俺が?」

「うん、羨ましい」

「面白いが羨ましい粟原さんも、面白いと思うけど」

「あ、一本取られちゃったなぁ」

「え、なんの一本?」

粟原さん、意外に天然なところもあるんだな。

そういえば。

粟原さんはどうして俺を好きになってくれたんだろう。

そんなことをぼんやりと考えながら、自販機に硬貨を入れた。

「…………フンっ」

――こうして。

眞白に対する気持ちをはっきりさせようと決めた俺だったのだが……。

「何をボーっとしているの? ……はぁ。どうせまた、他の女のことを考えているんでしょ? 最低ね。私にあれだけのことをしておいて……ほんと、ありえないのだけれど」

俺の家のソファに座り、眞白が俺を睨みつける。

以前の眞白でも俺の家に来るのは一週間に一回くらい。そう頻繁には来なかった。

……なのに。

「(なんで昨日に引き続き、今日もまた俺の家にいるんだよ……)」

今まさにわかりたいのに、ますます眞白がわからない。