軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第10話 溢れ出す“白”と“黒”

放課後の学校。

日中とはまた違った騒がしさが漂う中、廊下をひとり歩く。

「あ、北っちだ~」

教室に帰る道中で、長谷が「やっひょ~」とやってきた。

「こんな時間に何して……って」

「ん? どうかしたか?」

「いや、その~……なんでそんなニヤケてんの? ってかキモいよ? 控えめに言って」

「控えめでキモいなのかよ……」

控えなかったらどうなっちゃうんだよ。知りたくないけど。

「なんかいいことでもあったん~? あ、もしかしてましろんと……」

「……実は告白されて」

「ましろんに⁉ あ、ましろんだ! ましろんか~。うんうん、ましろんね、ましろん」

「人の話を聞け」

こほん、と咳ばらいをして続ける。

「 粟原小百合(あわらさゆり) って知ってる? A組の」

「あ~あの茶髪茶道部美少女?」

「中国語かと思ったわ。まぁそうなんだけど」

「へ~」

長谷はぼけーっとし、少し経ってから、

「え、あの粟原小百合⁉ に、北っち告白されたの⁉」

「お、おう。俺も驚いてる」

「おしとやか~でむちゃせいそ~で、にんき~の子だよね? ごめんだけど、なんで北っちが? ごめんだけど。えとごめん」

「謝りすぎて逆に辛い」

過剰フォローは仇となるから。

「いや、美化委員で一年から関わりあったし、仲良かった方だとは思うんだけど……ほら最近、眞白と付き合ってる疑惑あったじゃん?」

「疑惑っていうか事実っしょ~?」

「いつまで言ってんだよ。で、そんときに……まぁ、好きなこと自覚してくれたみたいで」

「ほぉ」

「そのタイミングで疑惑が晴れたから、告白するしかないって思ってくれたらしい」

「ほぉ……なるほぉ……で、おっけ~したの?」

「いや、それは……」

「だよね~。だって北っち、ましろんと付き合ってるもんね~。浮気あかんよ。うん。浮気、あかんよ!」

「だから付き合ってないって!」

どんだけ俺と眞白が付き合ってるってことにしたいんだよ。

「情けないんだけど……返事はまだ、出来てない。突然のことでびっくりしたし、ちゃんと考えたいからって……まぁ、待ってもらってる。ほんとに情けないんだけど」

「ほぉ…………キープか」

「ちげぇよ」

なんてツッコみを入れていると、教室が見えてきた。

「ん?」

教室の扉から、時折ひょこっと頭が出てくる。

辺りをキョロキョロ見て、引っ込んだと思ったらまた出てくるのを繰り返していた。

さらに俯いて、何やらブツブツと呟いていて……。

「遅いわね……兼助のくせに何して……はっ! ま、まさか校舎裏でそのまま……け、兼助ならありえるわ……だって、私にあそこまでがっつくほどの性欲を持て余す、ど、ど、ど……変態、だし……癪に障るわね……どうして私がこんなことしなきゃいけないのよ……で、でも、万が一、千が一……いや、百が一でもそんなことがあったら……っ!」

揺れる艶やかな黒髪。

……ってか、

「ま、眞白?」

「っ⁉」

眞白が驚いたように目を見開き、慌ててサッと胸の前で腕を組んだ。

「……な、何?」

「いや、それはこっちのセリフなんだけど……ってか珍しいな。放課後に残ってるなんて」

「っ! そ、それは……」

眞白が言いよどむ。

「あ、そうか。長谷を待ってたのか」

「! そ、そうよ。この後、八江子と用事があって……」

「なるほど。だから長谷も珍しくこんな時間まで……」

「え? ましろんと用事ないし、保健室でお茶飲んでただけだけど~?」

「「……え?」」

俺と長谷の視線が眞白に注がれる。

「え、えっと……というか、なんで保健室でお茶飲んでるのよ」

「私、保健室登校の子とお茶友だから。あと保健室は茶が美味い」

「知らんがな」

ん? だったらなんで眞白は残ってたんだ?

いつもまっすぐ帰るのに……。

再び、視線が眞白に集まる。

「っ! み、見るんじゃないわよ……」

「もしかしてましろん……北っちのこと、待ってたんじゃないの~?」

「っ⁉ そ、そんなわけないでしょ? ど、どうして私が兼助を待たなきゃいけないのよ。兼助は待たれる側じゃなくて、私を待ち続けて結局来てもらえない側でしょ? 逆よ逆」

「なんで待つ側な上に来てもらえないんだよ」

待ち損じゃねぇか。

眞白がフンっと不機嫌そうにそっぽを向く。

しかし、俺の前から立ち去ることもなく、しばらくしてモゴモゴと何か言い始めた。

「……で、け、兼助は、その…………どうしたのよ」

「え、何がだ?」

「そっ、それは……その……こ、告白されたんじゃないの?」

「あー、それなら――」

「北っち、おっけ~するどころかその場でぶちゅっと舌入れまでかましたってさ~」

「えぇ⁉⁉⁉」

眞白が明らかに取り乱す。

取り繕う余裕すらなく、どこか焦っているようにも見えた。

「な……な……な……」

口を開けたまま言葉が出てこない眞白に対し、長谷がニヤリと笑って言った。

「ま、嘘なんだけどね~」

「⁉」

「なんかキープ? みたいな~?」

「それも違うから。待ってもらってるだけだから」

「嘘と写メは盛るのが私の主義なんだよね~」

「最悪の主義だな……」

呆れてため息をついていると、眞白はひとり固まり、やがて、

「…………ほっ」

「「…………ほっ?」」

首をかしげる俺と長谷。

眞白の顔は見る見るうちに真っ赤になり……。

「あっそ!!」

そう言い放ち、ふんぞり返って自分の席に座った。

なんだ今の反応。

というか、俺に嘘をついてまで教室に残って、わざわざ告白のことを聞いてくるなんて……もしかして。

「……眞白の奴」

眞白の席の前まで行き、机に手をついて顔をグッと近づける。

「な、何よ」

俺を睨みつける眞白に対し、俺は自信満々に言い放った。

「もしかして、告白が気になって俺のこと待ってたんじゃないのか? 律儀に、わざわざ」

「っ! そ、そんなこと……ありえないでしょ? どうして私が兼助なんかを気にして……」

「じゃあなんで残ってたんだよ」

「そっ、それは……別に……」

「そういえば、俺がラブレターもらってから妙にそわそわしてたよな?」

「っ!! じ、自意識過剰なのもそこまでにしなさい。さもないと……」

「気になってたんだろ? 俺が、告白されるのが」

「っ!!!」

もう一押し強気に出ると、眞白が俯き押し黙る。

肩をぷるぷる震わせると、小さな声で絞り出すように呟いた。

「…………そ、それでいいわよ……もう……」

しおらしい眞白の表情に思わずドキッとしてしまう。

「えっ、と……」

「な、何よその反応……兼助が聞いてきたんでしょ?」

「いや、そうなんだけど……素直に認めるとは思ってなくて」

「っ! み、認めてはない……というか、仕方なく折れてあげただけというか……まぁ、兼助の好きにすれば? ……フンっ」

最近の眞白は、本当に……。

「……ふへ、イチャイチャしてるぅ~」

「「してない!!」」

長谷ひとりだけ、なんだかすごく楽しそうだった。

夜。

ひとりソファーに座り、コーヒーを飲みながらテレビを見る。

穏やかな夜の時間を満喫していると、インターホンが鳴った。

「はいはーい。どちら様で……」

ドアを開け、立っていた人物を見て驚いた。

動くたびに尻尾のようにゆらりと揺れる、ひとつにまとめられた長い黒髪。

服装はダボっとしたTシャツにショートパンツで、あの日とほぼ同じ格好だった。

「……何見惚れてるのよ。というか、そんなエロい目で見ないでくれる? 幼なじみを」

仁王立ちの眞白が俺を睨みながら言った。

「わ、悪い……じゃないじゃない。見惚れてないしエロい目で見てないから」

「強がりは産業廃棄物以上にゴミよ」

「どの口が言ってんだよ……」

「! ……うるさい。早く入れなさい」

眞白がずかずかと家に入ってくる。

こうして、眞白が家にやってきたのはもちろん二回目の行為以来。

ただ、あのときはたまにある夕飯のお裾分けだったし……。

「な、なんで今日は俺の家に?」

「は? 理由なんているの?」

「人の家なんだからいるだろ。それに……」

今の眞白が俺の家に来るのに、理由がなきゃおかしい。

「お、お菓子」

「え?」

「お菓子を食べに来たのよ。それだけだから」

そう言って、眞白は自分の家かのようにキッチンを漁り始めた。

勝手にお菓子を出し、紅茶の用意までしている。

「そ、そうか……」

俺は困惑しながら、ひとまずソファーに座った。

でも、俺と眞白がヤる前ならこれも当たり前のことだった。

何もおかしくない。何もおかしくない……けど、何かが確実におかしい。

「…………」

黙ってコーヒーを飲んでいると、眞白がカップとお菓子を持ってソファーにやってきた。

そして何食わぬ顔で――俺のすぐとなりに座った。

「……え?」

惜しげもなくさらされた、白くて滑らかで肉付きのいい太ももがすぐそこにある。何なら少し触れていた。

「何? 何かおかしい?」

おかしい。おかしすぎる。

眞白は普通、俺のとなりになんか座らない。

同じソファーに座っても、かなり距離を開けるのが常だ。

「はっ!」

――俺は知っている。

眞白をツンデレとした場合、ツンデレの特性として貯まりに貯まったツンは長い熟成期間を経て“デレ”となる。

ということは、これがいわゆる“デレ”のはじまりで……。

「――私、我に返って思ったのだけれど」

眞白は足を組み、頬を赤らめ――ることなく。

「どうして兼助は私の前で、知らない女に告白されたことを嬉々として話し、ニヤニヤすることが出来るの? ――私と二回もセックスしておいて」

汚物でも見るかのような目で言い放った。

……あ、あれ? 思ってたのと違うんですけど。